光のもとでU

紫苑祭 準備編 Side 御園生翠葉 09話

 中間考査前から始まる会食は、いつもと同じように三日が過ぎ、四日目の日曜日には涼先生と真白さんも参加された。そして、楓先生と果歩さん、赤ちゃんのこうくん、湊先生と静さんも揃い、御園生家と同じくツカサの家族も総出の参加だった。
 ツカサはものすごく嫌そうな顔で、
「なんで父さんたちまで……」
「うちだって少し前から全員参加よ?」
「それはゲストルームで暮らしているから流れ的にそうなっただけだろ。もとはといえば、親戚間の子どもが集まるだけの会食だったわけだし」
 そう言われてみると、本来の形からは少し離れてしまっている気はする。それに、異質というなら、藤宮の集まりに御園生が混じっているほうが異質度は高い。でも、この会食に加わるようになって一年以上経った今では、今更感も強い。
 願わくば、この会食がいつまでも続くことを祈る。けれど、それもあと数年のことだろうか。
 きっと来年一年は変わりなく続くだろう。それでも、私と海斗くんが高校を卒業したそのあとはどうなるのか――。
 海斗くんは藤宮大学に進学するけれど、私は違うし、ツカサだってキャンパスが支倉へ移ってしまう。そうなったとき、会食はなくなるものなのか……。
 会食がなくなったとしても人のつながりがなくなるわけではない。そうとわかっていても、やっぱりなんとなく寂しく思える。
「翠?」
「えっ?」
「何考えてた?」
「え……あー……」
「何」
「来年は変わりなく会食があるだろうけれど、再来年はどうなのかな、って……」
「……試験期間の会食、っていう形じゃなくなるだけだろ。日を決めて、新たに集まればいいだけだ」
「……だといいな」



