先生の楽しみ Side 玉紀直   著:玉紀直さま

「面白い子ねぇ……」
 思い出すと笑いがこみ上げてくる。数日は今日の事を思い出して笑わせて貰えそうだと、私は知らずほくそ笑んだ。
 パソコンのモニターには、保存して残した“証拠物件”が映し出されている。あの面白い藤宮秋斗の“不特定多数不純異性交遊”の証拠写真だ。
「女とヤる事は一人前でも、男として一人前じゃなくちゃ、何の魅力も無いのにね」
 その事に気付いていない彼を、反対に哀れに思う。
 モニターに映る彼の顔を見ながら、私は彼に対する好奇心を抑えられない。

 らちのあかない話し合いをし、「はいはい」と生返事をして口角を上げる生意気な少年。彼を帰し、「アイツおもしれぇ」と喉の奥で笑いながら仕事に戻った愛しの旦那様を見送った後の保健室。
 他の生徒が訪れる事もなく、今は私だけの世界。
 このストイックなまでに凛とした空間が、私は大好きだ。
 でも、あの藤宮秋斗が入室してきた瞬間、どこか淫質な空気が混じってしまったような気がする。
「家庭環境かしらねぇ……。捻くれてて生意気で、自分の思い通りにならない人間なんて居ないと思ってる……」

 私は椅子から立ち上がり窓辺へ寄ると、レースカーテンを引いて窓を少し開けた。心地良い風が入り込み、藤宮秋斗に汚された空気成分が外気と混じり、かき消されていく。
「ざまぁみなさい」
 彼の気配を保健室から追い出して、私は一人クスクスと笑った。

 あの子、面白い。
 本当に面白い。

 いつか、いつの日か、自分の思い通りにならない出来事が起こったら、あの子どうするのかしら?
 そう、たとえば……。

 ――思い通りにならない女に、思い通りにならない恋をしたら……。

「……最高に面白いわ……」
 そう呟いて、私は笑うのをやめた。
 彼には、本当にそういう女に出会って、そういう恋をしてもらいたい、そう感じたからだ。

 心から誰かを想うという経験をしなくては、あの子は変われない。

 いつまでも世の中をひねた、生意気な少年でしかいられない。

 
 モニターに視線を移し、私は改めて決意をする。

 ならば、見届けてやろう。
 彼が、心から誰かを想えるようになるところを。
 心から誰かを想い、誰かの為に悩み、誰かの為に泣くところを。

「それが、本当の“恋”だからね? 藤宮君」

 私は返事をしないモニターの彼に話しかけ画像を閉じると、彼の気配を完全に消した。



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END 

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 こちらのお話はお友達サイト、【恋愛meseum】のサイト管理人様、玉紀直さまからいただいたお話です*
はい、作中の“なっちゃん先生”のモデルの方です*
うちのサイトでは味わえない素敵なお話をたくさん書かれていらっしゃいます。
直さまのサイトのお話をお読みになる際には【前書き・あらすじ】をよくお読みになられてからお話へとお進みくださいませ*

 直さま、素敵なプレゼントをありがとうございました*

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