Twins〜恋愛奮闘記〜

出逢い Side 柊 04話

 家に帰ってきた私たちはしばしぼーっとしていた。帰りの道のりもほとんど会話がなかった。
 こんなことは珍しい。
「聖、お茶飲もう。お茶」
「あ、賛成」
「「気分はミルクティー?」」
 ふたりの声が揃ったことにふたりして笑う。
 私は苺の香りが幸せ気分にしてくれるフレーバーティーで、聖はビターキャラメルのティーパックをカップにセットした。どちらもミルクティーに合うアッサムをベースにしたお茶。
 リビングのソファに並んで座り、ポツリポツリと話し始める。
「聖、今日、王子様がいた」
「柊、今日、女王様がいた」
 ふたり顔を見合わせ唖然とする。
「「っ!? それってカフェで見たふたり!?」」
 声はきれいに重なり、チョイスする言葉までもが一緒という始末。
「「双子って顔の好みまで似るものなの?」」
 これまた声が重なったけれど、声以上にそんな疑問すらがかぶる。
「今度、都ちゃんたちに訊いてみる?」
「柊、それ、間違いなく弄られコースな気がする」
「あ、そっか。聖、とってもいいところに気付いたね」
「とりあえず、俺たち同性の双子じゃないから、好みが似てても困らないし……」
「それもそっか……」
 都ちゃんと神楽ちゃんの異性の好みが似てたらどうなるのか……。
 少し考えて怖いと思った。
「柊、あのふたり、好みは違う気がする……」
「どうして?」
「だって、性格的にも静と動でかなり違うし……」
 本当のところはどうなのかわからないけど、聖が言ったことが正しいと信じたい。
「私たちのこれは“恋”なのかな?」
 そんなことすらがわからない。実のところ、私たちは“恋”というものがどういうものなのかを良くわかっていない。
 中学の頃くらいからかな? 周りの友達にちらほらカレシだとかカノジョができ始めたけれど、私と聖には十六年間カレシやカノジョがいたことはない。
 毎年仲良く誕生日もクリスマスも兄妹一緒に過ごしてきたのだ。それはふたりきり……という意味ではなくて、友達に祝ってもらうときもいつでも一緒だったという意味。
 “恋”がどんなものかはわからないけど、さっきの王子様が気になって仕方ない。端整な顔やすらっとした後ろ姿が目に焼きついて放れない。
 こういうの“一目惚れ”って言うのかな?
 私の周りにだって“かっこいい”と言われる人はそれなりにいたはずなんだけど、その人たちに目を奪われることはなかった。こんなにも心に引っかかる人は今までいなかった。その人たちと王子様にどんな差があるのか――。少し考えてみたけど、同じ人間だし、異性だし……。あ、ハーフっていうところが違うのかな?
「年越してもまだ気になってたら――そしたら、またカフェに行こうか」
 私は聖の提案に頷いた。


     *****


 二杯目のミルクティーが飲み終わる頃、とあることを思い出した。
「そうだ、アキに電話しよ? 美少女さんに会えるのかどうかもうわかってる頃じゃない?」
「あ、そっか。俺ら誕生日終わっても年内に楽しみ残ってるじゃんね?」
「そうそう。今度こそ、美少女さんを拝まなくちゃ」
 “美少女さん”とはアキの学校にいる子のこと。私たちは中学が一緒の山田太郎ことタロちゃんから聞いて知ったのだけど、すっごくすっごくかわいいらしい。
 タロちゃんとアキの共通点といえば、中三のときに怪我で藤宮病院に入院してたことくらい。ふたりはそこで友達になったみたいだけど――そのふたりが知ってる子……ということは、恐らく同じ病院にいた子なのだろう。でも、どうやら入院中にはお近づきになれなかったらしい。
 タロちゃん曰く、「高嶺の花すぎて近寄れん」だ。そんな子が今はアキのクラスメイトだという。
 これは何がなんでも拝まなくちゃでしょー。同性だろうとなんだろうと、かわいいものは好きなのだ。
 本当だったら学祭のときに会えるはずだった。でも、アキのクラスの出し物、クラシカルカフェに行ったけどお目当ての子はいなかった。
 あらかじめ、ウェイトレスとして出てる時間を教えてもらっていたから、その時間に目標を定めて行ったんだけどいなかった。
 あとで訊いたら、具合が悪くなって保健室で休んでいたとのこと。
 四月から美少女さんを見ることを楽しみにしていた私たち三人はとーっても残念だったわけだけど、具合が悪かったんなら仕方ないよね? でも、だからといって、そこで諦めるほど諦めがいいほうでもない。
 そんなわけで、その日のうちにアキにとある“提案”をした。それがつまり、カウントダウン初詣に呼びなよ! というもので、アキはクラスの人間に声かけとくって言ってたけど、実際にその美少女さんが来るのかの確認はとれていなかった。
 アキに電話すると、「誕生日おめでとう」を言われ、私たちはプレゼントのお礼を言ったあとに美少女さんの話を振る。
「ね、カウントダウンに美少女さん来る?」
『来るよ。でも、もう一度言っておくけど、ぎゃーぎゃー騒ぐとたぶん引く』
「えっ……私、美少女さん見て騒がない自信が0.1ミリほどもないんだけど?」
『柊、そこは頑張って抑えろ。引くって言うよりは怯えるから』
「えーーーっ!? そんなの無理だよ。聖、どうしよう!?」
「わかった、俺が口と鼻押さえてるよ。因みに羽交い絞めにして動きも封じようか? 必要だったらするけど?」
『聖、さすがに鼻か口のどっちかは開放しといて……。じゃないと、柊死んじゃう』
「あ、そっか。柊、鼻と口どっちがいい?」
「……鼻だと口が勝手に喋っちゃいそうだから口で……」
『お前ら、そこ、真面目に話すとこじゃないから……』
「そう?」
 聖と訊き返すと、
『――そう。でも、マジで、普通に友達になる感じで来てよ。事前情報その二。警戒心ゼロだけど、人見知りは意外と激しいほうだと思う』
 もらった“事前情報”にドキドキ度が増したけど、楽しみ度合いも増した。


