光のもとでU+

キスのその先 Side 御園生翠葉 04話

「ツカサに触れられたら、おりもの、出なくなる……?」
「……それはない。どちらかと言うなら、分泌物が出る立証はできると思うけど……。ただ、分泌物が出るならそれに伴った行為をすればいいだけだけだと思う」
「え……?」
「つまり、こういうこと……」
 ツカサの右手が動き、腰から脚へと移動する。その手は脚の間を割って入り、すぐにショーツへ到達した。
「やっ――」
 ツカサの指はショーツのクロッチ部分を数回なぞり、ショーツの脇から差し込まれる。
 ツカサの指が、婦人科の先生にしか触れられたことのない場所に触れた。
「ツカサ、やめてっ。恥ずかしいっ」
「恥ずかしいだけなら我慢して」
 粘液をまとった指がぬるり、と秘部を滑る。
 それはなんともたとえがたい感覚だった。
 自分の意識がすべてそこへ集中してしまうような、強烈な感覚。
「痛ければ言って」
 そうは言うけれど、ツカサはひどく優しく指を滑らせるだけなので、痛いわけがない。どちらかと言うと、初めて与えられる刺激に気持ちよさを感じていた。
 そんな自分に戸惑いながら、
「でもっ、汚いからっ――」
「汚くないし……」
 次の瞬間、身体が震えるほどの刺激を与えられる。
「んっ、やっ――」
 ツカサの指が少し動くだけで、身体の奥の方がジンと疼く。
 こんな感覚は初めてだ。
「もっと感じて……」
「感じる」というのがどういうことを指すのかがわからない。
「気持ちがいい」と思うこれが、「感じる」ということなのだろうか。
 ツカサに唇を塞がれ舌が差し込まれると、執拗なまでに舌を吸われ扱かれた。
 キスから生じる水音とは別に、秘部からもピチャピチャと水音がしていて、どれほど濡れているのか、と思えば恥ずかしくて仕方がない。しかも、キス以上に卑猥な音に思えて羞恥心で脳がショートしてしまいそうだ。
 ツカサの指は秘部をゆっくりと撫で、私が反応した場所で動きを止める。
「ここ、感じるの?」
 場所を確認するように丹念にさすられ、身体がビク、と跳ねた。
 急にツカサが身を起こし、あっという間にショーツを剥ぎ取られた。
「洗濯機回してくる」
 部屋を出て行くツカサを見送ることもできず、恥ずかしさのあまりに両手で顔を覆う。しかし、部屋に戻ってきたツカサに両手首を掴まれ、顔をさらす羽目になった。
 恐る恐るツカサの顔に焦点を定めると、どうしてかとても優しい表情をしていた。
 優しいうえに嬉しそうにも見える。
 こんな表情は今まで見たことがない。
「どうして……? どうしてそんなに嬉しそうなの?」
「嬉しいから。逆に、翠はどうしてそんな不安そうな顔?」
「……だって、嫌いにならない?」
「なんで?」
「…………」
「分泌物?」
 コクリと頷くと、ツカサは額にキスをしてくれた。
「嫌いにならない。むしろ嬉しい……。キスに感じてくれていたことが。触れると奥からさらに溢れてくることが」
「……どうして?」
「この分泌物がなかったら、性行為は苦痛なものになると思う。分泌物が潤滑油になるから男性器がそこに入っても摩擦がおきづらくなる。……つまり、双方痛みを感じずに済む。そういうもの。……翠の身体は俺を受け入れる準備を整え始めたわけだけど、それが嬉しくないわけがないだろ?」
「……そう、なの……?」
「そう……。ちなみに、膣分泌液は膣液をはじめとして、バルトリン腺液、スキーン腺液、子宮頚管粘液とあって、それらすべてを総称して膣分泌液という。俗称は愛液」
「あい、えき……?」
「愛するの愛に、液体の液」
 頭の中で漢字に変換すると、なんだかとっても恥ずかしい文字に思えてうろたえる。
「翠のこれは病気じゃないし、婦人科にかかる必要もないから安心していい」
 そう言われて少しほっとした。
 再度、ツカサが秘部に指を這わせる。
「ぁっ……ん、ゃ……ぁ……」
「気持ちいい?」
 私は顔を逸らしてコクリと頷く。
「良かった……。なら、もっと感じて。気持ちがいい場所をもっと教えて」
 ツカサは執拗に秘部をいじりだす。すると、つぷ――
 それまでとは違う感覚に身体が硬直する。
