Twins〜恋愛奮闘記〜

番外編 もうひとつの一目惚れ Side 木崎 04話

 二学期も何が変わることなく過ぎてゆく。それは俺と天川さんの距離も関係も何もかも。
 俺の目の前にあるのは140センチっていう小さな壁のはずなんだけど、厚みだってさほどないちっちゃい子のはずなんだけど、まったくもって突破できる気がしない。
 聖あたり攻略本とか作ってくれないかな、と真面目に考えるくらいには。
 よくさ、マンガとかにあるじゃん。「勉強教えてあげるよ」ってシチュエーション。
 それすらもない。なぜって、常に聖が近くにいるから。
 成績だけを見れば俺のほうがいい。けれど、彼女が勉強を教えてもらう分には、俺であっても聖であっても問題はなく……。さらには聖と彼女は双子なわけで、学校で教えずとも家っていうビップな環境が整っている。――つまり、そんな美味しい役は自分に一切回ってこなかった。
 こんなときばかりは聖を恨みがましく思う。

 全学年クラス委員集会が行われる前に、各学年クラス委員代表、副代表が集う会合がある。
 そのとき、
「ねぇ、天川さんってどんな男が好みなの?」
「さぁ……どうかな」
 どうかなって、あれだけ一緒にいるんだからそのくらい知っておけよ……。
「あ、今使えないとか思ったでしょ」
「見て取れる程度には」
「あはは、木崎ってホント正直だよな」
 カラカラと笑うが、こちらは笑える心境でもない。
「ま、好みとかはよくわかんないけど、ひとつだけ確かな情報はある」
「何?」
「今は好きなやついないと思う。柊は猪突猛進だからさ、きっと好きなやつができたらわき目も振らずに突進すると思うんだよね。でも、今は歌のことしか考えてないぽいから」
 妙に納得できる情報だった。
「木崎はなんで柊だったの?」
「よくわからない。ほとんど一目惚れだったし」
「は?」
「は? って失礼じゃない?」
「いや、だって……普通じゃん? とりたててかわいい子とかきれいな子だったらモデルやってる子、うちの学校結構多いしさ。ああいう顔が好みなの?」
 そこまで突っ込まれるとは思いもせず、即答が難しかった。
「雪が……」
「ん? 雪?」
「そう――雪。雪がふわふわの髪に積もって、なんかかわいかったんだ。ふわふわして見えるくせに大きな声だったり。そのギャップとか、元気のよさとか……」
 実のところ、話している自分もよくわかっていない。
 でも、あの日見た天川さんだけはすぐに思い出せる。さくら色のきれいなマフラーをぐるぐる巻いていたところまで。
「ふーん……。喋って幻滅とかなかったの?」
「まったく。逆にもっと好きになったかも? 飾らない子っていいよね?」
「そう? 少しくらい飾ったほうが良くない?」
「や、なんつーの? 女の子女の子してると扱いが怖いっていうか、腹ん中で何考えてんのかわかんないっつーか……」
「何それ、中学のとき何かあったクチ?」
「あんまり聞かないでほしいんだけど……」
 話を切り上げようとすれば、引き止めずにその話題を打ち切りにしてくれる。そんな聖のことも意外と気に入っていた。
 これが太郎なら、間違いなく言うまでは開放してもらえない。

 あれは中学のとき――付き合っていた彼女と昇降口で待ち合わせをしていた日のこと。
 委員会で遅くなった俺を待っていた彼女が友達と話をしていたんだ。
 俺はとくだん隠れていたつもりも話を聞くつもりもなくて、ただ、裏側にある自分の下駄箱へ向かっただけだったんだけど……。
「っていうかさ、まだキスもしないの。信じられる?」
「まじっ!? だってマミたち付き合ってから二ヶ月でしょ?」
「そう、あと五日で三ヶ月だよ〜。なのに何もないとか、私に魅力ないみたいじゃない? 失礼だよねー?」
 そういうものなのか? 二ヶ月三ヶ月経ってキスもないってそんなにおかしいことなのか? 失礼って誰に? 誰が?
「私、お洒落には気を抜いてるつもりないんだけどなぁ……。今日だって朝六時に起きて三十分もかけて髪の毛巻いたのに。かわいいとかキレイの一言もないんだよ? サヤカの彼、遠藤くんなら絶対に褒めてくれるでしょっ?」
「うんうん。朝一番に言ってくれる!」
「実はぁ、サッカー部の小西くんに告られたんだよねぇ」
「えーーーっ!? 何それ、初耳なんですけどっ!」
「だって誰にもヒミツにしてたんだもん」
「なんで言ってくれなかったのー? 小西くんって結構人気あるよね?」
「あるある。後輩にファンクラブあるって」
「乗り換えちゃえばー?」
「それ、今考えてるところなんだよねぇ……」
 こんな会話を聞いて、普通の顔をして一緒に帰れると思うか?
 もしそんなことができる人間がいたら一目見てやりたい。
 俺はというと――。
「それなら別れよう。クラス委員終わるの待たせて悪かった」
 そう言って昇降口をあとにした。
 翌日からの俺の評判の悪いことったらない。
 一方的に俺が彼女を泣かせて振ったことになっていた。
 でも、別に実際がどうだったかなんて人に話すようなことでもなく、人の噂も七十五日を信じて過ごしたっけ。
 ま、ごくごく親しい連中には問い詰められて白状はしたけれど……。
 そんなわけで、「がんばってお洒落してますっ!」「私、かわいいでしょ?」的なフェロモン出してる女子は苦手分野となってしまった。
 そこにつけて天川さんは全くその気配がない。
 髪がふわふわなのは天然ものだし、仕草がかしこまって女子らしいということもなければ、いつでもなんにでも全力投球な女の子。
 好感しか抱かなかった。こんな子と付き合えたら楽しいだろうなって思った。
 で、今に至る――と。


