【88888】 設定内容


 【88888】のキリ番はスルーされてしまったため、読者様にご協力いただき、匿名で【お題】の募集をいたしました。
 たくさん頂いた【お題】の中から、私が書きたいと思ったお話を書かせていただきました。

1 誰視点 → 御園生翠葉

2 カップリング → 御園生翠葉 × 相馬一樹

3 設定 → 恋人設定。
       相馬先生と翠葉ちゃんの初デート。
       雰囲気は甘甘で。


★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。

2011/11/18(改稿:2012/10/16)

 Age difference  − Side 御園生翠葉 −


 どうしようっ!? 何、着ようっ!?
 私は一週間前から悩んでいたにも関わらず、当日になった今ですら何を着て行ったらいいのか決められずにクローゼットを引っかき回していた。
 もう無理っ。
「蒼兄っ、唯兄っっっ」
 部屋から顔だけを出し、兄ふたりを呼ぶ。
「ん?」とすぐに姿を見せたのは唯兄で、その後ろから蒼兄がやってきた。
「わ……何事!?」
 部屋に散らかる洋服を見て唯兄が驚く。
「う゛……あの……今日、相馬先生とお出かけする約束してて…………」
「あ、な〜る」
 唯兄はポンと手を叩き、蒼兄はそれらをまじまじと見て、
「……何を着て行ったらいいのか悩んでるわけか」
 と、確認するように口にした。
「だって、相馬先生大人だしっ。どんな服装していったらいいのかなんてわからないよ……」
 唯兄はにまにまと笑い出し、蒼兄はハハハと笑いながら私の頭をポンポンと二回叩いた。
「あと十分したらおうち出なくちゃなのっ」
「ふーん。で、どこに行くって?」
 唯兄に訊かれ、
「薬師寺に行ってから植物園」
 答えると、吹き出すほどに笑われた。
「なんで笑うの?」
 訊いたのは私なのに、
「それ、どっちのチョイス?」
 と、蒼兄に尋ねられる。
「えと……決めたのは相馬先生だけど、好きな場所を訊かれて答えたのは私」
「どっちもどっちか……」
「え? なんで? 変っ!?」
 唯兄は笑ったままで答えてくれそうになかったから蒼兄に訊く。
「いや……いいと思うよ」
 にこりと笑った蒼兄が洋服に目をやる。
「そんなかしこまった格好していく必要はないし、相馬先生との年の差もあまり気にしなくていい場所だと思う。街中を歩くわけじゃないんだ。翠葉らしい格好でいいんじゃない? たぶん、相馬先生もそう思ってのチョイスだったんじゃないかな」
 そう言われてみれば……。どこに行くって話しをしたとき、映画とかショッピングとか、そういう案はあがらなかった。
 候補にあがったのはドライブ、美術館、寺院めぐり、先生のおうちでDVD鑑賞。そのくらいだった。
 結果、当日の天気がいいということもあり、ドライブと寺院めぐりが兼ねられる場所になった。たまたま近くに植物園があったことから、そこにも経由してくれることになっただけ。
 「リィ。これは?」
 唯兄が手に取ったコーディネートは、襟がたっぷりとしたボルドーのタートルネックと、形がシンプルできれいなブラックデニムのロングスカート。
「んで、碧さんのからし色のストールを上に羽織って、足元もからし色のエンジニアブーツ。あとは俺のショルダーバック貸したげる」
 唯兄のショルダーバック……?
「あっ、この間私がかわいいって言った、からし色に茶色がきいたショルダーっ!?」
「ピンポーン!」
「嬉しいっ!」
「うん、それなら翠葉っぽいんじゃない? ほら、早く着替えちゃいな」
「ありがとうっ」
 ふたりが部屋を出てから急いで着替えた。
 ドアを開けると唯兄が、「ほら」とバックの口を開けた状態でそれを渡してくれる。
「ハンカチ、ティッシュ、携帯にお財布。それからピルケース。OK?」
「翠葉、カメラは?」
「あ、コンデジコンデジ……。あ、ミネラルウォーター買ってなかったっ」
「「んなの、途中で買えばいい」」
「……うん、そうするっ」
 家を出ようとしたら、蒼兄に「ちょっと待って」と言われる。
「何?」
 振り返ると、
「行きはマフラーにしてったら?」
 と、黄色のストールをシンプルに首に巻かれた。
「今はまだ寒くないと思うから」
 にこりと笑うその表情につられて私も笑う。
「寒くなったらちゃんと羽織るように!」
 唯兄に念を押されて家を出た。