 試験が終われば皆が全力で紫苑祭の練習に励む。
 紅葉祭のときは「準備」だったものが、今は「練習」。それだけに、肌で感じられるだけの覇気があった。
 嬉しいことに、この頃は気候が涼しくなってきて、外での練習も過酷ではなくなっていた。身体を動かすみんなにとってはとても嬉しいことだろう。
 そんなある日、放課後佐野くんに話かけられた。
「御園生、ダンスの調子はどう? ステップ覚えられた?」
「うん。ステップはもう問題なく踏めるようになった」
「じゃぁさ、そろそろ俺との練習に戻ってもらってもいい? さすがにぶっつけ本番ってわけにはいかないから」
「あ、ごめんっ」
「いや、いいんだけどさ。今日、簾条と海斗が練習するって言ってたから一緒にどうかと思って」
「了解、大丈夫」
 ダンスは必ず二組以上で練習をするらしく、一度通して全員で踊り、次は一組ずつ踊って互いの悪い点を指摘しながら完成させていくという。それなら、今まで佐野くんの相手は誰がしていたのか――。
「あの男が翠葉を囲うものだから、私、一人二役していたのよ?」
 桃華さんが口を尖らせ文句を言う。
「わ……ごめんなさいっ。全然知らなかったの」
「でしょうね。でも、今日からは一緒に練習できる。なんの問題もないわ。さ、まずは通して一曲踊りましょう」
 CDプレーヤーから曲が流れてきたらパートナーと挨拶をして踊り始める。
 ツカサとの練習でも一曲を通して踊れるように練習していたけれど、最初の頃は息が上がって一曲通して踊ることができず、ツカサの判断で何度も中断していた。それでも、最近は一曲を通して踊れるようになってきていた。
「御園生、息が切れ始めてるけど大丈夫?」
「うん。あと少しだから平気」
 ダンスが終われば私は休まずに教室中を歩き始める。
 私以外の三人はきょとんとした顔で私の行動を目で追う。
「あのね、クールダウン。これをしないと貧血起こしちゃうの。でも、五分も歩けば大丈夫だから気にしないでね」
「じゃ、先に俺らが踊るから見て指摘して?」
 海斗くんに言われてコクリと頷いた。
 桃華さんと海斗くんという組み合わせは見ていてとても目の保養になる。見目が麗しいだけでなく、ふたりとも身長が高いこともあり、踊りがダイナミックに見えるのだ。そのうえ、ふたりはうちのクラスで一番ダンスの成績がいい。
「桃華さん、もう少し上半身をしなやかに」
「はい」
 桃華さんはすぐにオーダーに応える。
 ダンス種目はきちんとステップが踏めているかが最低ラインで、プラス加点が欲しい場合はどれだけ優雅に踊れているかが争点になるという。それから、表現、という意味では表情も加点対象になるらしく、ツカサとの練習ではひたすら笑顔を強要されてきた。
 今も桃華さんと海斗くんの表情をチェックすれば指摘しなくてはいけないわけだけど、自分だってそれができているかは甚だ怪しい限りなわけで、なかなか指摘するには至らない。でも、せっかくの練習なのだ。やっぱり言ったほうがいいのだろう。
 海斗くんたちのダンスが終わったあと、
「あのね、私もまったくできている気がしないから人様のダンスを指摘するのはあれなのだけど……」
「何? 言っちゃってよ。直して加点されるほうがいいじゃん?」
「そうよ」
 腕組をしたふたりににじり寄られ、
「……笑顔」
「「え?」」
「笑顔じゃなかった。怖い顔をしていたわけじゃないけれど、ダンスの評価には表情もあるのでしょう? 私もツカサに散々言われたの」
 海斗くんと桃華さん、そして佐野くんも苦笑い。
「デスネデスネ……司のやつ、そこまで翠葉を仕込んできたか……」
「笑顔かあああ、確かに御園生は微笑む程度に笑ってたよな。俺もそこできてないや」
「悔しいけど、翠葉の言うとおりだし、あの男の言うとおりだわ。それに、何? 翠葉、ものすごくきれいにダンスまとめてきてるんだけどっ」
「だよなっ!? 俺、今日初めて御園生と踊ったけど、すごく踊りやすかった!」
 これは責められているのかなんなのか……。でも、佐野くんに踊りやすいと言ってもらえたのはプラス評価としていいだろう。
「じゃ、次。佐野たち踊ってみ? 俺がこれでもかってくらいにダメだししてやっから」
 海斗くんに言われて曲が流れ始めた。
 最初にするお辞儀は丁寧かつ優雅に。パートナーに預ける手はふわっと軽く乗せる。あくまでも自分の腕は自分の筋力で支え、相手に重みをかけない。胸は程よく開いてホールド。ステップは流れるように足を滑らせ、背中はしなやかに反らせる。
 ツカサに教え込まれたことを忠実に再現していく。と、
「くっそ……まじ翠葉のダンスきれいだ。どこにも隙がない」
「それにつられるように踊ってるからか、佐野の動きもいいわね」
「「ただ、ふたりとももっと笑顔でっ」」
 私と佐野くんが目を見合わせ苦笑を漏らす。
「笑顔全開で踊ってるペアって俺まだ見たことないよ」
「私、今までツカサの絶対零度の笑顔を相手に練習してきたのよ?」
「それはそれはそれは……」
 こんなふうにして何度か交互に練習を重ね、最後は恥ずかしさも何もかもかなぐり捨てて、四人満面の笑みで踊って練習を終えた。
「俺、これはかなり点数稼げる気がする」
 佐野くんの自信に海斗くんも頷く。
「翠葉をツカサに預けてたのってマイナスじゃなくてプラスになったかもな? ここまで仕込まれて帰ってくるとは思ってなかったよ」
「ま、あの男が中途半端なことをするとは思えないから、これがあるべき姿な気もするけれど……」
「そう言ってもらえて良かった。私、参加種目が少ないから、何か少しでも貢献できればいいのだけど……」
 そこへ、ダンス種目に出るもう一組のペアがやってきた。
 静音先輩と風間先輩だ。
「あら? もう練習終わっちゃった?」
「はい。今少し前に」
「私たちも練習したいから少し付き合ってもらえない?」
 私たちは笑顔で請合った。
 静音先輩はダンス部の部長というだけあり、非の打ち所がないダンスを見せる。その相手をする風間先輩は、共に踊る静音先輩から指摘があれこれ入っていた。
「静音、厳しすぎ〜」
 踊り終わった風間先輩が床に転がる。
「何よこのくらい。今言った場所、次までには直してきてよね」
 言ったあと、静音先輩はくるりと振り返り私に視点を定めた。
「私、姫の踊りはまだ見ていないのよね。藤宮くんに教わってるって聞いていたけれど、仕上がりはどんな具合?」
「困らない程度にはステップを踏めるようになりました」
 すると、
「静音先輩、嘘です。今の嘘ですから。たぶん、私と翠葉なら翠葉のほうがダンスは上です」
「あら、桃華さんよりも上手なの……? それは見てみたいわ」
 静音先輩のその一言に、私たち四人は改めて踊ることになった。 
 踊っている間、静音先輩に注視されているのがひしひしと伝わってきて緊張もしたけれど、今日踊った中では一番の出来上がりという程度には踊れた。
 最後、息を整えるために教室内をてくてく歩いていると、
「驚いたわ。姫においては指摘する点がひとつも見当たらない。加点されこそすれ、減点なんてあり得ないわ。それに、佐野くんもずいぶんと上手になったように見えるけれど、それはきっとパートナーが変わったからね。桃華さんと海斗くんも前回よりは格段に良くなってる。これはもしかしたらもしかするかも」
「静音がそう言うんだから間違いないよ。でも、なんか悔しいよなぁ。御園生さんを仕込んだのが藤宮っていうのがさ」
 さっきから何度となく言われていることだけど、ここまで褒められると少し気恥ずかしくもあり、私はツカサに感謝しつつ小さく俯いた。



Update:2015/07/09(改稿:2016/10/07)



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