【155555】 設定内容


1 誰視点 → 御園生翠葉

2 カップリング → 御園生翠葉 × 藤宮司

3 設定 → 結婚していて、翠葉さんが妊娠している。
       おうちでリラックスしていてピアノかハープを弾いている。
       後ろから、司が翠葉さんを抱っこしながら音楽の話などをする。
       (お腹の子に音楽を届けるようなイメージ)

★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。

2012/05/09(改稿:2012/10/16)

 ぬくもり 01 − Side 御園生翠葉 −


 藤宮翠葉(ふじみやすいは)、と名前が変わってから丸三年。
 四月に入り、私は“臨月”を迎えていた。
 ツカサと私の赤ちゃん。性別は男の子とわかっていて、名前は目下考え中。
 考え中と言っても、すでにいくつかの候補が挙がっている。今はその中のどれにしようかと悩んでいるところ。
 最初のうちは、私が決めるのを待っている素振りだったツカサも、途中からは一緒に考え始めてくれた。  まだ性別がわからない頃から考えていた私たちは、男の子でも女の子でも困らないように、といくつかの候補を出していた。
 ツカサが考えていた名前は“叶光(やすあき)”と“叶羽(とわ)”。私が考えていたのは“雪(ゆき、せつ)”と“和司(かずし)”。
 叶光と和司は男の子にしか使えないけど、叶羽と雪なら男女どちらにでも使える。でも、“ふじみや”につなげるのなら、名前は二文字よりも三文字以上のほうが座りがいい、などと新たなる悩みも加わった。

 今日はツカサの仕事がお休みということもあり、結婚してから恒例となっている藤山へお散歩に行って帰ってきたところ。
「翠、帰ったら手洗いうがい」
「わかってるよ」
 苦笑して答える。
 もう、ずっと前からの習慣だというのに、妊娠してからツカサが一層厳しくなった。それだけ私の体を心配してくれている、ということなのだけど……。
 妊娠初期はつわりがひどく、管理入院していた時期もあった。けれど、今はマンションで比較的穏やかに過ごしている。
 安定期に入っても胸のムカムカはなくることはなく、常に眩暈との闘いだったけど、このくらいなら我慢できるかな? という程度。
 湊先生曰く、「そこらの妊婦よりも翠葉のほうがこの手の症状には耐性があんのよ」らしい。言われてみれば、吐き気や眩暈といった症状は、長らく低血圧と付き合ってきたおかげで対処の仕方は心得ているし、それが常時……なんてことは珍しくない。
 珍しいことじゃないからこそ、すぐには妊娠に気付けなかった。
 結婚してからピルを飲むのはやめていたけど、基礎体温は真面目につけていた。それでも気付けなかったのは、慢性疲労症候群(CFS)で発熱が続くことがあるからである。
 37度台ならば少し動きすぎたかも、と行動を自粛すればいいと認識する程度で、取り立てて異常だとは思わない。
 ごく一般的な気付き方だけども、“異常”に気付いたのは生理が遅れたことから。
 私の生理は、始まった頃からずっと腹痛がひどかった。でも、生理周期が早まることはあっても、遅れることや止まることはなかったのだ。
 夏になると、自律神経がちゃんと働かない私は熱中症になりやすい。発汗作用を怠る体のせいで、夏の間中、体に篭った熱が原因となり常に発熱しているような状態にある。外気が暑く体自身が熱い、ともなれば必然的に血管は開き、血圧は下がるわけで……。吐き気や眩暈はそれに伴うものだと思っていた。
 月半ばに来なかった生理を不思議に思いつつ、遅れることもあるのね、と片付けたのは私。一週間遅れたところで検査薬を買ってきたのはツカサ。
 まさか、と思いながら検査薬を使った私は陽性反応を目の当たりにして絶句した。ツカサは、やっぱり、といった感じで、目を白黒させている私を見て呆れてた。
「こういうのって女のほうがすぐに気付くもんなんじゃないの?」
「……だって、微熱はここ数ヶ月続いてるし、夏に血圧が下がって眩暈や吐き気がひどいのは毎年のことだもの」
「………………」
「それに、私はお医者様じゃないけどツカサはお医者様でしょ?」
「…………とにかく、明日にでも婦人科行って。診察券は俺が通しておくから」
「はい」
 こんな具合に妊娠が発覚した。

