Twins〜恋愛奮闘記〜

再会 Side 柊 09話

 マスターがカフェオレを運んできたとき、ルイ君と同じことを訊かれた。
「どうして床?」
「この子たちと一緒だから?」
 それが答えになっているのかは自分でもよくわからないけど、マスターがにこりと微笑んでくれたからいいことにした。
「でも、カップはテーブルの上に置いておくね」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても……床に直接座るのはちょっと寒いんじゃない?」
「え? あ……そうでも」
 ないです、と続けようとしたら、ルイ君が席を立った。
「ルイ、頼んだよ」
「………………」
 ルイ君がお店の奥へと消えると、マスターがにこりと笑う。
「無愛想だけど悪い子じゃないんだ」
「あ、大丈夫です。ルイ君の無愛想はデフォルトですもんね?」
「くっ……君は咲ちゃん譲りの性格だねぇ」
「え?」
「思ったことをそのまま口にするあたり、出逢った頃の咲ちゃんにそっくりだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ、今度アルバムでも見る?」
 マスターと話をしていると、ルイ君が戻ってきた。
「ほら」とバサバサと膝に落とされたのは、フリースのひざ掛けと大きめなクッションだった。
「わっ、ルイ君ありがとうっ!」
「別に」
 マスターはくすくすと笑っている。
「ところでマスター……。お客さんいないんですか?」
「さっきまで混んでたんだ。今はちょうどお客さんが引いてる時間帯。それに、今日は表通りにカフェがオープンしたらしいからね。その関係もあるのかな」
「そうなんですね」
「大丈夫。うち、儲かってなさそうに見えるけど、ちゃんと採算取れる営業してるから」
 マスターはくすりと笑うと、
「じゃ、僕は向こうにいるからおかわりは遠慮せずに言ってね? ついでにルイの腕もなかなかのものだよ」
 と、ウィンクひとつ残し去っていった。
 日本人なのにウィンクが様になる人っているんだ……。そう思っていると、
「あ、咲ちゃん情報。柊ちゃん、ディズニー好きなんだよね?」
「大好きですー!」
「じゃーん! ここにあるのはディズニーのインストCDです」
「わっ! 嬉しいっ!」
「いつもはジャズを流してるんだけどね。今はお客さんいないからかけてていいよ」
 マスターはそれまでかかっていたCDをディズニーに換えてくれた。 流れてきたのは可愛らしいオルゴールの音色だった。
「Beauty and the Beast!」
 美女と野獣に出てくる歌はどれも好き。中でもこれが一番好きな曲だった。 気付けば私は歌を口ずさむ。
 いつものように思い切り声を出したわけじゃなかったけど、天井の高いカフェは心地よく声が響いた。
 歌い始めると、両脇に“伏せ”をしていたビリーとキャリーが顎をくいっと上げ視線を合わせてくる。
「ん?」
 歌うのをやめてその目を覗き込むと、二頭は私の両膝に顎を乗せ、さらには片足で膝をポンポンと叩く。 それはまるで、「歌って」と催促しているように思えた。
「ビリーもキャリーも聞いてくれるのー? じゃ、天川柊、歌いまーす!」
 私は曲に合わせて続きを歌い始める。 両手には私の手よりも大きな二頭の頭。 ふわっふわで気持ちのいい毛並みを堪能しながら、ずっと撫でていた。
 歌が歌い終わると、ビリーとキャリーは気持ち良さそうに寝ていた。 テーブルに置いてあるカップには手が届きそうにない。 かといって、動いたら起しちゃいそうで動けない。テーブルと二頭を交互に見ていると、ほら、とカップが目の前に差し出された。
「わ、ルイ君、ありがとう」
「それより発音……」
「え?」
「発音悪すぎ」
 一瞬何を言われてるのか判らなかった。
「あっ! 英語っ!?」
「………………」
 ルイ君は無言だけど、目が肯定と言っている。私はチャンスだと思った。
「ルイ君、英語の先生になってくださいっ!」
「断る」
 予想通り即答。でも、めげないもんねっ。
 やっと会話になりそうな話題ができたのだ。ここで頑張らずしてどこで頑張るっ。
「毎日お菓子作ってくるから教えてっ!」
「甘いもの嫌い」
「甘くないの作る」
「いらない」
「ビリーとキャリーのお散歩行くから教えてっ!」
「犬が犬を散歩してどうする。遊ばれて終わりだろ?」
「う゛……ルイ君容赦ないねぇ」
「事実だろ」
「事実はそのまま伝えられると痛いって知ってる?」
「考えたことないな。ただ、事実は何よりも誠実なことは知っている」
「今から考えて! いーまーすーぐっ。もしくはその身長を私に分けてくださいっ!」
 すごいっ! 内容はともかくとして、会話が続いた!!
 感動してるところに、ここにはなかった声が割り込む。
「ノーよ! ノー!」
「あ、れーちゃん、聖。おかえりなさーい!」
 れーちゃんが大声で“ノー”って言いながら帰ってた。聖は、
「まぁ、予想はしてた」
 なんて言ってる。
 何の話してたんだろ? とは思ったけれど、私は私でこの機会を逃すわけには行かないっ。ルイ君と会話の続きっ。
「身長低いと何かと困るんだよっ!? あ……聖が一緒だとたいていのことはクリアできちゃうんだけどね。でもっ、朝のバスは別っ! 始発じゃないと座れないし、途中から乗ろうものなら酸素薄くて学校に着くまでに酸欠で死ねるっ。って、ルイ君にはわかんないよねぇ……。聖にもわからないって言われるし」
「柊……。お前はまた140センチの視界を人様に説いてたのか――」
 聖にポムポムと頭を叩かれる。
何をするかっ! これ以上低くなったら困るでしょっ!?」
 咄嗟にファイティングポーズをとって見せるも、ルイ君の言葉にファイティングポーズの矛先変更。
「理解できない。したいとも思わない。このあとも気づきもしないだろうな。天川、それにつき合わせて悪かったな」
「いや、いいよ。楽しかったし」
 いぃぃぃやぁぁぁっ!! せっかく会話っぽくなってきたのに、聖と話し始めないでぇっっっ。
「今度私の視界をビデオに録るから見てっ!」
 思わず飛び出た言葉に三人が反応する。三人が各々口にした言葉は粗方同じ。
「やめておこうか? 盗撮になるよ」
「やめなさい。盗撮になるわ」
「やめておけ。盗撮になる」
 言わずとも判りそうなものだけど、順に聖、れーちゃん、ルイ君の台詞である。
「そっか。じゃ、やめとく」
 そんな会話を経て、新に訊かれる。
「柊、何で床に座ってんのよ」
「よほど二匹に混ざりたいんだろ?」
「ま、こうやって見ると馴染んでるけどね」
 椅子に座った長身の三人に見下ろされる。
「あら、もうカップ空じゃない。パパっ、柊の飲みもの淹れてあげて」
 れーちゃんが私のカップをもぎ取り歩き出す。
「聖はれーちゃんと何の話してたの?」
「ん? 俺は告って振られたってところかな?」
「「はっ!?」」
 珍しいことに私とルイ君の声が重なった。そして少し離れた場所ではゴトっと見事な音がした。どうやら、れーちゃんがカップを落としたようだ。幸い、カップは割れることなく無事だったのだけども……。
「何、勝手に喋ってるのよっ」
 れーちゃんの抗議に聖は怯まない。にこりと笑ってこう言った。
「うん。でも、諦めるつもりないから」
「なっ…………」
 言葉に詰まったれーちゃんは、頬を赤く染めた気がした。聖の隣に座るルイ君は、
「お前、物好き? それともバカが好きなのか?」
 と、真面目に訊く。
「や、レイさんバカじゃないし……。俺が物好きっていうのも違うでしょ? キレイな人には惹かれるものだよ」
 私も会話に混ざりたくて参戦する。
「じゃ、私もっ!」
「ん?」
 反応してくれたのは聖で、ルイ君は何か察したのか顔を逸らす。
「ルイ君、好きですっ!」
「………………」
 私は今月に入って何度目かわからない告白をした。


