Twins〜恋愛奮闘記〜

出逢い Side 柊 01話

 おはようございます、こんにちは、こんばんは。
 この三つを口にすれば、どれかしら当てはまってくれると信じてます。
 あ、失礼しました。
 私は天川柊(あまかわひいらぎ)と申しまして、今年の春から私立支倉(はせくら)高校に通っている一年生です。
 私には双子の兄がいるのですが、あとほんの数分、私が出てくるのが遅かったら日付違いの双子になるところでした。
 楽しいことが大好きな両親のことです。そんなことになろうものなら、間違いなく日付違いの双子としてお役所に届け出ていたことでしょう。
 音楽家の両親はとても自由気ままな人たちで、「誕生日が二日も続くなんておめでたいっ!」と言うに違いありません。
 兄の聖(ひじり)と私は、本日、十二月二十四日をもちまして、めでたく十六歳になりました。
 今年も例年と変わらずにぎやかな季節になったわけですが、何が違うというならば、両親が演奏旅行で海外に出かけていることでしょうか?
 神様が仕組んだいたずらはこの日に起きました――。


     *****


 朝起きて、出窓に飾ったパパとママの写真に向かって「おはよ」と口にする。
 ベッドの上で軽く伸びをしてから部屋を出ると、向かいの廊下に私と同じようにドアを開けた聖が立っていた。
「おはよ」
 ふたりの声が重なる。
 言葉もテンポも言うタイミングも一緒。それが毎朝のこと。
 ふたり揃って三階から二階のキッチンへと移動し、各自の分担に手をつける。
 私はハムエッグ担当。聖はコーヒーとトースト担当。かかる時間はきっかり7分。
 ダイニングテーブルについたら「いただきます」。もちろん手を合わせることだって忘れない。
 最初に手を伸ばすものがマグカップというのも一緒。違うのはカップの中身。聖のはブラックコーヒーで私のは砂糖入りのカフェオレ。それだけ。
 次に食べるのはトマトなのだけど、お塩に手を伸ばすタイミングも一緒になってしまう。そこで決めたルールが一つ。
 聖はお塩を私のと自分のと両方にかける。私は目玉焼きにかけるお醤油を聖と自分のにかける。これでタイムロス相殺。
 トマトを一つ食べたらチーズの乗ったトーストをかじり、一番最後に目玉焼きを食べる。
 生まれたときからずっと一緒にいるからか、行動の順序が一緒になるのは日常的。友達にはユニゾンとか奇跡のシンクロ率と言われるまでになった。
 うん。自分で言うのもなんだけど、私と聖はとても仲のいい兄妹だと思う。
「今日の予定って一緒?」
 朝食の片づけをしながら聖に訊かれる。
 私は洗い終わったプレートを渡しながら答えた。
「一緒。悲しいくらい一緒。高校生になったけど相変わらず一緒。差が開くのは身長と成績くらいだよ」
「じゃ、お互い下でバイトか」
「うん。私、洗濯物片付けてから下りるから、聖、先に掃除始めててくれる?」
「了解」

 私の身長は140センチ。一方、聖は中学三年生くらいからぐんぐん伸びて、今は190センチだという。
 この五十センチの差がちょっとね……。正直悔しい。
 悔しいけど、世の中には努力だけではどうにもならいことがあると悟った。背だけは頑張って伸びるものではない、と。だから、いい加減この悔しい思いを放棄しようと思うものの、それがなかなか難しい。
 それから成績。
 聖は文系も理系も満遍なく好成績で、私は頑張っても中の上がいいところ。理系に関しては平均点が取れればよしとしているくらい。
 でも、それで聖を憎らしいと思ったことはない。テスト前には私の勉強を見てくれるし、自分のほうが点数がいいからと言って、それを自慢することもない。
 面倒見がいい聖に感謝こそすれ、憎らしいなどと思うわけがないのだ。
 たぶんだけど――人って比べられるからひがんだりするんだと思うの。
 学校の先生や友達には、ありとあらゆることを聖と比較される。でも、私の記憶にある限り、うちの両親は私たちを“比べる”ということをしたことがない。
 “双子といえど違う人間なんだから得意なものが同じなわけがない”――というのが両親の考え。
 このあたり、私はとても両親に感謝している。

