光のもとで

第13章 紅葉祭 12 Side Sorata 01話

 実行委員で忙しく動いている中、クラスからのSOSが入った。
『俺らは今、自分たちの存在価値を問われているわけなんだが……』
 電話をかけていたのはクラス委員佐野の代行を買って出た男、小川圭介おがわけいすけ
「何があった? ほらほら、お兄さんは聞く時間もないくらいに忙しいんだけど聞いてあげるから」
『来る客来る客、みんな海斗と佐野を所望しやがんだよっ!』
 思わず携帯を耳から離す。
 そのくらいのボリュームで言われた。
『うちのクラスの男子は海斗と佐野だけじゃねぇっつーのっっっ!』
 ほぉほぉ、なるほどなるほど……。
 ま、海斗を所望する女子が多いのは想定済み。
 でもって、そこに佐野ね。
 そりゃ、うちのクラスの野郎どもは楽しくないわな。
『海斗と佐野っ、どっちでもいいからこっちに投入してっ! もう、世のお嬢様方のあんな視線と言葉には耐えられないのよっ!』
「圭介……まず、そのオネエ言葉を直そうか」
『わかったからっ、とにかく頼むよっ』
「はいはい……捕まえたらそっちへ行くように言っておく」
 早々に通話を切ったものの、
「まず海斗は無理だろ……?」
 落し物を事務室に届けたあと、少し気になって図書室に様子を見に寄ったけど、ノートパソコンと睨めっこして人の流動把握係をやっていた。
 テーブルに着いている生徒会メンバーが半数っていうことは、もう半数は交代で休憩中だろう。
 そんなところから抜け出せるわけがない。
 じゃぁ、佐野がどうかといえば……。
 こいつもこいつで実行委員や生徒会に首を突っ込んでいる要人。
 今日は生徒会よりも実行委員寄りの仕事であちこち走り回っている。
 が、しかし、こいつはクラス委員でもあるわけで――
 それは桃華も同じだけれど、桃華はクラス委員兼任で生徒会やってるからなおのこと無理。
 みんな無理といえば無理なんだけど、肩書き的に動かせるのは佐野だよな……。
「しゃぁないな……。とりあえず、佐野を捕まえるか」
 でも、逃げられたらどうするかな……。
 あいつに追いつけるのはこの学校に――というよりは、この近辺で佐野より足の速いやつなんてまずいないだろう。
 そんなときは――
「人海戦術?」
 口にして頭を振る。
 そんな人員すらいないときたもんだ。
 クラスにはクラスでの割り当て作業というものがある。
 しかも、休憩に出るのもぎりぎりの人数で回しているのだ。
 そんなことを考えているところに対象人物が通りかかった。
「佐野っ!」
 咄嗟に声をかけると目が合ったにも関わらず逃げようとする。
「なんで逃げんだよっ!」
「やっ、なんかすげぇやな予感がする」
 間違っていないどころか大当たりだ。
 でも、逃がさねえっ。
 追いかけたところで追いつける自信はない。
 じゃぁ、どうするか――
「あ、いいところにケンケン発見」
 佐野の向こう側に馴染みある顔が見えた。
「ケンケンっ、それ捕獲っっっ」
 佐野の前方にいたのは一学年上の笹野健太郎。
 一年C組笹野美乃里の兄、俺の幼馴染のひとり。
「それって、これ?」
 目で会話しつつ、バスケで鍛えられたフットワークで佐野の行く手を阻み捕獲した。
 それはもうガッチリと……。
 ひょっとしたら初対面かもしれないのに、胴体にしっかりと両腕を回してコアラ状態だ。
「ケンケン、ぐっじょぶ!」
「よせやいっ! 照れるじゃんかっ」
 ケンケンは佐野に抱きついた状態でもじもじと器用に照れて見せた。
「で? これ、どうすればいいの?」
「できれば、うちのクラスへ連行してもらえると助かります」
「へ?」
「いやぁ、なんだか海斗と佐野の所望率が半端ないらしくて」
「あ、そういうこと……」
 ケンケンは佐野の顔を見て、
「っつか、君逃げたい? お兄さんが逃がしてあげようか?」
「ちょっ、ケンケンっ!?」
「だって、俺のクラスだって司とゆんゆんいねーんだよっ! 稼ぎ頭を生徒会に持っていかれてるんだからな! 隠れらんらんファンだっているんだぞっ!」
 それはつまり、
「どうだ! うちのクラスは三人も生徒会に持っていかれているんだ」
 と、言いたいのだろうか。
 ケンケン、悪いけど、うち負けてないから。
「ケンケン、うちのクラスから何人中枢に持っていかれてると思ってんの? 海斗でしょ? 桃でしょ? 翠葉ちゃんでしょ? で、それ……の計四名。それプラス、実行委員の俺と七倉足したら六人だけどっ!?」
 三十人編成の六人というのはかなりの痛手だ。
 最後に笑みを添えると、ケンケンは「う゛……」と言葉を詰まらせた。
 わかったなら連れていってくれ。
「だってさぁ……それ、即戦力じゃんさ。明日にかければいいじゃん」
 まだ言うか……。
「なら、ケンケンのとこだってそーじゃん」
