Twins〜恋愛奮闘記〜

ホワイトシーズン Side 柊 03話

 朝以外にルイ君と会う機会は何度かあった。
 会うたびに声をかけ告白する。
 それが私の日常。
 いつからだったかな?
 飛び跳ねずとも気付いてくれるようになったのは。
 挨拶に乗じて告白する私を無視しなくなったのは、いつからだっただろう?
 思い出そうとしてもなかなかに難しい。
 出逢ったのは去年の十二月。
 初めて話をしたのは今年の一月。
 まだ三ヶ月と経っていないのに、私がルイ君に好きですと言った回数は、日にち以上の数になる。
 すぐに思い出せる気がしないので、私は考えるのをやめた。
 ただ、気になるのは名前。
 一昨日の土曜日、私は本当に名前を呼ばれたのだろうか?
 ルイ君は、会うたびにまとわりつく私に応じてはくれるものの、名前で私を呼ぶことはなかった。


     *****


 月曜の夜、久しぶりに家族全員が揃っての夕飯だった。
 最初は進路の話しなんかもしていたけれど、次第に話しは移り変わる。
「聖に彼女かー。今度連れておいでよ」
「え? あぁ、うん」
 聖はパパに言われて少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「あなた、知らないの? 相手はマサくんとこの娘さんよ?」
「えっ!? 勝(まさる)んとこの子!?」
「そうよ」
「ルイちゃんだっけ? レイちゃんだっけ?」
「レイちゃんにルイ君でしょ」
「そっかそっか。レイちゃんかー。ふぅん」
 ママは意味深な物言いをし、パパは含み笑いでそれを受ける。
「で、柊は?」
 パパのストレートな質問は私の胸をザクっと抉った。
 聖と同じ日に恋をして、同じ日に再会したというのにかたや両想い、かたや片想い――。
「努力って報われるのかなー?」
 少々投げやりに問う。
「報われなきゃやってらんないでしょ?」
 ママの言葉はもっともだ。
 報われなくちゃやってらんない。
 でも、今の自分が報われてるかというと――。
「……報われてる、のかな? 少しずつだけど」
「柊? それどんな話なんだ?」
 話を聞きたくてうずうずしているパパを放ったらかしにして考える。
 再会したときはジャンプしないと視界に入ることすらできなかった。
 何を話しかけても「さぁ?」しか答えてもらえず、それでも何か言葉が返って来ればまだいい方。
 たいていが無表情に無視で、会話になどなりようがなかった。
 いつでも話すのは私ばかりで、ルイ君から返事などもらえなかったのだ。
 それが、今は声をかければ何かしら反応はしてくれるし、ジャンプしなくてもちゃんと視界に入れてくれる。
 これは一種進歩で、報われてるってことになるのかな?
「聖」
「ん?」
「私、れーちゃんのクラスメイトからルイ君の友達くらいには昇格できたかな?」
「……さすがにそこはもうクリアしてるでしょーよ」
「じゃ、進歩はしてる?」
「してるしてる。口には出さないけどさ、最近は俺よりも先に柊見つけてるっぽいしね」
「本当っ!?」
「んー、多分。俺の思い違いでなければ?」
 この際、聖の勘違いでもなんでもいい。
 とりあえず、モチベーション維持のためなら、天川柊、なんでも信じますっ。
「咲ちゃん、柊が相手してくんない」
「柊の好きな人もマサくんとこの子よ」
「え!? じゃ、ルイ君!?」
「みたいね」
 にこりと笑みを浮かべるママにパパは抗議した。
「何で咲ちゃんばかり知ってるのさ」
「それはやっぱり母は偉大ってことじゃないかしら?」
 どんな理由だ、とは思ったけれど、パパはそれであっさり納得してしまう。
 なんとも単純な家族だけど、それが仲良し家族の秘訣なのかもしれない。


     *****


 翌朝火曜日は雪が降りそうな雲模様だった。
 三月とはこんなに寒かっただろうか、と疑問に思う。
 私の記憶だと十二ヶ月の中で一番寒いのは二月のはずなのだけど……。
 そんな日でも起きる時間は変わらないし、朝食を作るスタンスだって変わらない。
 家にママがいてもいなくても、朝ごはんは自分たちで作るのが天川家。
 ついでに言うなら、家を出る時間も乗るバスも変わらないし、朝の日課だって欠かすことはない。
 一通り発声が終わる頃には体も温まっていた。
 ただ、聖だけが「寒い寒い」と言っていたけれど。
「あ、柊。俺、今日のバイト六時からにシフトしてある」
「了解。ってことは帰り別だよね?」
「うん、俺は美術室寄ってから帰るわ」
「わかったー」
 聖と別れ、つと足を止め振り返る。
 久しぶりに聖の背中を見た気がした。
 日常的に見ているはずの背中だけど、今見ている背中とは種類が違う。
 “分岐点”。それは必ずやってくる。
 どんなに仲の良い双子であろうと、歩む道すべてが同じなわけじゃない。
 むしろ高校まで一緒だったことのほうが珍しいのかもしれない。
 こうやって一緒に帰る日が減り、いずれ、家でしか会わなくなる日がくるのだろう。
「まだ、想像できないや……」
 声は小さく廊下に響く。
 徐々に慣れるかな?
 慣れるよね……?
 少しずつ離れていく片割れに、違和感を覚えずにはいられない。
 でも、いつかはそれが“普通”になる日がくるに違いない。