 マンションのエントランスを通るとコンシェルジュに迎えられる。
「おかえりなさい。翠葉ちゃん、だいぶお腹が目立つようになったね?」
 声をかけてくれたのは高崎さん。
「はい」
「臨月って来月? 再来月?」
 私は笑って答える。
「実は今が臨月です」
「えっ!?」
 高崎さんは目を見開いて私のお腹に目をやる。
「目立つようになったな、とは思ったけど、まさかもう臨月とは……」
「少し小さい子みたいですけど、問題なく順調に育ってるんですよ」
「そうなんだ。予定日、訊いてもいい?」
「あ、はい。四月二十日です」
「ご家族とは頻繁に連絡取ってると思うけど、何かあればすぐに連絡ちょうだいね? いつでも駆けつけるから」
「ありがとうございます」
 私たちは会釈してエレベーターホールに向う。それは、エントランスから見える場所にあるものではなく、通路の一番奥にある静さん専用と言われるエレベーターへ。
 もともとは湊先生が住んでいた家がツカサ名義となり、そこで新生活をスタートさせたわけだけど、私の妊娠が発覚すると、すぐに住居トレードが行われた。
 ゲストルームに住んでいた蒼兄と唯兄が私とツカサの住んでいた十階に移り、私とツカサがゲストルームに下りた。
 万が一、家で何かあったとしても、ゲストルームと静さんの家は部屋内部の階段で行き来できるため、湊先生がすぐに駆けつけられるから……というもの。
 これはほかの誰でもない、湊先生の鶴の一声で実行に移された。
 普段、日中は両親や栞さん、湊先生、唯兄や蒼兄、秋斗さんが出たり入ったりしている。ツカサが当直でいない日も、必ず誰かしらが泊まりに来てくれていた。食べ物を口にできるようになってからは、昼食も夕飯もひとりで食べることはなく、たいてい誰かと一緒に食べている。
 ただ、ツカサが休みの日だけは誰も来ない。時々、いつもは連絡せずに来る両親が、連絡をしてから来るくらい。
 あとは、ツカサが嫌がるのをわかっていつつ、湊先生や秋斗さんが面白がってちょっかいを出しに来るくらい。
 こんなふうに、たくさんの人に見守られながら妊娠期間を過ごしてきた。

