光のもとで

第14章 三叉路 40〜45 Side Yui 03話

 結果的に俺が司っちにできたことはほとんどない。

 ――「準備が間に合わないっていうのもあるけど、これはリィにとって特別なものだから。すり替えは無理だと思う」。

 言えたのはここまで。
 事の真意を話さず、裏があると匂わさずに話すのはこれが精一杯だった。
 言えることは言ったけど、伝えられたかというなら否。
 曖昧すぎるヒントは、情報と捉えられることなく終わった。
 でも、気づいてほしかったな。「依存物質」以上の意味に――
 リィは確かに携帯を物として大切にしているし依存しているとも思う。
 でも、それだけじゃない。
 リィが本当に大切にしているものは「物」じゃなくて「人」なんだ。
 それに気づいてほしかった。
 どうしたら司っちはそのことに気づけただろう?
 考えて考えて考えて――リィに何かプレゼントをされたことがあったなら気づけたのかもしれない、と思った。
 今回は間に合わなかったけど、きっと終わってからでも遅くはない。
 リィ、司っちと秋斗さんに何かプレゼントするといいと思う。
 歌やお菓子みたいにそのとき限りでなくなるものじゃなく、形あるものを。
 さらなる注文をつけるなら、何かの衝撃で壊れちゃうような……そうだな、ガラス細工とか?
 ちょっとした衝撃で壊れちゃうガラス細工なんて、これ以上にないほどぴったりなアイテムじゃん。
 それを手にしたら、ふたりとも物に固執する意味を知るんじゃないかな。
 同じ姿形のものがあっても同一じゃない。
 替えはきかない。物に人を投影する。
 リィ、教えてあげなよ。
 そういうの、リィならふたりに教えられると思う。
 むしろ、リィじゃないと無理。

 会長がリィに期待しているのはそういう部分。
 これはクリアできてた。
 でも、さすがに全部はクリアできなかったな。
 蔵元さんから教えられて初めて知ることもあったから。
 秋斗さんは俺に司っちサイドにいてほしかったんだって。
 俺、そこまで汲み取ることはできなかった。
 でも、及第点がもらえる程度の働きはしたと思う。
 なんていうのかな……。
 もし、秋斗さんの思惑を一〇〇パーセント理解していたとしても、あれ以上のことができたとは思えない。
 そんなに簡単に教えられるものじゃないよね。
「気持ち」って、言葉で教えられるものじゃないから。
 人と関わることって、言葉で教えられるものじゃないから。
 結果的には人とぶつからない限り得ることはできないんだ。
 普通そういうのは学校やクラブ、会社、人の集まるところで学ぶもの。
 でも、君も秋斗さんも違ったんだね。
 そういう場所にいても学べない弊害ってものがあったんだ。
 リィは身体に問題があってそういう場所にきちんと通えなかった子。
 状況は違うけど、対人スキル的には三人とも大して差はないのかもしれない。
 俺にはセリっていう似たような子が側にいたから、対人スキルに問題がある人たちと接してもあまり違和感がないんだよね。
「個人差」って言葉は優秀。
 どんな状況にも使えるから。
 何かひとつの事象が起きても捉え方受け止め方は三者三様。
 立場が違えばなおのこと。
 同じ出来事を目の当たりにしてもみんながみんな違うものを感じただろう。
 傷のつき方も、深さも、範囲も、何もかもが異なる。
 司っち、今苦しいと思う。すごく痛いと思う。
 でも、そこから這い上がってきてよ。
 秋斗さんがしたようにさ。
 ……できれば、あまり時間をかけずに戻ってきてほしい。
 いつもの君で、早くここに戻ってきて。
 で、またリィのことサルベージしてよ。
 こんなに落ち込んでいるリィをどうやったら引き上げられるのか、俺ちょっと検討もつかないんだ。
 何せ、自分を追い詰めるのが上手すぎる子だからね。
 色々手段を講じてみるつもりではいるけれど、現況、手段の「し」の字も浮かばない状態なわけで……。
 だから、助けに来てよ。スーパーマンみたいにさ。
 あぁ、司っちほどスーパーマンが似合わない人はいないかも?
 冗談はさておき――「たったひとつなんでもお願いを聞いちゃう券」を特別に一枚だけ発行してもいいよ?
 今回の裏事情はリィに話さないように手を打つから。
 だから、早く戻っておいで。



Update:2012/05/29  改稿:2017/07/19



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