Twins〜恋愛奮闘記〜

再会 Side 柊 04話

 学校に着くと、私と聖は音楽室へと直行する。
 音楽室を使う生徒は一年で音楽を選択している生徒と、二年次から芸術コースで音楽を選択する生徒。そのほかは吹奏楽部とコーラス部。
 軽音部には部室という形で教室が与えられているため、音楽室を使うことはない。
 どの文化部も朝練というものがなく、この時間の五階は人気がなくガランとしている。
 ならば、運動部に力を入れているのか? と訊かれると少々困る。取り立てて何部が強いというのは聞いたことがないし、朝礼で表彰された部を見たこともない。
 しかし、校則で部活動の強制参加が義務付けられていたりするから奇妙な学校である。そんな校則があるがゆえに文化部に入り、幽霊部員化している生徒は少なくない。
 この部活強制参加には、“例外”というものが存在する。それは、『塾以外の習い事をしている場合は部活動を免除する』というもの。
 “習い事”は何でもいいのだ。ピアノ、お茶、テニス、水泳、バレエ……。うちの学校においては「モデルスクールに通っている」というものでも、十分な理由になってしまう。
 何かしら習い事をしていればOKという程度の緩い規定。
 学校が用意する書類に習い事先の先生からサインを頂いて、所在地などを記した申請書を提出する。そのあと、所在地確認と在籍確認の事実確認が取れないことには申請は受理されない。
 ここまでくると、緩いのかきついのかすらわからなくなる。

 支倉高校は、周囲の高校と比べると生徒数だけが抜きん出て多く、学校の敷地はそれら生徒を収容するのに適度な広さと設備がある。しかし、私立のくせに“こんな学校です!”と言えるカラーがない。
 学校説明のパンフレットには校内設備と制服を作ったデザイナーのこと。二年次からのコースわけの説明と、大学の進学率くらいしか書かれていない。
 なんとも薄っぺらい内容であり、無駄に写真が多く盛り込まれたパンフレットなのだ。
 サックリ言ってしまうと、すべてにおいて中途半端な学校なのだと思う。ただ……生徒自身にやる気さえあれば、それ相応のものを得ることはできる。
 どういうことかというと――一一年次は一組から二十組みまで入試の成績を見ながら均等にクラス分けがされ、二年次からはコースわけのほかに成績順にクラスが割り振られる。つまり、各コースのクラスの数が若いほどに学力の高いクラスとなるのだ。
 例外は芸術コースのみ。芸術コースは“芸術”という点ですでに特化してしまっているので、さらなる成績別クラスわけというものが存在しない。
 うちの学校ほど、同じ学内において偏差値に開きのある学校は少ないと思う。巷では“ピンキリ高校”と呼ばれているくらいだ。
 “キリ”は言うまでもなく、“ピン”は有名国立大学に受かるほどのレベルで、“ピン”の部分だけで“進学校”の名代を頂いているに等しい。
 そんな学校の、朝の音楽室は私と聖の特別な場所。
 音響のことを考えて作られた広い教室と、メーカー上位機種のグランドピアノ。それらを独占できるのだから、朝早く来るのにも意味があるというもの。
 バスが学校に着くのは七時四十分。私たちが五階の音楽室に着くのは七時五十分。
 音楽室は理棟の右隣、芸棟の五階にある。五階まで上がらなくちゃいけないことに変わりはないけど、嬉しいことに音楽室は芸棟の一番端、理棟寄りにあるのだ。それに、この時間にエレベーターを使う生徒はほとんどいないことから、ノンストップで五階まで上がることができる。
 そのエレベーターから十歩けば音楽室のドアの前にたどり着くという素敵さ。
 音楽室に着いてすること。私は声を出し、聖は指慣らしにピアノを弾く。
 音楽を聴くだけなら朝の支度のときや、バスの中でもこと足りる。でも、自分たちが音を発するとなると、それ相応の環境が必要になる。
 私は歌いたいだけだからいいけれど、聖の場合、鍵盤楽器が必要不可欠。
 朝の音楽室は誰に気兼ねすることなく、私たちがその日初めて音を奏でることのできる唯一の空間なのだ。
「さて、そろそろ教室戻るか」
「うん」
「じゃ、昼にまた」
「はーい!」
 私たちは音楽室を出ると、いつもすぐそこで別れていた。
 私は芸棟と理棟をつなぐ階段を使い、聖は理棟の端から端まで歩き、理棟と文棟をつなぐ階段から下りる。理由は、人が溢れる階下の廊下を歩くより、五階の廊下を移動するほうが楽だから。


