二年以降は生徒会メンバーがA組に固まってしまうこともあり、クラスに大きな弊害が出そうに見えるけれど、実のところはそうでもない。三学年合同の組分けということもあり、クラス単位の紅葉祭よりは影響が少ないのだ。
会計ミーティングが終わった翌々日の昼休み、一年から三年までの赤組が一堂に会した。
「応援団長になった
どうやら、軽音部の風間先輩と同じ組らしい。赤いツンツンとした髪の毛は今も健在で、組の色ともあいまって非常に応援団長らしい風体だ。
「これから副団長ふたりを選出しようと思う。三年から団長出したから、二年と一年から副団長出したいっていうのが三年の意見なんだけど、反対意見ある?」
風間先輩があたりを見回しても人の手があがることはなかった。
「じゃ、自薦他薦問わないから名前あげて。まずは立候補。次に推薦を受け付ける」
一年に立候補者が三人いたことに対し、二年はひとりも手をあげなかった。
おかしいな……。こういうの、この学校の人たちなら率先して手をあげるはずなのに……。
「じゃ、次。推薦どうぞー」
直後、うちのクラスはほぼ全員が手をあげた。それにびっくりしたのは私だけではない。風間先輩も勢いに押されて身を引いたくらいだ。
「な、なんなんだよおまえら……」
風間先輩の言葉に海斗くんが、
「うちのクラスの意見、全員一致なんで」
「……で? 誰を推薦?」
「「「「「「「御園生翠葉」」」」」」」
大きな声と自分の名前にびっくりする。
その後、自分に視線が集まったのは言うまでもない。
「か、海斗くんっ!? 無理だよっ」
「まぁ、そう言うなって。競技にはあまり出られないんだから、応援合戦くらいガッツリ参加しようぜ!」
「でもっ――」
うろたえている私に三年生の声がちらほらと届き始める。
「確かに、うちの組に姫がいるんだからそれを使わない手はないよな。黒組だって藤宮を団長にするだろうし」
「姫の長ラン姿超見てぇ!」
「えー? 俺はチアの衣装のほうがいいなぁ」
「わかってないなぁ……女の子が学ランを着るからいいんじゃんっ!」
唖然としているうちに話し合いは進み、あっという間に副団長に任命されてしまった。因みに、一年の副団長は飛翔くんである。
立候補者が三人いたものの、三学年合同の多数決では圧倒的に飛翔くんを指示する声が多かった。
考えてみれば、球技大会ではツカサと並んですごい人気だったし、そのあとの写真コンテストでも飛翔くんの写真は多数寄せられた。ツカサと海斗くん、朝陽先輩には及ばないものの、校内で四位という人気を誇っているのだから、こういった場で推薦されないほうがおかしい。
それを言うなら、三年生や一年生から海斗くんも推薦されていたけれど、海斗くんが私の名前を出した途端に却下された感じ。
チアのリーダーは三年の沙耶先輩。そしてサブリーダーには美乃里さんと、一年生の快活そうな女の子が任命された。
「応援歌の大元になる曲を決めたいんだけど、これいけそうってのないかな?」
風間先輩が辺りを見回すと、次々と案があがり、いくつか出揃ったところで多数決になった。そして曲が決まると、
「おい、そこの一年! 名前は?」
「竹林です」
「竹林の推薦した曲が通ったんだから、おまえが中心になって応援歌の歌詞考えろよ。任せたからな!」
「えっ!?」
「えっ、じゃねーよ。何もひとりで考えろなんて言ってない。有志集って考えろって言ってんの! 期間は三日。できたら持って来い。ダメだしガンガンしてやっから」
「うぉー……がんばりますっ」
「おう、任せた!」
応援合戦では曲を流すもよし、自分たちで演奏するもよし。楽器の持ち込みも認められているため、組に何人楽器を演奏できる人間がいるのかの確認を取ったり、風間先輩は精力的に組をまとめていく。
応援歌のほかには衣装のパターン製作班、モニュメント製作班、チアリーディング班、応援団班などに分かれ、めまぐるしい勢いで物事が進んでいた。
応援合戦に力を入れる傍ら、競技の練習にも時間は割かれる。
競技によって加点されるポイントが異なるため、どこに重点を置いて練習をするのかは組によってそれぞれ異なった。
団長や副団長はそれらのスケジュールを組むところから仕事が始まるらしい。
初めてのことに戸惑っていると、
「御園生さん、あんぐりしてるけど大丈夫?」
風間先輩に声をかけられた。
「こういうの初めてで……」
「うん、そんな感じだよね。とりあえず、最初にスケジュールさえ組んじゃえば、あとはその通りに行動するのみだからさ。ちょっとがんばろうか」
「はい」
そこへ衣装のパターン班の班長がやってきた。
「亮太、姫をちょっと借りたいんだけど」
「あぁ、衣装の採寸ね。今ここでやってもらえる?」
「了解」
私は身体を衣装班に任せ、意識だけを風間先輩と飛翔くんとの話し合いに向ける。
本格的な話し合いになる前に確認したいことがひとつ。
「あのっ」
「ん?」
「副団長ってスケジュールを組む以外に何をすればいいんですか?」
「応援合戦のための簡単な振りや配置を考えて覚える。次は、応援団の前で模範となるべく実践。早い話、自分のクラスの応援団班に、振りと陣形を教える役って感じかな」
振り……陣形……模範……教える……。
果たして自分にできるのか……。
不安に目を泳がせると、
「安心してよ。御園生さんが走ったりできないのは知ってるから、そういうことがないようなものを考案するつもりだし、ひとりで声を張るのは俺の役目。御園生さんはその他大勢の応援団と一緒に声を出せばいいだけだよ。ひとり悪目立ちすることはないから」
「は、はい……」
「御園生さん、笑顔笑顔っ! 紅葉祭と一緒、楽しんだもの勝ちだよ!」
私は苦笑い全開で浅く頷いた。
その日の放課後――クラスの生徒会メンバーに連れられて図書室へ行くと、にんまりとした三年メンバーに出迎えられた。一年の飛竜くんと紫苑ちゃんもにこにこと笑っている。
これはもしかしてもしかしなくても、姫と王子の出し物がお披露目される、という雰囲気ではなかろうか。
図書室に足を踏み入れて二歩目で立ち止まると、
「まぁまぁまぁまぁ、こんなところにいないで席に着こうよ」
海斗くんに背中を押されてテーブルに着いた。
先に席に着いていたツカサは、すでに不機嫌そうな顔をしている。
「今回の姫と王子のイベントなんだけど、権利取りリレーだから」
朝陽先輩の言葉に首を傾げる。
権利取り、リレー……?