 咄嗟に脚を閉じようとしたけれど、ツカサの腕がそうはさせてくれなかった。
 何をしたのか、とツカサの顔を見ると、ツカサは目を見開いており、私の視線に気づくとものすごくばつの悪い顔をした。
「ツカ、サ……?」
「……悪い。入れるつもりはなかったんだけど……指が滑って中に入った」
 それはつまり――
 体内で指が蠢く。
「んっ――」
 ゆっくりと動いたそれは出口へ向かって移動し、次の瞬間に異物感はなくなった。けれども、ツカサの指はまだ秘部に触れたまま。上下に何度かさすられ、またつぷ――と中へ入ってくる。
「痛い?」
「……痛くはないけど、変な感じ……」
 それは身体の内側から内臓を圧迫されているような奇妙な感覚。
 婦人科で検査機器を入れられたような異物感ではない。あそこまで硬質ではないし、冷たくもない。
 経膣エコーをしたときは無遠慮に加えられる力に苦痛を強いられた。でも今は――圧迫感はあるけれど、とても遠慮気味に力が加えられる。
 あ――
 ――「検査と性行為は別物よ」。
 玉紀先生の言葉を思い出し、少し意味がわかった気がした。
 羞恥心や行為に対する恐怖心はある。でも、耐え切れないほどの「嫌悪感」は覚えないし、「拒絶反応」も起きてはいない。
「翠、大丈夫なら、もう少し奥まで入れてみてもいい?」
 ツカサの胸にしがみついたままコクリと頷くと、ツカサはゆっくりと指を進めてくる。
 痛みはない。ただ、体内をゆっくりと進んでくる存在を感じるのみ。
「翠、呼吸」
「えっ?」
「呼吸が止まってる」
「あ――」
 言われるまで気づきもしなかった。
 初めてのことに神経をもっていかれていて、生きるために必要な行為すらストップしてしまっていた。
 いざ呼吸を再開させようとしても、身体に変な力が入ってしまっていて、どこかぎこちない呼吸になってしまう。
「キスしたら、少しは緊張ほぐれる?」
「わ、からない……」
 私の返事を聞くと、ツカサは控えめに、優しく触れるだけのキスを何度もしてくれた。
 少しすると、ツカサの唇が付かず離れずの距離を保ちだす。
 キスしてもらえそうなのにしてもらえなくて、もどかしくて自分からツカサの唇に近づく。と、近づいた分だけ離れていく。
「……キス、したい……」
 恥ずかしく思いながら目を見て言うと、ツカサはクスリと笑みを零した。
 数秒間視線が絡み、ねだるようにツカサの唇に自分のそれを重ねると、ツカサは舌先を使って私の唇をなぞる。
 不意にツカサの舌で口蓋をなぞられゾクリとした感覚が背筋を走った。すると、
「気持ちよかったんだ?」
「え……?」
「中、一気に引き締まった。それに、急に愛液が出てきた」
「っ……」
 恥ずかしくてツカサから視線を逸らすと、逃がさないとでも言うように唇を塞がれる。
 引き抜かれたツカサの指は粘液をまとったまま膣口のあたりをなぞっている。そして、
「ここも気持ちいい?」
 それまでとは違う場所をピンポイントで触られた途端、身体に電流が走った気がした。
「そこっ、やっ――」
 私の反応にツカサは満足そうな顔をして、緩急をつけて一箇所をさすり始めた。
 それはしだいに大きな波を連れてくる。
「ぁっ……ツカサっ、ゃっ……んっ」
 なんか、変――
 与えられる刺激に全神経が支配され、徐々に上り詰めていくような感覚が生まれる。
「ぁっ……やっ――ツカサっ、怖いっ」
 涙を流して懇願してもツカサはやめてくれない。
 身体はどんどん何かに向かって上り詰めていく。
 このままどうなってしまうのかわからない中、
「あっ……あっ……あっ……やぁっっっ――」
 私は不安を抱いたままその波に攫われた。
「も……ほん、とに、も……だ、め――」
 肩で息をするほどに呼吸が乱れ、涙が頬を伝う。
 そんな私を見て、ツカサは満足そうに表情を緩め、涙が流れた頬に唇を寄せた。
「きれいだ……」
 一言零しては、涙に濡れる目の縁にキスをしてくれた。



Update:2018/10/08



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