     *****


 告白は軽くスルーされ、今は二年次のコース分けの話しになっていた。
 聖とルイ君は特選理系コースを選択、れーちゃんは芸術の美クラを選択。私は特選文系コースと芸術の音クラで悩んでいた。
 来月、ママたちが帰ってくるまでには決めなくちゃいけない。
「柊は将来何になりたいのよ」
「学校の先生っ!」
 私の言葉に、場の空気が一瞬にして白けた。
「最近の子、発育いいのよ? 下手したら柊が生徒に見えるわ」
「自分が先生に見えるとでも思ってるのか?」
 相変わらず立川ツインズの反応は辛辣極まりない。けれど、聖も大概ひどかった。
「柊なら幼稚園の先生がいいとこ? でもさ、お話仕立てのディズニーの歌は喜んでもらえそうだけど、決してお昼寝で寝付いてはもらえなさそうだよね……」
「言えてる……。お前は幼児と一緒になって寝てるんじゃないか?」
 聖に便乗する形でルイ君が口にする。その横でれーちゃんもコクコクと頷いていた。
 わぁぁぁ……会話っぽいっ!
「わかったっ! 使命が見えたよっ! 私、保母さんになるー! お話仕立てのディズニー歌って喜んでもらって、疲れたら一緒に寝るっ」
 ベストプランニングでしょ? と言わんばかりに三人を見回す。
「天川、やっぱりお前の妹はバカなんじゃないか?」
「バカじゃなくて、ポジティブって言ってやってよ」
「確かにポジティブよね……。ルイにここまで挑む子はそうそういないわ」
「レイ」
「えーだって、今までこんな子いなかったじゃない。大抵面倒な子だったし。って面倒は面倒なのかしら」
「面倒ってレイさん……」
「あー、悪い意味じゃないけど、ルイにとっては面倒でしょ?」
「それ以外に何がある」
「んーでも貴重だと思うんだけどー。こんな子いないと思うわよ」
 三人は私を置いてけぼりにして話しを続ける。褒められてるのかそうじゃないのか、かなり微妙なラインだけど、ルイ君と会話が続いて嬉しい私は全く気にならなかった。



Update:2012/01(改稿:2013/08/18)



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