Twins〜恋愛奮闘記〜

再会 Side 柊 03話

 かっこいいなぁ……。
 完全に見入る状態で視線は王子様に固定されていたわけだけど、「は?」以外の言葉は返って来ない模様。
 あ……勢いで好きですと言ったのはいいけれど、私、王子様の名前、知らない気がする。せっかく視界に入れたわけだから訊かない手はないよね?
「名前を教えてください!」
「……なんで」
「知らないから?」
「………………」
 男子にしては少し高めな聖の声と比べると、王子様の声はとても低い。しかも、「なんで」しか言われてないのに、私の脳はアドレナリンの大放出を始め、心臓がバクバク鳴り出す。そんな状態で少し待ってみたけれど、王子様から答えは返ってこない。
 なんで無言なんだろ……? と考えて数秒。頭に“名無しの王子様”というテロップが流れた。
「え? れーちゃん!! 王子様に名前ないの!?」
 王子様の斜め後ろにいたれーちゃんに訊くと、形良い麗しい眉をひそめられる。
 れーちゃんの返答を待っていると、自分の背後から馴染みある声に待ったをかけられた。
「柊、待て。ちょーっと待て。名前は普通に考えてあるだろ、ないわけないだろ」
「あ、聖……」
 肩越しに振り返ると、聖が真後ろに立っていた。
 聖、そんな目で見なくても、聖がそこにいたのはちゃんと気付いてたってば……。
 目だけで言い訳してみるものの、どうだか、という視線が返される。その後、聖は私の肩に手を置くとこう言った。
「立川、悪い。これ、双子の妹で柊。どうやら妹さんと同じクラスっぽい」
「あぁ、そうみたいだな」
 えっ、何っ!? もしかして王子様って聖のクラスなのっ!?
「驚かせて悪い。今日のとこは回収するから」
「あぁ……」
 私が混乱してるうちにその場は聖に収拾されていく。
「聖っ、待って! 名前っ。名前くらい知りたいっ」
 いつもだったらサラっと教えてくれそうなものなのに、どうしてか聖は王子様に確認をとった。
「立川、どうする? 名前教えていい?」
「任せる」
 王子様はため息をつき、聖は両肩に置いた手に力をこめ、半ば強制的に進行方向を変えようとする。
「ほら、柊。名前教えてあげるから帰るよ」
 私はその言葉につられ、渋々その場を後にすることにした。


     *****


 昇降口を出ると、約束どおり王子様の名前を教えてくれた。
「名前は立川類(たつかわるい)。漢字は人類のルイ。うちのクラスで俺の隣の席」
「あのね、女王様はうちのクラスなの。で、聖のとこと同じ。れーちゃんも私の席の隣」
 ふたり顔を見合わせて笑う。
「新学期早々、幸先いい感じ!」
 ここで、今年の運を全部使い果たしたと考えないところが私と聖だと思う。
「あ、本名は立川怜。字は怜悧のレイ。ほら、賢いっていう意味の字」
「あぁ、響きも漢字も外見にぴったり。名前は体を現すってよく言うよなぁ」
「聖……私、そんなにトゲトゲしてるつもりないんだけど……」
 聖は一瞬目を丸くした後、くっと喉の奥で笑った。
「それを言うなら、俺だって“聖人”にはなれそうにない」
 “名前”というキーワードでれーちゃんと話した会話を思い出す。私たちの名前を英語にした場合の話し。
 その話を聖にすると、へぇ、と漏らした。
「レイさんは結構喋るんだ?」
「ううん」
 私の即答に聖が、え? って顔をする。
「でも、学校案内以外の話してるし……」
「それは私が勝手に話しただけ。……王子様は?」
「無言がデフォルトっぽい」
「え……でも、さっき会話っぽくなってたよ? 気のせい?」
 聖は首を捻りながら話してくれた。それこそ、担任の先生が紹介するところから。
「あー! 自己紹介がれーちゃんと一緒。れーちゃんも名前しか言わなかった」
 そんなところに双子特有の匂いを感じる。
「なんというか、ものの見事に無表情で話しかけてくんなオーラ全開。ま、それで話しかけない人間はうちの学校にいないわけだけど……」
「あー……それも一緒かも? れーちゃんは笑顔なんだけど、声に温度がないの。一言だけなら答えはするんだけど、答えが答えになってなかったり……?」
「さすが、双子だねぇ……」
 私たちの結論はそこにたどり着く。“双子”って、ある意味ものすごく便利な種族分けに使えそうだ。
「校内の案内した?」
 聖の質問に首を振る。
「なんか疲れてるっぽかったからやめといた。それに、今日案内したら、周り囲まれて身動き取れなくなるか、逃げるために走り回ることになるじゃない?」
「柊も同じこと考えたか……」
「聖も……?」
「うん。こっちは王子様が億劫そうな顔してたってのもあるけど、どう考えても得策じゃない気がして」
「だよね……。とりあえず、当分の間は移動教室は一緒に行こうって言っておいた」
「俺もそれが妥当かな?」
 その後、体育館に行くまでのドタバタ劇や体育館から帰ってくるまでの話を聞いて、聖っぽいなぁ……と思った。
 どうやら、王子様の反応が薄いのをいいことに、行きも帰りも全力ダッシュで体育館と教室を行き来させたらしい。
 こっちは、廊下に出る前にクラスメイトに囲まれていたこともあり、もみくちゃにはされなかったけどゲルマン民族大移動そのものだった。その間、れーちゃんはずーっと質問されっぱなしだったわけで……。次第に笑顔に凄みが増していくのを、すぐ隣で私はじっと見ていた。

 人の好奇心とか探究心を止めるのって難しいと思うんだよね?
 今日というほんの数時間で、あまり人にかまわれたくないんだろうなぁ……っていうのはなんとなくわかった。わかったけど――。
 困ったなぁ……。
 私は聖と違って大した自制心は持ち合わせていないのだ。王子様も気になるけれど、れーちゃんも気になって仕方ない。人の探究心や好奇心以前に、自分のソレを止められる気がしない。
 煙たがられるかもしれない。でも、最初から諦めてたら何も得られないからね?
 まずは友達になれるように頑張ろう。チャレンジスピリッツは忘れずにっ!