 エントランスで葵さんに、もうお越しだよ、と言われて焦る。
 慌ててロータリーに下りると、白い車が止まっていた。車には知らないマーク。だからきっと外車。
「迎えに来させといて二分遅刻とはいい度胸だ」
「先生ごめんなさいっ」
 運転席に座る先生に駆け寄ると、
「はーしーるーなっ。……それと、今日は“先生”禁止だ」
 と、デコピンされた。
 運転席が左ということもあり、先生は車から一度下り、車が来ないのを確認して助手席のドアを開けてくれる。
 こういうところ、本当に優しいと思うの。
「今日の格好は紅葉みたいだな」
「変、ですか……?」
「いや? ワンピース着てないと珍しいとは思うが、変じゃない。背伸びもしてないし、いいんじゃねぇの?」
「………………」
「お前、頭悪いんだから、あんま考えんな。服装なんてどうでもいい。ただ……焦んな。背伸びしすぎんな。お前のペースで年をとれ。あと二年も経ちゃもっといい女になる」
 いつもよりも優しく見える眼にドキリとした。
「ま、そしたら俺は四十路なわけだがな。ケケケ」
 普段から口は悪いけど、根っこの部分はとても優しい。初めて会ったとき、思い切り怖がってしまったのが申し訳なくなるくらい。
 私は先生と出逢ったその夏に、先生を好きになった。退院してからずっと、先生に好きと伝え続けて一年。
 よくやく想いが伝わった――。


     *****


「年の差がいくつだかわかってんのか?」
「わかってます」
「言ってみろや」
「二十歳」
「翠葉の両親と俺の年の差は?」
「九歳」
「おつむの悪そうなお嬢ちゃんに問題だ。俺の年は両親とお嬢ちゃんのどっちと近い?」
「両親、です」
「おぉ、足し算引き算、数の大小くらいはわかるんだな? そういうことだから諦めろや」
「やですっっっ」
 こんなやりとりを何度したか数え切れない。けれど、先週は違った。
 いつもと同じように「やですっっっ」と全力で答えたら、「わかった」という言葉が返ってきた。
「え? 先生、今、なんてっ!?」
「…………わかったって言ったんだ。おら、お前んち行くぞ」
「えっ!?」
「…………俺の負けだ。今日で好きだって言われて一年だ。よくもまぁ懲りずに……」
 先生独特の嘲ったような表情でそう言うと、その表情がくしゃりと崩れる。
「っっっ…………」
 不意打ちで破顔なんてずるいっ。
「二十も年離れてんだ。そこらの高校生が付き合いましょう、はい、そうしましょうってーのとはわけが違う。承諾は得といたほうがいい」
 そう言われ、そのまま先生と幸倉の家へ両親に会いに行った。
 私がお付き合いすることになったと伝えると、お父さんが苦笑する。
「先生……なんていうか、翠葉は許可とか承諾を貰いに来たつもりが全然ないっぽいんですけど……。聞きました? 今、翠葉、満面の笑みで『付き合うことになりました』って言いましたけど?」
「…………す〜い〜はぁっっっ」
 怒鳴らんばかりの声で名前を呼ばれても嬉しいって何かな?
 にこにこ笑いながら「なんですか?」って訊いたら、お父さんとお母さんと先生の3人が大きなため息をついた。
「うちはなんの問題もないので……」
 とお父さんが口にすると、
「こんな娘ですがよろしくお願いします」
 とお母さんが言葉を継いだ。
 ふたり揃って頭を下げると、先生は「やめてください」と慌てだす。
 そんな先生を見れることすら新鮮で、私はただただ嬉しくてしょうがなかった。