     *****


 立川ツインズが編入してきて一週間は彼らもてはやす噂で持ちきりだった。その翌週には、クラスの人間しか知りえなかったことが、学年全体、学校全体へと広まった。
 最初は素っ気無いとかそんな程度の噂だったと思う。それが、今では悪口雑言が混じる劣悪なものへと変化しつつあった。
「聖も聞いてる?」
「あー……なんていうか、嫌でも聞こえてくるよね? 柊も?」
「うん。それでね……」
「いーよいーよ。たぶん、噂っていう噂はほとんど聞いてるし。今、柊が言おうとしたのって、俺のホモ疑惑でしょ?」
「知ってたのっ!?」
「知ってるも何も、直で聞きに来た人何人かいるし」
「えっ!? それで何て答えたの?」
「レイさん見習って“ご想像にお任せいたします”って笑顔つきで答えてみた」
「えーーー!?」
 それ、聖大丈夫なのっ!? 全然大丈夫じゃない気がするのは私だけだろうか?
「だってさ、否定したら噂がなくなるなんて保証はないし、否定してもしなくても尾ひれつけて一人歩きしてくじゃん」
「それは確かに……」
「実際、俺は否定も肯定もしてないけど、今は俺が肯定したって噂になってるでしょ?」
「えっ!? そうなのっ!?」
「なんだ、そこまでは知らなかったのか」
「初耳だよっ」
 びっくりするのは私だけで、聖はまるで他人事のように淡々と話していた。
 噂は聞く度に変貌を遂げていく。これが“尾ひれ”というものだろうか……。私が思うに、もはや“尾ひれ”を通り越し、“進化”してるようにしか思えない。
 最初はみんな、れーちゃんのこともルイ君のことも“きれい”とか“かっこいい”って言ってた。それが“お高く止まってるやつら”に変わったのは何日くらいしてからだったかな?
 いつしか“女王様”と“俺様”に変わり、次は“ナルシスト”になった。その次にどんな進化を遂げたかというと、“ブラコン”と“シスコン”である。
 ブラコンシスコンなら私も聖も言われてることだから、あまり気にならないといえば気にならないのだけど、何というか性質が悪い……。互いの姿しか視界に入っておらず禁断の関係であるとか、兄妹以外は人とも思っていないだとか……。今となってはそんな噂があとを絶たない。
 たぶん、自分を見てもらえないことに対しての“ひがみ”だと思う。事実、聖はルイ君と普通に話せてるわけだから。
 そこで新たなる噂が生まれた。つまり、それが聖の“ホモ疑惑”だ。
 噂はほかにもある。それは私のこと。
 どうやら私はルイ君目当てでれーちゃんに近づいているらしい。兄の聖に橋渡しを頼んだものの、その兄自体がホモなので、決して橋は渡しはしてもらえないかわいそうな子……なのだとか。
 噂の驀進ぷりって半端ないわ……と思った瞬間である。
 れーちゃんやルイ君がクラスに馴染まないのは単独行動を好むからだと思う。双子でいるときに口数が増えたり、表情が豊かになるのは警戒してないからじゃないかな?
 双子ならではの言い分かもしれないけれど、ただ単にほかの誰と一緒にいるよりも気が楽なだけなのだ。別にその他一切のものが視界に入ってないとか、そういうことじゃないと思う。
 なんで、みんなはそれを面白おかしく勘違いするのかな?
 編入してきてから二週間ちょっと経つ頃には、れーちゃんにもルイ君にも人は寄りつかなくなった。今、ふたりを取り巻くものは噂のみ。
 本人たちは噂など気にはしてないのだろう。表情から、清々した、という感情が見て取れるくらいには――。
 私? 私は相変わらずれーちゃんにまとわりついてます。もうそろそろ校内案内もお役ご免になりそうなので、どうやったらこのあともまとわりつけるか考え中。



Update:2012/01(改稿:2013/08/18)



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