 キッチンの片づけが終わると、私たちは別行動になった。
 うちは両親が経営する音楽事務所兼音楽教室が一階と地下にあり、その上の二階と三階が居住スペースになっている。一階は音楽教室専用で、地下は広めのスタジオがひとつと、二畳くらいの練習室が八部屋。広いスタジオにはグランドピアノがあり、練習室にはアップライトのピアノが入っている。
 本来、掃除は朝一で出勤してくるスタッフや講師の人たちがするものなのだけど、長期休暇に入るとそれに私たちが加わるのは小さい頃からの習慣だった。
 なんていうか、私たちも練習室やスタジオを使わせてもらっているのだから、お手伝いするのが当たり前だと思うの。
「よしっ! 洗濯物終了!」
 一階に下りるとピアノ講師の蓮井美香子(はすいみかこ)さんに声をかけられた。
「柊ちゃん、ハッピーバースデー! 午後出勤の仙波(せんば)先生がアンダンテのケーキ買ってきてくれることになってるから、お昼にみんなで食べようね」
「わっ! 嬉しい!!」
 ほかの先生や事務スタッフ数人とも挨拶を交わし、私はカウンターの中に入る。
 レッスンのコマ数を確認したり、練習室の予約状況を確認し、講師からの緊急連絡が入ってないかのメールチェック。あとは電話が鳴ったら取る。私が対応できることなら私が対応するし、難しいことならスタッフの人に引き継ぐ。いわゆる雑務と呼ばれるものが私のお仕事。
 時には、子連れでレッスンに来た生徒さんの子供と遊ぶ、という仕事もある。
 聖は長身を生かして音楽教室のガラス張りの窓を拭いていた。
 今は冬休みに入ったということもあり、午前からレッスンに来る生徒さんも多い。クリスマスイブともなれば午後を空けようとする人がほとんどで、今日は午前から夕方までびっしりとレッスンが詰まっていた。
「わぁ……今日、すっごく忙しいですね?」
「そうなの、商売大繁盛よ? 夕方まで息つく間もないけど、例年の如く夜はガラッガラ。柊ちゃんたちは気にせず出かけてね?」
「あ、はい。ありがとうございます」
 今日、私と聖は夕方の六時にとあるカフェに出かけることになっていた。
 いつもなら、イヴの夜は講師も交えたメンバーでお誕生会を兼ねたクリスマスパーティーをするのだけど、今年は違う。
 両親がいないうえに、その両親から「知り合いのカフェに予約入れておいたから」という一方的なメールが届いたため、そこへディナーに出かけることになっていた。

