Twins〜恋愛奮闘記〜

出逢い Side 柊 05話

 階段を上がってすぐの部屋は神楽ちゃんの部屋。その隣に都ちゃんの部屋があり、一番奥にアキの部屋がある。
 私は都ちゃんの部屋に荷物を置き、聖と一緒にアキの部屋に向かった。
 部屋の前まで来て聖がノックする手を止めた。中で話し声が聞こえたから。
 アキの声しか聞こえないことから、ほかに人がいるわけじゃないみたい。
「電話中かも?」
 聖の言葉に頷いた。
 一度都ちゃんの部屋に戻ろうか……と思ったそのとき――声はやみドアが開く。
「ぅわぁぁぁっ」
「……アキ、そこまで派手に驚いてもらえると嬉しいよ」
 聖がにこりと笑う。
「っていうか、私たち驚かせるつもり全然なかったじゃん」
「うん、なかったね? なんか電話してるっぽかったから、都ちゃんの部屋に移動するとこだった」
「……内容、聞こえてた?」
 アキにしては珍しく気まずそうな顔をする。
「「内容までは聞こえなかった」」
 聖と揃って答える。
「それは何より……」
「何、カノジョから?」
 聖が突っ込むと、違うから、とアキが脱力した。
「そういう切り返し初めてだけど……何、聖や柊にはそういう存在ができたの?」
「「まさか、誕生日もクリスマスも兄妹一緒」」
 またしても聖と言葉が重なった。
 私も聖もカレシカノジョがいないことを切実に悩むことはない。ただ、先日の王子様と女王様がちょっと気になってるだけ。
 私たちは飲み物を一階から調達してくると、アキの部屋で話しに花を咲かせた。
 私がアキのベッドを占領して寝転がれば、そのベッドの前に聖が長い足を伸ばして座る。アキはデスクの椅子に座っていた。
「へぇ……外人並みにルックスがいい双子かぁ……。ちょっと見てみたいかも」
 私たちはクリスマスにカフェで会ったふたりのことをアキに話したわけだけど、アキが“双子”という言葉を出すまで、そんなことには気付きもしなかった。
 アキはマスターの一言で普通に“双子”と認識したようだ。マスターの言葉とは、『多分君たちと同じ年だよ』。
「そっか、ふたりが私たちと同い年っていうことはあのふたりも双子なんだ!」
「えっ!? そこは気付こうよ……ってその顔、もしかして聖も気付いてなかったわけ?」
「あはは……。とりあえず、同い年っていうこととマスターの子供ってことくらいしか頭回ってなかった。それからカフェに行けばまた会えるかも? くらい」
「おいおい……」
 アキがうな垂れるのを放置して話を続ける。
 気になってはいたけれど、あの日以来、聖とも王子様と女王様の話はしていなかった。だから、話し出したらなんだか止まらなくて……。
「どこの高校に編入するんだろうね?」
「今はどの高校も帰国子女枠あるからどこでも入れるだろうしなぁ……」
「あぁ……うちの学校以外ならどこでも編入学できるだろうな」
「「え? 藤宮って帰国子女枠ないんだ?」」
 聖と同時に訊くと、
「いや、帰国子女枠がないというよりは、編入学、転入学の受け入れ枠がない」
「そうなんだー? あのふたりが藤宮の制服着てるとこ、ちょっと見てみたかったかも?」
 私が脳内妄想を繰り広げようとしたら、既に聖が妄想していた。
「あー……丈の長いワンピース姿とか、すごい清楚に見えるかも」
「でも、ハーフならブレザーのほうが似合うんじゃない?」
「それも見たいっ! ぜひうちの高校のでっ」
 うちの高校は学校が大きいことと、このあたりのブレザーの制服の中ではかわいいことで有名なのだ。
 男女共にネイビーのブレザーで、男子はボタンダウンのシャツにネイビーにグリーンのレジメンタルストライプのネクタイ。
 この季節はその上に着るニットにVネックセーターかカーディガンを選べ、さらには、ライトグレーかチャコールグレーの二色を選択できる。
 聖と私はライトグレーのカーディガンを着ていた。
 スラックスはグレーの生地に細かいチェック柄。遠目にはチャコールグレーにしか見えない。
 女子は同じボタンダウンのシャツにリボンかネクタイのどちらかを選べる。
 私は全体的なバランスの都合上、リボンしか選択の余地がなかったわけだけど……。そのほか、スカートの生地は男子と同じもので、プリーツか巻きスカートの選択制。
 靴下はネイビーかブラック。靴も茶か黒と決められている。
 “決められている”とはいうけれど、選択できるものがいくつもあるので、好きなアイテムを選んで自分なりのスタイルをカスタマイズできる制服なのだ。
 そこが人気の秘訣。