     *****


 それから一週間後の今日は初デートの日。
 車が走り出して少ししてから、「あ……」と思い出す。
「先生、私、お水を持ってくるの忘れてしまって……」
「先生禁止……」
「う゛……」
「二十歳差だぞ? 先生なんて呼ばれたらどんな関係かと思われるだろうが……」
「でもっ、先生、なんて呼んだらっ!?」
「ほぉ……バカだな。言ったそばから呼んでんなや」
「あっ、ごめんなさいっっっ」
「名前でいい」
「……相馬、さん?」
「それ苗字って言わねーか?」
「かかかっっっ、かずっ、かずっ……一樹、さんっっっ!?」
 口にして一気に頬に熱を持つ。
「くっ……面白れぇ。別に呼びやすいなら“かず”でもかまわねぇけどな」
「……そっちのほうが恥ずかしいです」
「なんだ。今、二回も呼んだじゃねぇか」
「そ、それはっっっ」
「ほらよ、コンビニ着いた。俺にもなんかカフェイン買ってきてくれ」
「お茶? コーヒー? お紅茶? メーカーは?」
「褐色の飲み物。メーカーあれこれはなんでもいい。あぁ、頼むからコーヒー牛乳だけはやめてくれ」
「はい」
 車から降りコンビニに入ると、トイレから出てきた女の人が雑誌コーナーにいた男の人に、
「あれ、アルファメロン?」
 と、訊く。
 男の人は、
「バーカ、ちげーよ。アルファロメオ」
 と訂正した。
「でも、乗ってる男、超ガラ悪くない?」
「あー……サングラスかけってっからじゃね?」
「えー? なんか極道っぽいってば」
「お前黙れよっ」
 その男の人は女の人の頭を軽くはたく。そして、私を見た。
 あ……そっか。その“超ガラ悪い極道っぽい人”の車から降りてきた私、ね?
 私は何事もなかったようにその場を通り過ぎ、飲み物売り場の前に立つ。自分にミネラルウォーターを取ったとき、さっきのふたり組の声が新に聞こえてきた。
 耳のいい自分を少しだけ恨みそう。
 決して盗み聞きしてるわけじゃなくて、ただ聞こえてきちゃうだけなのだ。
「あの子、あの車から降りてきたんだよ」
「マジで!?」
「だからさ、お前声でけーよ」
 …………っていうか、ふたりとも、だと思う。
 コーヒー、コーヒー……。やっぱりペットボトル? それとも缶??
「年の差いくつだろ? っていうか何関係?」
「親子……にしては近い気がするし、そんな雰囲気でもなかった」
「え……じゃぁ兄妹!?」
「いや、似てなさすぎだろっ!? 年も離れすぎだし」
「んじゃ、イトコとか?」
「それが一番まとも?」
「でも、イトコって一緒に出かけたりするもん?」
「そう言われてみれば……」
「あ……あの子どう見ても高校生じゃない?」
「あっ、嘘っ! 教師と生徒っ!? もしくは援交?」
「わっ、ありありーーーっっっ。だってどう見たってあんな教師いないっしょ!」
 ちーがーうーっっっ。
 先生と学生はあってるけど、病院の先生と高校生ってだけですっっっ。
 援交って、援助交際のことだよね? 違うんだからっ。援助交際じゃなくて、ちゃんとお付き合いしてるのっ。
 少し力任せに冷蔵庫のドアを閉め、レジに向かった。会計を済ませ車に戻ると、
「なんだ?」
 と、訊かれる。
「なんだ? って……。先生、それ取ってあっち向いてっ」
「あ゛?」
 先生のサングラスを無理矢理取って、グリンと店内に顔を向けさせる。
 そこには案の定、雑誌コーナーに立ったままの男女がいるわけで、思わずあっかんべーまでしたくなる。
「ひどいのっ。ガラ悪いとか極道とかっっっ。最初は先生と親子って言われて、次は兄妹。次はイトコ。次は学校の先生と生徒っ。挙句には援助交際って言われたっ」
 思わず指折り数えてしまう。
「ま、援交はアレだけど、傍から見たらそんなふうに見えるもんなんじゃねぇの?」
 先生は少しも動じず、
「何、怒ってんだ? ガラ悪いなんてしょっちゅう言われてんだろ?」
 などと言う。
「サングラス取ったらそんなことないもんっ」
「お前が見慣れただけだろ?」
「違うもんっ。…………本当に、全然……恋人には見えないのかな?」
「あんなぁぁぁ……んなもん、しゃぁねぇだろ? それが二十歳の壁だ。ま、想像される関係を正すことはできねぇが……」
 先生の大きな手が頬に添えられ、先生が顔を傾げたなって思ったらキスされた……。
「援交ってのはこんな表立ったところでこういうことはしないもんだ。こういうことしてたら、さすがに“付き合ってる”ってことはわかんじゃねぇの?」
 先生はにやりと笑って店内に視線を戻す。私は口を押さえたまま雑誌コーナーに目をやると、そこには口をあんぐりと開けた男女がいた。
「おら、行くぞ……ってお前な、んな照れてんな」
 髪の毛をくしゃりとされ、ちょっと前かがみになって髪の毛で顔を隠す。途端にこちら側の窓を開けられた。
「きゃっ……」
「火照った顔には風が気持ちいいだろ?」
 意地の悪い顔がこちらを向く。
「先生っっっ」
「髪で顔隠すな。それから、先生じゃなくて俺の名前は?」
「か、か……」
「この季節にゃ蚊はもういねぇだろ?」
「か、かずっ……」
「それでも悪かないがな?」
 先生の声は愉悦に満ちていく。
「一樹さんっっっ」
「“さん”いらねぇ」
「っ!?」
「ほら、言えよ。“かずき”って」
「…………かずきっっっ」
「くっ、ヨクデキマシタ」
 窓が閉まると先生の右手が伸びてきて、頭をくしゃくしゃっとされる。
「あとでご褒美のキスでもしてやろうか?」
 その言葉に再度、頬が熱を持った。


END

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* あとがき *

 いや、この【お題】を見たとき、「うわ、ここにスポットライト当ててきたか!」とびっくりしました(笑)
 でも、ものすごく書いてみたくて、結果、書いてしまいました。
 翠葉さん、片思い一年間頑張ったらしいです(笑)←しかも、ガンガンに告白して(笑)
 本編では、こんな翠葉さんを滅多に見れないので、ちょっと嬉しい……というか、楽しかったです^^
 素敵リクエストをありがとうございました*


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