冬休みよりも短いのだから有効に使わなくては――。
そう思った私はルイ君に提案する。
「春休みどこかに出かけようよ!」
『……面倒』
「えー、そんなこと言わずに」
『例えば?』
「デートの定番、映画とかっ!」
『却下』
「どうしてっ?」
『邦画は見ない』
「じゃ、洋画っ」
『字幕なしならかまわない』
「それっ、私にはハードル高すぎるっ。第一、洋画には字幕がつきものですっ!」
『だから却下』
相変わらずルイ君は手強いです。
でも、ここで負けたら柊が廃る――。
「じゃっ、遊園地っ! 私、お弁当作るっ」
『却下』
「どうしてっ!?」
『混んでるとこ嫌い』
「でも、いい陽気だよっ!?」
『順番待ちとか絶対やだ』
……ということは、屋内で並ばずとも入れるところ――。
「プラネタリウムっ!」
『俺、寝るけど?』
こんな具合に全く取り合ってもらえない。
「えええええ、じゃ何だったらいいの?」
ひとつくらい提案してくれてもいいじゃないか。
少しして返ってきた言葉は、
『家でゲーム』
「は?」
『何度も言わせるな』
「ややや、もう一回だけお願いっ」
『家でゲーム』
アマカワヒイラギ、センイソウシツ――。
そんなわけで、私は予定がない日に限りルイ君の家へ通うこととなった。
通ったところで何があるわけではない。
ゲームを一緒にやらないのか?
ないない……。
「一緒にやりたい!」と挙手したところ、「相手にならない」と即座に却下された。
以来、私は迎え入れられたあとはひたすら放置プレイである。
仕方なしにビリーとキャリーと遊ぶ。もしくは持ってきた楽譜に目を通す。
座る位置こそルイ君の隣や背後をキープしているものの、何時間たってもふたりの間に会話はないのだ。
でも、その間に一、二度――。
休憩時間らしいルイ君が、ミルクたっぷりのカフェオレを淹れてくれる。
それだけが唯一の楽しみだった。
そんなところへ美術館へ行った帰りだとか、映画を見にいった帰りだのと、れーちゃんと聖が現れるのだからむくれたくもなる。
「そこに居座ってる粗大ゴミ。こうなると、そのゲームクリアするまで口利かないわよ?」
そんな気はしていた。
「柊、今からでも遅くはないわ。ほかの男に乗り換えたら?」
「ぶーぶーぶー。それができたら苦労しないもんっ」
「でも、この先ルイが変わるなんて一パーセントもあり得ないわよ?」
「そーれーでーもーですっ」
「そ、まぁがんばって」
長い髪をなびかせたれーちゃんは聖を連れ立って自室へと行ってしまうのだ。
「仲良くて羨ましい〜……」
そうは思う。 でも、ルイ君と過ごすこんな時間にも順応し始めている自分がいた。
* * *
春休みが終わりに近づく頃、ルイ君にひとつの変化があった。
ルイ君に、というよりは、ルイ君と私の距離に、だろうか。
れーちゃんと聖がいるとき、かまいたち談議をしていたらひょい、とルイ君の胡坐の上に座らされたのだ。
そのときはびっくりしたし、嬉しい以前に恥かしかったわけだけど、少しすると特別なことではないことに気づいた。
どうしてかというと、ルイ君が私を見ていないから。
話しをするにしても、ルイ君の視線は常にテレビ画面に釘付けである。
この状態で目を見て話されてしまったら心臓が口から飛び出てしまいそうだけれど、そうでないことがわかればなんてことはない。
慣れてしまうと、人間座椅子――ただそれだけ。
れーちゃんも聖も初めて目にしたときは絶句していたけれど、今では人間座椅子の光景に慣れたらしい。
ただ、これはルイ君のおうちだからだと思っていたわけで、まさか学校でやられることになるとは思いもしなかった。
今まで、ひたすらに追いかけてきたルイ君から、全力で逃げることになるとは、露ほどにも思ってはいなかった。
Update:2014/03/30
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