*****


 三十日の夜、音楽教室を締めると入り口のドアに新年の挨拶のポスターを貼り、私と聖は戸締りの最終確認を済ませてから家を出た。
 アキの家は支倉から九つ目の駅。同じ路線だから、本当は電車一本で行けるけど、私たちは少しばかり面倒な行き方をする。
 支倉は快速急行が停まるけど、アキの住む最寄り駅“和楽(わらく)”は準急しか停まらない。だから、快速急行に乗り、一度“和楽”を通り過ぎる。そして、藤倉から準急で一駅戻るほうが早いのだ。
 乗り換えは面倒だけど、これで十分くらいは早く着く。改札は出ないから料金は変わらず。
 私たちって何て賢いんだろう?
 普段、学校に行くのにバスを使う私たちは電車に乗るのが久しぶり。それこそ、藤宮の学祭に行って以来だった。
「通学時のバスよりはいいけど、やっぱり年末は混むんだねぇ?」
 乗り物や人ごみにおいては私の保護者となる聖の胸に背中を預け、上を見上げる。
「んー……終電近くなったらもっと混むんじゃない?」
「どうして?」
「だって、忘年会シーズンじゃん。終電で帰る人間のほうが断然多いって」
「あ、そっか。お酒飲んだら車の運転できないもんね?」
 平和な会話をしつつ、人ごみに流されて藤倉で乗換えを済ませる。
 反対方向の準急列車は、今乗ってきた快速急行ほど混んではいなかった。
 和楽に着き、十五分ほどのんびり歩くと“鎮守の杜”と呼ばれる小さな森林が見えてくる。その森林の中に神社があり、境内敷地内に建つ社務所の裏手、境内の外にアキの家は建っている。
 いつものルート、神社を突っ切り裏道を抜けてアキの家に向かう途中、どちらからともなく歩みを止める。
「聖、クリスマスのイルミネーションもきれいだったけど、これはこれできれいだよね?」
「うん。毎年のことだけど、年末年始のこのライトアップは雰囲気がいいなと思う……」
 夜の神社といえば、おどろおどろしいものを想像する人が多いかもしれないけれど、今、この神社はそんな言葉とは無縁だ。ところどころライトアップされているそれは、決して“適当”に配置されたものではなく、きちんと照明屋さんに依頼して設置してもらったものなのだ。
 華やかになりすぎず寂しくもなく、神社という場所の雰囲気を壊さないように計算されたライトアップ。“おどろおどろしい”より、“幻想的”ですらある。
「あ、鳥居もきれいになってたけど、ほかの部分もきれいになってるね?」
「ホントだ……。じいちゃんにキレイになってたって言いにいこっか?」
「うん。反応薄いけど、アレ、すっごく喜んでるんだよね」
「そうそう。でも、急がないと。そろそろじいちゃん寝る時間」
 時計を見ると九時前だった。
 アキの家のインターホンを鳴らすと、「いらっしゃい」とおばさんが出迎えてくれる。
 アキの家はママの実家でもある。うちのママとおばさんは双子姉妹。つまり、おばさんはお婿さんをもらって結婚したのだ。
 今はおじいちゃんが宮司を勤めてるけど、いずれはおじさんがが宮司になる。
「こんばんは。今年も年明けまでお世話になります」
 聖が言うのと同時に、ふたり揃って頭を下げる。頭を上げ、おじいちゃんがまだ起きてるか訊くと、居間で待ってると教えてくれた。
 居間に行くとおじいちゃんはみかんを食べながらお茶を飲んでいた。
「おじいちゃん! 神社、今年もすごくきれいね!」
「鳥居とか全部塗りなおしたんだ? 少し古くなったのに苔が生えてる感じも好きだけど、やっぱり緑の中の朱色は映えていいよね」
 おじいちゃんは少し目を細め、
「神様とばぁさんに挨拶を済ませなさい」
 と、祖霊舎に目をやった。
 神道の家には“仏壇”の代わりに“祖霊舎”がある。
 私たちは来る途中で買ってきた、おばあちゃんの大好物のみたらし団子を祖霊舎に供え、二拝二拍手する。神社を参拝するときと一緒。
 先に神様に挨拶を済ませてからおばあちゃん。
 おばあちゃん、柊です。
 ママたちは海外に演奏旅行に行ってるから、今年は聖と一緒にみたらし団子買ってきたよ。天国のお友達と一緒に食べてね。
 私たちが最後の一拝を済ませ、ロウソクの火を消したときにはおじいちゃんはもういなかった。
「じいちゃん、相変わらず気配がないよ……」
「私、襖を開ける音、全然気付かなかったんだけど、聖は?」
「俺も……」
 そんな私たちを見てくすくすと笑うおばさん。
「聖のお布団はもう明の部屋に、柊のお布団は都の部屋に運んであるわ」
「ありがとうございますっ!」
「アキは部屋?」
 聖が訊くと、「えぇ」と答えるおばさんは不思議そうに二階を見上げる。
「おかしいわね? いつもなら出迎えに下りてくるのに……」
「あ、俺らが上に上がるからいいですよ」
 そう言って居間をあとにした。



Update:2011/12(改稿:2013/08/18)



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