 手洗いうがいを済ませ、ルームウェアに着替えると、すでにツカサがキッチンに立っていた。
 慌ててキッチンに向うと、
「走るの禁止」
 と、すぐにツカサに止められる。
 まるで、「だるまさんが転んだ」を言われたときのようにピタリ、と足が止まるから不思議。
「別に止まれとは言ってない」
「言われてはないけど、だるまさんが転んだ、って言われた気になる」
 ツカサの言葉には言霊が宿ってるんじゃないか、とたまに思う。
 私の言葉に首を傾げながらもツカサの手は止まることなく動く。包丁がまな板にあたる、スコンッ、という小気味いい音が何度も聞こえていた。
「何、作ってるの?」
 歩いてキッチンに近づくと、まな板の上には果物と野菜が適当な大きさに切られていた。
「ミックスジュース。ほか、何が食べられそう?」
「なんでも食べられるとは思うけど、できればあっさりしたものが食べたいかな……?」
「じゃ、和風パスタ作るから…………」
 じっと私を見て、
「頼むから、そっちで座っててくれないか?」
「……過保護だなぁ」
「………………」
 言い返してこないのは、自覚があるからだと思う。それでも、湊先生や栞さん曰く、「男なんてそんなものよ」だそうなので、今はその過保護という優しさに甘えることにしている。
 でもね、やっぱりお休みの日は一緒にいたいの。同じ空間というなら、“家”という空間にいることになるけれど、もっと近く――同じ部屋にいたいの。
「椅子に座ってるから……だからキッチンにいてもいい?」
 訊くと、キッチンに常備してある折りたたみの椅子をすぐに出してくれた。私は椅子に座ってツカサを眺めていた。
 もともとなんでもそつなくこなすけど、本当に手際がいい。もしかしたら、主婦の私よりも手際がいいかもしれない。
 すべての材料を切り終わると、ミキサーにかけるものはミキサーへ、春キャベツは水切りカゴへ、大葉はまな板に置いたまま。
 クッキングヒーターにはフライパンが二つ。右のは大きめで、左のは右のものより一回り小さい。
 大きいほうにはお水が張ってあり、小さいほうにはオリーブオイルを入れた。大きいほうのフライパンは強火で、小さいほうのフライパンは弱火。
 そこまですると、次はミキサーに手をかける。果物と野菜の他に水を少量と氷を4つ。
 最初は短くフラッシュボタンを押すだけ。入れた氷がガリガリと音を立てる。何度かフラッシュボタンを押すと具材が粗方砕かれ、滑らかにミキシングできるようになった。2分もすれば固形だった果物や野菜は見事なまでに液体へと化する。
 オレンジ色をしたジュースをふたつのグラスになみなみと注ぎ、振り返りそれを渡された。
「ありがとう」
 私がグラスを受け取ると、ツカサはクッキングヒーターの前に立った。
 お水が張ってあった大きなフライパンのほうはグツグツと沸騰しており、そこに塩を少し入れてからパスタを入れた。お鍋で茹でるよりもフライパンで茹でるほうがお水が少なくて済み、水はすぐに沸騰する。さらにはお塩も少しで済むため、我が家ではフライパンでパスタを茹でるのが常套手段だった。
 ツカサは時計に目をやり、自分のグラスを手に取った。
 ただ見てるだけでも良かったんだけど、何か言葉をかわしたくて、
「美味しいね?」
 声をかけると、
「あぁ……これなら翠も分量とれるから、出産終わっても続けたら?」
「うん、そのつもり」
 ほんの一言二言の会話でも嬉しいと思う。
 私は未だにたくさんのものを食べることができない。けれど、妊娠を期に果物や野菜をミキサーにかけてしまうと、意外と食べられることに気付いた。
 これは栞さんの作ってくれる野菜のドロドロスープからヒントを得たもの。
 ツカサはグラスを一気に傾け飲み干すと、今度は小さいフライパンの前に立ち、あらかじめ切ってあった春キャベツを炒め始める。キャベツにざっと火が通ると、隣のフライパンからパスタの茹で汁をお玉二杯。そこに出汁の素を一袋入れる。
 茹で上がったパスタの水切りをすると、大きなフライパンに小さなフライパンの中身を移し、さらには湯切りしたパスタもフライパンに戻した。春キャベツとパスタとスープを絡め、強火でスープがある程度減るまで煮立てる。水気が少なくなってきたところで火を止め器に盛る。
 それで終りかな? と思っていたら、作業台に置いてあったシーチキンの缶詰を開け、パスタの上に乗せ始めた。
 冷蔵庫から、昨日使いきれなかった大根おろしを取り出してはそれをトッピングする。最後に、まな板に放置されていた大葉の千切りが散らして完了。
「はい。春キャベツの和風パスタ」
「……すごーい」
 あっという間だった。二十分経たないうちにご飯ができた。
 ジュースを一杯飲んだ後ということもあり、分量はいつもよりも抑えてくれていた。そんな気遣いがとても嬉しい。
 美味しいパスタを食べ終えたあと、予想を裏切らずに睡魔に襲われる。
 血糖値が上がるうえに、消化に血を持っていかれるのだから仕方ない……とはいえ、せっかくツカサがお休みの日なのにもったいなくも思う。
 こんなことは妊娠する前からのことだけど、いつものことなのだけど――どうしてか、今日はとても離れがたかった。



 ↓↓↓楽しんでいただけましたらポチっとお願いします↓↓↓


 ネット小説ランキング  恋愛遊牧民R+    


ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。


↓コメント書けます*↓

→ Next

このお話のTOP / キリ番リクエストSS TOP / 光のもとでTOP / サイトTOP

家具

テンプレート