【90000】 設定内容   注)PG12です


 【90000】のキリ番はスルーされてしまったため、読者様にご協力いただき、匿名で【お題】の募集をいたしました。
 たくさん頂いた【お題】の中から、私が書きたいと思ったお話を書かせていただきました。

1 誰視点 → 藤宮秋斗

2 カップリング → 藤宮秋斗 × 御園生翠葉

3 設定 → 秋斗さんのご両親に翠葉さんが挨拶に行く。

★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。
    PG12です。

2012/02/16(改稿:2012/10/16)

 拷問挨拶  − Side 藤宮秋斗 −


 こんな日は来なければいいと思っていた――。
 今日は翠葉ちゃんが俺の実家に挨拶に来ることになっている。
 “来る”と言うよりは、俺が連れて行くわけだから“一緒に行く”が正しいわけだけど……。
 自分が御園生家に挨拶に行くことにはなんの戸惑いもなかったものの、彼女をうちの両親に合わせることにはひどく抵抗がある。まず、第一にあの母親だ。
 紅子さん、頼むからあんまり突っ込んだこと口にしないでくれるといいんだけど……。
 そんなことを思いつつ、俺は翠葉ちゃんを迎えに9階に下りた。
 インターホンを鳴らすと玄関が開き、蒼樹が出てくる。
「翠葉ちゃんは?」
「あぁ〜……えぇと、緊張からかしゃっくりが止まらなくて涙目になってます」
 苦笑してダイニングの方に視線を向ける。すると、唯が彼女の背に手を添えてこちらに歩いてきた。
 彼女の手にはコップが握られており、ひっくひっくと言いながらそれを飲んでいた。
 何コレ……。しゃっくりしてて涙目とか本当かわいいんだけど……。
 かわいすぎる彼女を前に、俺は笑みを殺すことも隠すこともできずに手を伸ばす。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だから」
「秋斗さん、それ、“挨拶に行く側”からしてみたら、なんの慰めにもなんないから」
 唯に言われて、確かに……と思う。
 けどさ、本当に、全然緊張して会わなくちゃいけないような人間たちじゃないんだよね……。強いて言うなら、会わせるこっちが緊張する。あんな義両親ができると知ってもお嫁にきてくれるだろうか、とそんなことを考える程度には――。

 駐車場までの道のり、彼女はしゃっくりを止めるために試したことあれこれを教えてくれた。その数に驚く。

1 レモン汁をおちょこ一杯飲む
2 水を一気飲みする
3 人に脅かしてもらう
4 コップの手前からではなく向こう側からゆっくりと水を飲む
5 砂糖水を飲む

 これ、本当に効くのか? と思うようなものばかり。
 現在もしゃっくりは止まらず、彼女は隣でひっくひっくと恥ずかしそうに口元を押さえていた。
「これ、誰チョイス?」
 車に乗り込み訊いてみると、
「唯兄がネットで調べてくれ……ひっく」
 と、言う。
「あと、ひっく……もう一つ、試してないのがあって……ひっく」
「ん?」
「息を止め、ひっく……るっていうのがあって……ひっく」
 かれこれ一時間以上しゃっくりをしているらしい彼女は、腹筋のあたりも辛いのか、腹部に手を添えた。
「じゃ、それは俺が手伝ってあげる」
「え?」
 俺は彼女を抱き寄せ、唇を塞いだ。
「んっ……」
 彼女の鼻にかかる声が好き。
 味わうように口腔内に舌を這わせていると、次第に彼女の体の力が抜けていく。
 最初こそしゃっくりをしていたけれど、キスをやめる頃には止まっていた。
「止まったね?」
「っ……」
 目を白黒とさせて驚く彼女がかわいくて、俺はその頬に軽くキスをした。
「今度から翠葉ちゃんがしゃっくりで困ってたらいつでも俺が止めてあげるよ」
 そう言うと、彼女は真っ赤になって、「ありがとうございます」と俯いた。
 しゃっくりを止めるにあたり、“息を止める”というのは意外と効果があるのかもしれない。

 自宅前に車を停めると勢いよく家のドアが開き、紅子さんが出てきた。
 今日は割りとおとなしめの服装だと思う。白いブラウスの胸元にはフリルがふんだんにあしらわれており、スカートはサーモンピンクの膝丈フレアスカート。
 ベージュ色の極太ベルトがアクセントになっていた。父さんが初めてプレゼントしたという、やけにゴージャスなネックレスも首にぶら下がっている。それらは、紅子さんのセンスにおいてすべてが“品良く”おさまっていた。
「いらっしゃい。あなたが翠葉ちゃんね?」
 声をかけられた彼女は、戸惑いながらもきちんと挨拶を返す。
 車から降りると控えめに服装を直し、
「御園生翠葉と申します」
 と、頭を下げた。
「挨拶は中でにしましょう? 斎さんも待ちきれなくてそわそわしてるのよ」
 まるで俺のことなんか眼中にないかのように、翠葉ちゃんを掻っ攫われた。
 俺はため息をつきつつサイドブレーキを引くと、直ちに家の中へと向かった。玄関入ってすぐのところに海斗が立っていた。
「早く行って助けてあげたほうがいいと思うよ?」
「何……早速何やらかしてるの」
「ドレス選び?」
「はっ!?」
「だからドレス選び。結婚式にどんなドレスが合うかとか、昨夜から写真見ながらふたりとも白熱してたからね」
「海斗……そういう情報は早めにくれ」
「ま、いいじゃん。頑張って! じゃ、俺、部活行ってくる」
 海斗は元気よく玄関を出て行った。