     *****


 翌日、私たちはいつもより冴えない顔をして家を出た。
 何って……目玉焼きを食べていないのだ。
 王子様と女王様との再会は、私たちの全神経をきれいに掻っ攫っていったため、絶対に忘れてはならないことを忘れた。それ、即ち“買出し”である。
 昨日、学校から帰宅し、夕飯を作るために聖とキッチンに立ったときのこと。冷蔵庫を開けると、いつどんなときでも必ず並んで入っているはずのものがなかった。
「聖……卵がない」
「トマトもない……」
「「買出し忘れた」」
 ふたりとも、なんとも言えない顔になる。
「明日の朝はトーストにハムとチーズを乗せるだけだね」
「だな……」
「お昼は学食にしよ?」
「うん。で、明日こそ買出し忘れないようにしよう」
 ――そんなわけで“卵パワー”が欠けてる分、なんとなく力が入らない。たかが卵、されど卵……。
 そんなことを考えバスに乗り込むと、座席に座るタイミングで聖に訊かれた。
「今日、クラス委員が帰りにあるの覚えてる?」
「もちろん。きれいさっぱり忘れてた」
「……ま、木崎がいれば大丈夫か」
「うん。間違いなく声かけてくれると思う」
 何を隠そう、私と聖はふたりともクラス委員だったりする。聖は慣れっこだけど、私は違う。高校生になるまで一度としてクラス委員になどなったことがない。
 そんな私がなぜクラス委員になったかというと、同じクラスの木崎くんに推薦されたからだ。

 私と木崎くんは同じ中学の出身ではない。接点などないはずだった。
 けど、実は入試のときに会っているらしい。
 受験票を落とした人に、「落としましたよ」と声をかけたのは覚えてる。でも、それが木崎くんだとは思いもしなかったし、覚えてすらいなかった。
 あり得ないことに、木崎くんはそのとき、私に一目惚れしたという。最初は信じられなかったけど、今なら信じられる。
 なんでって……自分が一目惚れ体験中だから。わからないことといえば、平凡な顔に一目惚れする人もいるんだ? ってことくらい。
 その木崎くんも自らクラス委員に立候補したわけじゃない。また別の人に推薦された犠牲者。
 推薦した人は木崎くんと同じ中学だった人で、
「木崎、こーゆーの慣れてるだろ?」
 と、そんな具合に彼を推薦した。
 そして、木崎くんは「じゃ、彼女がやるなら……」と条件付で了承したのだ。つまり、“彼女”と指名されたのが私だった。
 入学したばかりのクラスでクラス委員に名乗りをあげる人間など無に等しい。そんなわけで、指名された木崎くんも私も、そのままクラス委員に決まってしまった。高校に入ってすぐに出くわした“青天の霹靂”とはこのことだ。

 木崎くんの好意は、思いのほか早くに慣れた。彼はとてもストレートに好意を伝えてくれるものの、
「まだ知り合ったばかりだから、そんな時期に付き合って欲しいとかは言わないよ」
 と、言ってくれたのだ。
 つまり、人生初の告白をされたものの、お返事をするという重大ミッションからは逃れられたのである。
 彼に返事を求められたのは夏休み前。その頃には私の中にも答えらしきものがあったので、困ることなく気持ちを伝えた。
「私、今まで男子に告白されたことなかったから、正直とても嬉しかったんだ。自分を好きになってくれた木崎くんはとても貴重な人だと思う。……思うんだけどねぇ……自分が木崎くんを好きかと訊かれると、好きなんだけど友達なんだよね。この“好き”は恋じゃないと思うんだ。だから気持ちはありがとう。でも、ごめんね? 付き合うとかは考えられないみたい」
 まどろっこしい返事をしたにも関わらず、木崎くんは爽やか少年よろしく、
「大丈夫。自分、気は長いほうだから」
 と、にこりと笑った。
 そう来たかっ!? とは思ったけど、そんな木崎くんに対する免疫はとっとと生成された。未だに慣れないのはクラス委員という肩書きのほうである。

「なーれーなーいぃぃぃ」
 慣れろと言われても無理な話だ。何せ、柄じゃない上に経験値はゼロ。適正においてはマイナスだと思う。
「もう三学期なんだからいい加減慣れようか?」
「私は聖と違って人をまとめる側じゃなくて、まとめられる側なんだってば」
「まぁ、まとめ役は木崎がやってるんだろうからいいんじゃない?」
「その時点で、私の存在意義が問われるよね?」
「人には得て不得手があるもんだ」
「聖、言ってることがさっきとなんか違う」
「そうだっけ……?」
「うん。バツとして、今日の学食の食券あれこれよろしく」
「……了解。クラスで食べるの? 学食?」
「食器片付けるの面倒だから学食で」
「じゃ、昼に学食な」
「テーブルの場所、メールしてね?」
「わかってる」



Update:2012/01(改稿:2013/08/18)



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