     *****


 何も変化のないまま二学期も終わりを告げ、三学期が始まったとき。変化が起きた。
 海外から編入者が、金髪の双子が入ってきたのだ。
 校内には瞬く間にその噂が広がった。
 そして、その内のひとり、妹のほうが同じクラスになる。
 名前を立川怜。誰もが認める美女だった。ほっそりとした体躯にすらりとした腕に脚。極めつけは金髪のロングストレート。肌は抜けるように白い。
 その彼女の世話役を任されたのがクラス委員の天川さん。天川さんはどこか変なテンションで、しかし臆することなく彼女を請け負った。
 その翌日、信じたくない噂が耳に入った。
『天川ツインズの妹のほうが立川ツインズの王子に告ったって!』
 マジですか……? いや、マジでしょう……。
 聖の言ったことは正しく、正に猪突猛進、彗星の如くハイスピードで告白をしていた。
「意外……天川さんって面食いだったんだ――」
 それをこんな形で知ることになるとは……。
 自分の外見や顔が醜いと思ったことはない。なんというか、それなりだと思う。
 しかし、立川ツインズの王子と比べられたら月とすっぽん、霞に霞んで気化してしまう。
 けれども、ほんの少し救いの噂も付随していた。
『で、即行振られたらしいぜ! っつーか、編入初日に告るとかマジ、どれだけ!?』
 笑い声と共に聞こえてきた。
 天川さんのいいところを知らない男子にわざわざ教えて回るつもりはないし、自分がわかっていればそれでいい。そう思っていたけれども、噂は日々塗り替えられる。
 会うたびに告って振られての繰り返しを延々と繰り返していたのだ。しかも、呼び出すとかそういうことを一切せず、出くわしたらその場で……という猛進ぶり。
 誰が誰に告ったなど、うちの学校ではビッグニュースの扱いにはならない。それがなぜこうも噂になっているかというならば、天川さんが公開告白していたからだ。
 公開告白――つまり、人目憚らず告白をすること。これを彼女は連日やって有名になってしまった。
 気づいたときには、「天川ツインズの妹は勇者決定」とか言われてた。
『あそこまでガンガンに来られたら引くよなー?』
『でも、俺は逆にもうしょうがねぇなぁ……ってなるかも』
『よくよく見たらかわいくね?』
『あ、俺中三のときクラス一緒だったんだけど、超喋りやすかった! 遊び行くのとかノリよく来てくれるしさ』
 おいおい……。なんで天川さんの株が上がりだしてんだよ……。
 そんなことは知らずに彼女は毎日のように立川兄に告白を続けていた。
 そして今日も――。
 恒例となった公開告白を前方に捕らえ、階段脇の壁に身を潜めた。
 身を潜めたところであの天川さんのよく通る声が聞こえてこないわけもなく、目にしなくても聞く羽目になるのだ。
「あー……俺、これからどうするつもりなんだろ」
 一年では運よく同じクラスになれたけど、間違いなく二年では分かれる。俺は特選理系コース。彼女はきっと芸術コースだ。
 校舎自体は隣だけど、それだけで会う機会は減ってしまう。
 もう一度くらい告白してみようか……。
 海外からの編入者は、編入者なんてかわいらしいものではなく、俺にとっては侵略者とか奪略者の類だった。



Update:2013/08/24



 ↓↓↓楽しんでいただけましたらポチっとお願いします↓↓↓


 ネット小説ランキング   恋愛遊牧民G      


ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。


 ↓コメント書けます*↓

Copyright © 2009 Riruha* Library, All rights reserved.
a template by flower&clover