たぶん、やることとしてはリレー競技なのだろう。その前についている、「権利取り」とはなんだろう……?
「翠葉には悪いけど、姫と王子の出し物って、姫と王子が生贄になる、っていうイベントなのよ。だから、それに準ずるイベントよ」
桃華さんは申し訳なさそうに言うけれど、最後には笑みを浮かべていた。
「何をやるかというというならムカデ競争」
ムカデ競争とは、競技者となるチーム全員の足を固定した状態でリズムを合わせて走り、ゴールを目指すというアレだろう。
「各組男女別に三グループずつ形成して計六グループ。このグループでリレーをしてもらう。で、順位に応じてポイントを加算。また、優勝した組にはご褒美が用意されている」
朝陽先輩の説明はこれで全部だろうか。
これだけなら普通の競技と変わらないように思える。いったいどこに姫と王子が絡められるのだろう。
疑問に思っていると、
「褒美って……?」
胡散臭そうにツカサが口を挟んだ。すると、
「勝った組の人間を抽選で三人選んで、当選者には姫または王子と一緒にお弁当を食べられる権利を発行。それから、全校生徒へ発行するものとして、姫のチア姿、王子の長ラン姿のスチル写真をデジタルアルバムに収録することが決まってる」
「やですっ」
「ごめん被る」
「おふたりさん、ごめんね? これ、決定事項だから」
優太先輩がにこりと笑って差し出したプログラムには、あらかじめ決まっている競技種目のほかに、姫と王子の権利取りリレーと記されていた。
ふと思う。このプリントが印刷済みということは、すでに体育委員や紫苑祭実行委員に配布されたあとなのではないだろうか、と。
「基本、姫と王子の出し物って全校生徒に還元されることが前提だし、写真以外に何か案があるなら聞くけど? 正直、前回の紅葉祭よりはいいと思うし、前回の紅葉祭並みに全校生徒に還元できる出し物があるなら提案してくれてかまわないよ? 全校生徒に還元する、という意味で、写真撮影とライブステージを比べれば、写真撮影のほうが企画価値は低いよね。それゆえ、抽選で選ばれた人のみにお弁当タイムを付加したんだけど」
朝陽先輩は笑顔を崩さずに言うけれど、対抗できる案など出てくるわけがない。
対抗できる、イコール、私とツカサにとってはもっと不利な企画を提案しなくてはいけないのだから。
しかし、ツカサは負けじと口を開いた。
「第一、翠が男とふたりで弁当を食べられるとは思えない」
二、三年メンバー、そして飛翔くんは理由を知っている。しかし、理由を知らない飛竜くんが、
「え? なんでですかー? 楽しくお弁当食べるだけですよ?」
ツカサがイラついた様子で飛竜くんを見ると、飛翔くんが、
「あの人、面倒なことに男性恐怖症の気がある」
「えっ!? そうだったんですかっ!? じゃ、何? 俺とか生徒会メンバーって男って見られてないんですか? あれ? でも、そうすると司先輩はっ!?」
ツカサは完全に飛竜くんを無視して朝陽先輩に視線を定めていた。
「司も心配性だなぁ……。その点は桃ちゃんがしっかりクリアしてくれてるよ。別にふたりきりで食べろって言ってるわけじゃない。当選した人間への風当たりが強くならないように、当選した人間は友達を五人まで誘っていいことになっているし、姫と王子も五人まで友達を誘っていいことになってる。それにさ、必ずしも姫だけが指名されるとも限らない。当選した人間は、姫と王子の両者を指名することもできる」
そのルールを聞くと、ツカサは面白くなさそうに口を閉ざした。つまり、何も言えなくなったのだろう。
なんとなくだけど、このツカサを黙らせるためだけに何度もミーティングが重ねられ、どこも付け入る隙がないのを確認してから私たちに開示したのではないか。
そう思うと、観念するしかない、と肩を落とすのみだった。
Update:2015/07/02(改稿:2017/09/12)
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