「あ、そうだ。アキ、学校の写真ないの?」
 訊いたのは聖。
「あぁ、あるある。ちょい待って?」
 アキはデスクに向き直りスタンバイモードにしてあるパソコンを起動させる。
 何回かカチカチっというクリック音がすると、「ほい」とモニターをこちらに向けてくれた。あとはスライドショーで数秒ごとに画面が切り替わっていく。
「やっぱ藤宮の制服って冬服も夏服もかわいいよねぇ……」
 うちの制服もかわいいと自負しているけれど、なんというか……別物のかわいさなのだ。
 夏服と冬服の印象がガラっと変わるところも羨ましい。夏はセパレートのセーラーブレザーなのに対し、冬服はチャコールグレーにボルドーのアクセントがきいたボレロとワンピース。冬には学校指定の黒の編み上げブーツもある。
 着たいと思ってもなかなか着れるものじゃない。そもそも、そう簡単に入れる学校じゃない。
 偏差値高すぎ……。
 聖は入ろうと思えば入れたと思う。
 アキが藤宮を受験すると決めたとき、「聖も行けば?」と言ったら「えー……やだ」という答えが返ってきた。その理由がなんとも聖らしい。
『入ろうと思えば入れるかもしれない。でも、入ったあとも大変でしょ? 普段の授業プラスアルファで未履修分野の課題こなさなくちゃいけないし、毎日テストあるっていうし、部活も強制参加だし……。家に帰ってきても勉強漬けで、いつ創作活動したらいいの? いつピアノ弾く時間取れるの? 何もかも勉強に持ってかれる高校生活なんて魅力感じないよ。アキにはあの高校だからできることがあるのかもしれないけど、俺にとってはそうじゃない』
 サクっとそう言ってのけたのだ。
 聖は私と同じでぽやっとしてるところもあるけれど、こういうところはとても堅実的なものの考えをする。
「あ、かわいい子発見。……と、学祭で見た美人さん」
 聖の声にはっと我に返る。
「あぁ、今のが御園生(みそのう)だよ」
 アキの言葉に、
「ストーーーップ!」
 叫ぶと、聖に口元を押さえられた。
「柊ちゃん、声のトーンだけは考えようか? あと少しで日付が変わる時間って知ってる?」
 にこりと笑うアキがちょっと怖い。でも、それ以上に怖いのはおじいちゃん……。
 おじいちゃんを起した暁には、明日、一日中境内の掃き掃除をさせられるに違いない。
 コクコクと頭を縦に振ると、アキがパソコンの操作をしていくつか前の写真に戻してくれた。
 広場みたいなところで人がいっぱい集まってる写真。その中心にびっくり眼のかわいい子がいた。
 色白で髪がサラサラストレートのスーパーロング。タロちゃんが「かわいいかわいい」って騒ぐのも頷ける。文句なしに美少女さんっ。
 私、大丈夫かなっ!? 実物を目の当たりにしたら間違いなく騒いじゃいそうなんだけど、コレ、どうしたらいい?
「羨ましい〜……あの髪触りたいぃぃぃ。いえっ、むしろ欲しいデスっ」
「柊、無理だから……」
 アキの即答に、ついムキになる。
「私、この髪質のせいでロングにできたためしがないんだよっ!? 伸ばせば絡まるし爆発するし絡まるしっ」
「柊、声」
「アキ様、ごめんなさい……」
「柊の場合は不器用ってのも手伝ってると思うけど?」
「う゛……聖ひどい」
 そんな話をしていると、時計が零時を知らせた。
 どれだけキリが悪かろう零時になれば暗黙の了解でお開きになる。なんで零時までって、アキはテスト前でも一時までには寝るのだ。
 長期休暇に入っても朝は必ず五時に起きてジョギングに出かける。中学の時からその生活リズムを絶対に崩さない。だから、私たちもその邪魔だけはしない。
 アキの“日課”がお休みになるのは三が日だけ。その日に目いっぱい羽目を外して遊ぶのだ。
 私はふたりにおやすみを言ってアキの部屋を出た。



Update:2011/12(改稿:2013/08/18)



 ↓↓↓楽しんでいただけましたらポチっとお願いします↓↓↓


 ネット小説ランキング   恋愛遊牧民G      


ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。


 ↓コメント書けます*↓

Copyright © 2009 Riruha* Library, All rights reserved.
a template by flower&clover