 リビングに入ると、翠葉ちゃんは父さんと紅子さんに挟まれ固まってるわけで……。ごめん、と思う。
「父さんも紅子さんもいい加減にしてよ。ドレスくらい彼女の好きなもの選んでもらいたい」
「あら、でも、式はうちの系列ホテルで挙げるのでしょう?」
「その予定だけど……」
「だったら、ここにすべてのドレス写真があるわよ?」
「………………」
 俺は頭を抱えたくなる。
「だからさ、そういうことじゃなくて……。こういう感じじゃなくて、もっとゆっくり考えさせてあげたいから」
「なんだ、秋斗。素直に言ったらどうだ?」
「何が……」
「本音は翠葉ちゃんが着るドレスは自分が選びたいんだろ?」
「〜〜〜それもあるけどっ! とにかく、今日は挨拶に来たんであってドレス選びに来たわけじゃないから」
「挨拶ならもう済ませたわよ?」
 紅子さんも父さんもハイパーマイペース過ぎて困る。
 翠葉ちゃんは困った顔に必死で笑顔を貼り付けていた。
 こんなに困らせる予定じゃなかったんだけどな……。
「お式はやっぱり六月かしら?」
 訊かれた翠葉ちゃんは言葉に詰まる。なぜなら、その季節は彼女にとってはとても辛い季節だからだ。
「式は秋に挙げようと思ってる」
「「どうしてっ!?」」
「どうしても」
 年間通して、彼女の体調が一番安定している時期がその季節だからだ。
 うちの両親に限って、体の弱い子と結婚するなんてことに反対されるとは思っていない。でも、両親以前に彼女が気にしそうだったから……。
 だから、その話はそこで打ち切りにさせてもらった。――けれど、俺の思考に気付いた彼女は自分から話し始めてしまう。
「すみません……。私の体調の都合なんです」
 そう言うと、うちの両親はうちの両親らしい勘違いをする。
「「もしかしてできちゃったっ!?」」
「……紅子さんじゃあるまいし――」
「え? でも、そういうことじゃないの? 今、何ヶ月?」
 紅子さんの問いに彼女は顔を真っ赤に染める。それが、また誤解に拍車をかけた。
「やっぱり秋斗は俺の息子だなぁ……」
「一緒にしてくれるな……。彼女は妊娠してない」
「あら、そうなの……?」
 もうやだ……。本当、この両親の口を封じられるものなら悪魔に魂売ってもいい。
「あの……妊娠とかではなくて、年間通して体調が安定している時期が秋しかないんです……」
 とても言い辛そうに彼女は口にした。
 こんなつもりじゃなかったのに――。
「あ、海斗からあまり体が丈夫じゃないようなことは聞いてたけど……」
 紅子さんが言うと、彼女は苦笑を浮かべるのみで、何も話せなくなってしまった。
「翠葉ちゃん、気にしなくていいから……」
「でも、きちんと話しておかなくちゃいけないことなんじゃ……」
「俺は君が何を抱えていても、それを丸ごと愛していくから。だから、気にしなくていい。君と結婚するのは両親じゃなくて俺だから」
「秋斗さん……」
「だから、気にしないで?」
 ただ、彼女に負い目を感じて欲しくなかったんだ。俺にとっては彼女がどんな体質でも関係なくて、彼女が側にいてくれさえすればそれでいい。もともとそのつもりで求婚してるわけで……。
 親に何を言われようとも、その気持ちが覆ることはない。
「……秋斗、なんか勘違いしてないか?」
 父さんに訊かれた。
「私たち、別に翠葉ちゃんの体が弱くてもとやかく言うつもりないわよ? だって、こんなにかわいいんだもの。飾り甲斐があるじゃない!」
 ……忘れてた。そうだった、うちの両親って藤宮の人間にしてはずいぶんとその“枠”から飛び出た人たちだった。
 いつもなら、迷惑極まりない人たちだけど、今回だけはその部分に救われるかもしれない。
「私の姉、真白お姉さまも体が弱いの。子供を生むのも難しいんじゃないかって言われてたけど、今は三人の子供の母親よ。今も相変わらず体が丈夫とは言えないけれど……。それでも幸せに過ごしてるわ。だから、翠葉ちゃんと秋斗もそんなふうに過ごせたらいいんじゃないかしら?」
 紅子さんにしてはとてもまともなことを言ったと思った。
「まぁ、親戚関連は子供がどうのってうるさいかもしれないけど、そのくらい私たちが蹴散らしてあげるわ。秋斗を幸せにしてくれる子なら私は大歓迎」
「確かにな。この秋斗に結婚を決めさせただけでもすごいことだ」
 ふたりは声を揃えて言う。
「私たちは心からふたりの結婚を祝福しているのよ」
「私たちは心からふたりの結婚を祝福してるんだ」
 翠葉ちゃんを見ると、目に涙を浮かべていた。
「秋斗さん、どうしよう……」
「ん?」
「嬉しくて、泣いちゃいそうです……」
 俺はそんな彼女を抱きしめた。
 両親に会わせなくていいものなら会わせたくないと真面目に思ってた。でも――連れてきて良かったのかもしれない。
 “藤宮”という家は確かに特殊だ。けれど、その中に味方がいると知ることができたのは、彼女にとっては安心材料のひとつになるのかもしれなかった。
 そんなものがなくても、俺が守るつもりではいたけどね……。
 彼女の心の負担を減らせるのなら、どんなことだってする。
 その後、海斗を除く四人でランチを済ませると、俺は翠葉ちゃんを連れて散策ルートに向かった。