 段々言葉が砕けてくる。
「そうだけどさぁ……外部の人間なんてどのくらい客取れるかわかんないじゃん。だったら、今日中に得点稼いでおいたほうがいいじゃんさ。ずるいよ」
 そこで、「ずるい」言うか……。
「明日はどこだって苦戦するんだよっ。あーもうっ、面倒だから俺が自分で連れてく」
 間違いなくそのほうが早いし確実。
 佐野は話の流れからなんのことを言っているのかわかったようで、半分諦めた顔をしていた。
「ちぇーっ、なんかさ、いつの間にか俺よりも背ぇ高くなっちゃうしさー。ホント、空っちずるいよ」
 をぃ……。
 ケンケン、そこっ!? この話の流れでそこなのっ!?
「ね? 佐野くんもそう思わない?」
「はぁ……まぁタッパは欲しいっすよね」
 佐野とケンケンは身長が同じくらいだ。
 そこに仲間意識を持ったのか、「たぶん」初対面であろう佐野を相手に話を始めた。
 何を隠そう、ケンケンは知り合いだろうがなかろうが、誰とでも旧友のように話せる人種。
 時と場合、人によっては馴れ馴れしいと思うかもしれないが、そう思わせない何かがこの男にはある。
「ところでさ、佐野くん。美乃里って今クラスにいるの?」
「は?」
「あ、申し送れました。自分、笹野美乃里の兄、健太郎と申す。で、美乃里は今クラスにいるのかな?」
「……あの、うちのクラス一年B組ですけど?」
「うん、一年B組だよね?」
「……うちのクラスに笹野って人間はいないかと思うんですが」
「えっ!? 一年B組でしょ? 桃ちゃんとか空太と一緒で、しかも姫がいるクラスでしょ?」
「はぁ……そうですが」
「えっ!? 空っち、美乃里ってB組じゃないの? クラス委員やってるって何組のっ!?」
 出た、ケンケンのボケ……。
 俺たち幼馴染の中では驚くことではない。
 これが日常であり、突っ込むのは無駄な労力と認定されている。
「四月から半年も経ってるけど?」とか、本当に無意味な突っ込み。
 こういうときは、ただただ真実を話し諭すのみ。
「ケンケン、美乃里はC組。千里と同じクラス」
「えーっ!? でもさ、だってさ、しょっちゅう一年B組の人間の話してるよ? 理美とか和総とか圭介とか」
「それはバスケ部だからだろ?」
「あっ、そっかー!」
「はい、今の美乃里にばらされたくなかったら佐野をうちのクラスに届けてもらえるよね?」
「あ……空っち、いじめっ子っぽいぞ」
「さっきまで佐野を逃がそうとしてた人に言われたくありません」
「それもそっか、わかった。仕方ない。美乃里の様子を見に行くついでに送り届けてくる」
「くれぐれもクラス間違えないように。佐野を届けるのはB組。美乃里はC組。頼んだよ? じゃ、そういうわけで……佐野、がんばれ」
「……んじゃ、これだけうちの姉ちゃんズに届けてくれない? 飲み物を所望されてですね、かわいそうな弟はただいま使いっパシリ中だったんですよ」
 佐野が手に持っていたレモンティーを投げてよこす。
「了解、頼まれた」
 ふたりを見送り圭介に電話する。
「今、ケンケンが佐野を配達してくれるから、あとは煮るなり焼くなり好きにして? たぶん、逃げはしないと思う」
『まじでっ!? 空太様様っ! 助かったーーー!』
「とりあえず、今日のうちに稼げるポイントは稼いでおくように、ってそのうち桃からお達しがあるんじゃん?」
『実は、すでに通達済み。これ、見なかったことにしていいかな? ついでに、簾条からのメール、着信拒否にしていいかな?』
 気持ちはわからなくもないが――
「あのね、圭介くん。見なかったことにするのも着信拒否するのもかまわないけど、その後のあれこれまでは俺面倒見ませんからね?」
『……うぅ、やめておきます』
「うん、それが賢明だと思う」
 通話を切ると、今度はインカムから通信が入る。
『ただいま食堂混雑中。手の空いている人は入場制限に回ってください』
 それは海斗の声だった。
 即ち、生徒会からのお達しだ。
 そのあとすぐ、実行委員からの通信が入った。
『イベント班はすぐにクレープ屋とホットドック屋の開店準備してー。場所はテラス。クレープ屋は図書棟から。ホットドック屋は一、二年棟から時計回りにスタートさせる移動形態。食材がそこに届くように調理部に通達してあるから、くれぐれも調理部に遅れをとならないようにー! 準備が整い次第、持ち場責任者は連絡ください』
「やっべ、俺ホットドック屋だ。とっととコレを届けてこないと――」
 俺はまだ生徒の大半が知らされていないVIPゲストの控える第二音楽室へとレモンティーを持って走った。



Update:2011/09/01  改稿:2017/07/15



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