 ランチタイムに講師の人たちに誕生日を祝ってもらい、一時から三時まではバイト。
 時間になり、
「じゃ、私たち上がりますね」
 そう言ったときだった。
「ひぃらぎぃぃぃっっっ」
 よく知った声が後ろから背中を突き刺す勢いで聞こえてくる。
 音楽教室の入り口を振り返ると、冷たい風と共に麗しい双子が入ってきた。
 私の名前を呼んだ人物においては、すでに私の背後にいた。
「みっ、都ちゃんっ!?」
「間に合って良かったぁ……」
 ふたりの名前は佐野都(さのみやこ)ちゃんと神楽(かぐら)ちゃん。
 都ちゃんと神楽ちゃんは私たちの母方の従姉で、今はプロの演奏家として活躍している。
「聖、柊。誕生日おめでとう」
 都ちゃんと相反して涼やかな声で言うのは神楽ちゃん。
 都ちゃんと神楽ちゃんは一卵性双生児なので、見かけも声も、何もかもが一緒。違うとしたら、神楽ちゃんのほうがクールというくらい。
 クールといっても人として冷たいわけじゃない。ただ、都ちゃんと比べると全体的な温度であったり、テンションが低めなだけ。
「これ、うちの三姉弟からのプレゼント」
 神楽ちゃんに差し出されたのは、シンプルにラッピングされた長方形の箱。
「明(あきら)がね、学祭の時に同級生のお兄さんからカードケースプレゼントされたらしくて、そのお店に行ったらちょうど柊と聖が喜びそうなものがあったって言うの」
 都ちゃんがにこにこと話す。
「で、後日三人で行って選んできたってわけ。たぶん、気に入ると思うわ」
 私と聖は顔を見合わせ、その場で包みを開けた。
 中には皮製のシンプルなペンケースが入っていた。私のは赤で、聖のは深い青。ネイビーよりも青が少し明るい感じ。
「嬉しいっ!」と言ったのは私。「大切に使う」と言ったのは聖。
「それにしても、アキ、よく覚えてたな? 俺たちが皮小物好きなの」
「ホントホント!」
 アキとは、都ちゃんと神楽ちゃんの弟で私たちと同い年の従弟、佐野明(さのあきら)。
 進学校で超有名な藤宮学園の生徒であり、現役スプリンター。
 うちは両親が音楽家ってだけで子供は何ひとつ秀でたものはないけれど、ここの従姉弟三姉弟は違う。
 上ふたりはヴァイオリニストで数々のコンクールに入賞している。弟は高一でインハイに出場し、しっかり結果まで残した。アキは今、もっとも注目されているスプリンターなのだ。
 そんな経歴を持っていても全く鼻にかけることのない三人。
 この仲のいい従姉弟たちは、私と聖の身内自慢のひとつだったりする。
「本当はランチのときに来たかったんだけど、ゲネプロ入ってて無理だったのぉ」
 うな垂れる都ちゃんに聖が言う。
「仕事なんだから仕方ないでしょ? 今は大丈夫なの? これからコンサートなんじゃ……」
「すぐに戻るわ。都がどうしても今日渡したいって言うから、ちょっと抜けてきたの」
「「えっ!? すぐに戻って戻って」」
 聖と私の声が重なる。
「「相変わらずのシンクロ率」」
 そういう都ちゃんと神楽ちゃんだってしっかりユニゾンしてる。
 つまりお互い人のことは言えないという状況。
 私たちの会話はどこかしらで必ずこうなる。
 みんなで笑ったのは束の間。すぐに、「都、戻るわよ」と神楽ちゃんが言った。
「ひいらぎぃぃぃ。またね、またね」
 都ちゃんに抱きしめられて、ぎゅうぎゅうされる。
「あぁ……。柊、ちっちゃくてかわいいよぉ……」
「都ちゃん。それ、軽くショック……」
「なんで? 私と神楽は170センチもあるんだよ? 絶対こんなことしてもらえないよぅ」
 そう言う都ちゃんに聖が動いた。
「よしよし、イイコイイコ。あと、“ぎゅうぎゅう”だっけ? このくらいなら俺がするけど?」
「聖はおっきくなったもんねぇ……? 明が面白くないのもわかるわ。んでもって、弟みたいな従弟に抱きしめられてもねぇ……」
 不満たっぷりな都ちゃんに、神楽ちゃんが止めを刺す。
「都……いい加減に戻らないと仕事なくすわよ」
「行くっ! 今すぐ戻りますっ」
「じゃ、またお正月にね」
 ふたりは声を合わせて言い、入ってきたとき同様慌しく出ていった。
「お騒がせしてすみません……」
 聖が蓮井さんに頭を下げると、
「いつ見ても双子が二組揃うと壮観だわぁって思うくらいよ」
 と笑われ、私たちは一階をあとにした。



Update:2011/12(改稿:2013/08/18)



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