 手をつなぎ、隣を歩く彼女は肩の荷がおりたのか、とても穏やかな表情をしている。その表情を見れるだけで俺は幸せなんだ。
 翠葉ちゃん、君はわかってるかな……? 俺の幸せは君そのものなんだよ。
「秋斗さん……祝福してもらえるのって嬉しいですね」
 彼女ははにかんだ笑顔で口にした。
 たまらなくかわいくて、俺は彼女を抱きしめる。彼女は抵抗することなく、俺の胸におさまり上を向いた。
「……どうかした?」
 訊くと、
「少しだけかがんでもらえますか?」
 と、小さな声で言われる。
 俺は、好きです……とでも耳元で囁いてもらえるのかと腰をかがめた。すると、
「目、閉じてください」
 と、追加のお願いをされる。
 え? と思いつつ、期待大で目を瞑ると、遠慮気味に彼女の唇が自分の唇に触れた。
 彼女からの初めてのキスだった。
 彼女はすぐに離れようとしたけど、俺は放さない。放さないんじゃなくて放せないんだ。
「もっとキスして欲しいな」
 彼女の苦手とする甘い笑顔を向けると、彼女はすぐに赤くなる。
「それ、煽ってるようにしか見えないから」
 そう言うと、俺は彼女の唇を味わうように何度も何度も唇を重ねた。甘い甘いキスを何度も何度も――彼女が甘い吐息を漏らすまで……。
「マンションに戻ろうか……」
「え……?」
「キスだけじゃ足りないんだ」
 意味を解した彼女はこれ以上ないくらい真っ赤になる。
「ダメ?」
「――ダメ、じゃ……ないです」
「じゃ、決まり。マンションに戻ろう。心行くまで翠葉ちゃんを味あわせて?」
 彼女は小さな声で、
「苛めないでくださいね……?」
 と答えた。
「さて、それはどうかな? つい、かわいすぎて苛めたくなっちゃうんだよね」
 俺がクスクスと笑うと、
「私も秋斗さんの苛め方、知りたいです」
 などとかわいいことを言う。
「そう? じゃ、何か新しいことでも教えようか?」
 その言葉に、彼女は髪の毛で顔を隠した。けれど、すぐに俺の腕に手を絡めてくる。
「本当に……何も知らなくてごめんなさい」
 それは情事のこと。
「俺は何も知らない子に一から教えるのがたまらなく好きみたいだから気にしなくていいよ?」
「でも……」
「もう我慢できない。早くマンションに戻ろう」
 俺は彼女の手を引き、とっとと散策ルートを後にしマンションに帰宅した。

 時間をかけて愛撫した彼女とひとつになり、情事が終わると彼女はとろんとしたまま眠ってしまう。
 俺はその寝顔を見て幸せに浸る。
 彼女が俺の腕の中にいる。俺の欲求すべてを受け入れてくれる。二年前には想像もできなかったことだ。
 俺、幸せかも――これ以上の幸せを想像できないほどに。
 気持ち良さそうに眠る彼女の額にキスを落とし、衣類を纏わない華奢な体を抱きしめると、自分も安らぎの中で眠りに落ちた。


END

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* あとがき *

 本当は“紅子さん視点で……というリクエストだったのですが、紅子さんの詳細な設定がないため、秋斗さん視点で書かせて頂きましたm(_ _"m)ペコリ
 少々リクエストと違うものになってしまった感満載なのですが、お楽しみいただけたら嬉しいです。


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