    *****


「おっはよー!」
 私はいつものようにれーちゃんとルイ君に声をかけ、恒例行事を済ませる。
 つまりは告白。
 これがいつまで続くのかは私次第。
 ルイ君がいい加減にしろと言ってもやめずにここまで来たのだ。
 なので、これからだって頑張る。
 ルイ君?
 申し訳ないけど、私、持久力だけはあるんだよ?
 あと、好きなものに傾ける情熱だけは半端ないの。
 だからこれからも覚悟しててね?
 その日四度目の告白をしたのは三限の移動教室の帰りのことだった。
 れーちゃんは絵の出展のことで職員室に呼び出されていたため、五階からスクエアタワー内のエレベーターで一階に降りた。
 私はひとり階段を下りてきて、移動途中のルイ君と鉢合わせたのだ。
 珍しいことに聖は一緒じゃなかった。
 最初に聖のことを訊くと、今日は日直だそうで、先に行って実験準備をしているとのこと。
 なんてことのない情報だけど、片割れのことを知るとどこかほっとする。
 ほっとした私はいつもの調子で恒例行事を繰り出した。
「ルイ君、好きです!」
 言ったそばからルイ君に手を取られ、廊下の端に連れて行かれる。
 なんだか近頃は“連行”されてばかりの気がしてならない。
「ルイくーーーん、今度はなんですかぁぁぁ?」
 連行されることにも慣れてしまいそうな今日この頃。
 壁際はまで連れて行かれ、じとりとルイ君を見上げる。
 すると、ひいらぎ、と――名前を呼ばれた。
 幻聴かと思った。
 目を瞬き、再度、しっかりとルイ君を視界にとらえる。
 私をじっと見る双方の目は、憂いを帯びているようにも見えた。
 いつもと違う雰囲気に居心地の悪さを感じずにはいられない。
 そんな中――。
「もうそんなふうに好きだとか言わなくていいから」
「……え?」
「それから、まとわり付かなくてもいい」
 頭の中が疑問符だらけだ。
 名前を呼ばれ、奇妙な雰囲気にもじもじしてたら爆弾を投下された。
 好きだって言うな? まとわりつくな?
 それはつまりどういうこと? 「好き」って、もう言っちゃダメってこと? こうやって挨拶しにくるなってこと?
 そしたら、どうやって気持ちを伝えたらいいのかな?
 どうやって身長差以上にある距離を縮めたらいいのかな?
 少しずつでも前に進めてると思ってた。
 距離が少しは縮まったと思った。
 それは全部私の思い違い……?
 すっと心が冷え、一気に凍る気がした。
 口から吸い込む空気が冷たく感じて仕方ない。
 震える唇をどうにか動かし「なんで」と短く訊く。
 むしろ、それしか言葉にならなかった。
 ルイ君は小さくため息をつく。
 そんな動作すらが恐怖の対象になった。
 この場の酸素が急に減っちゃったんじゃないか、と思うくらい胸が苦しい。
 次の瞬間、きゅっと……手に、ほんの少し力をこめられた。
 移動する際につながれた手は、まだつながれたままだったのだ。
「勘違いし過ぎ」
 勘違いって?
 何がどう、どの辺が勘違いなの?
 目だけで尋ねると、ルイ君はため息でも呆れ顔でもなく、言葉を発した。
「柊からの気持ちはわかったし、別にまとわり付かなくても俺は近くにいるだろう?」
「…………え?」
 ルイ君が何を考えてるのかサッパリわからない。
 今のルイ君は複雑すぎる。
 蓄積されたルイ君情報を総動員させて謎を解くと、
「近くにいるだろう?(今は……)」――だ。
 脳が考えることを拒否し始めたそのとき、予鈴が鳴った。
「だから……。いいから帰りは昇降口で待ってろ。いいな?」
 ルイ君は走って階段を上っていった。
 これから五階までともなれば、全力で走らねばならないだろう。
 けれど、ルイ君のことだ。
 きっと間に合う。
 私はとことこと歩き、クラスへ戻った。



Update:2011/12(改稿:2013/08/18)



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