Twins〜恋愛奮闘記〜 2nd Season

春休みの過ごし方 Side 聖 01話

「柊、俺出かけるけど……」
 妹の柊は、むぅ、とむくれた顔で見上げてくる。
「柊さんのご予定は?」
 苦笑を貼り付けてうかがってみると、
「今日もルイ君のおうちっ」
 不満を多分に含んだ声が返ってきた。
「ははは……そうですか、そうでしたか」
「聖はまたれーちゃんとお出かけー?」
「あはは、まぁね……」
「いいなーっ、映画デートいいなーっ。ショッピングデートいいなあああっ」
 これ以上柊の相手をしていたらレイさんとの待ち合わせに遅刻しそうだ。
 早々に会話を切り上げようとすると、
「いいなーっ、お外で待ち合わせっ」
「はいはい。あとは帰ってきたら聞くからね」
 言いながら後ずさると、
「れーちゃんによろしくね? ほら、早く行かないとれーちゃん待たせるよっ?」
 最後は追い出されるようにして家を出た。

 俺とレイさんは駅で待ち合わせて映画を観に行くことが多い。映画の前かあとに腹ごなしをする感じでカフェに入るのもいつものこと。そのあとは適当にショッピング。
 レイさんを送っていってレイさんの自宅でコーヒーをいただいてから帰る――というのが定番になっていた。
 なんら変わり映えしないデートだけど、まだ付き合い始めたばかりということもあって飽きるなんてことはないし、まだしばらくはこんな感じでいいな。
 レイさんを喜ばせたいとは思うけど、毎回毎回どこへ行こうあそこへ行こうって考えるのはちょっと面倒。そう考えると自分は結構面倒くさがり屋なのかもしれない。
 そんな俺をレイさんはどう思うだろうか。願わくば許容範囲内でありますように――。
「……少なくとも立川よりはマシだと思いたい」
 毎回デートが家っていうのはさすがに俺でもどうかと思う。でも、間違いなく柊は文句のひとつやふたつ、三つや四つは言っているだろうし、行き先候補もガンガン挙げているに違いない。にも関わらず、毎回おうちデートを貫く立川を大したやつだ、とも思ったり……。
 もしかしたら、今日もレイさんを家まで送っていったらそこで会うパターンかな?

 春の少し冷たい風を受けながら歩くと、街路樹がサワサワと音を奏でていた。
 待ち合わせ十分前に着けばレイさんを待たせることはないだろう。そんなふうに思いながら速くも遅くもないペースで歩いていく。と、待ち合わせ指定場所に麗しき彼女が立っていた。
 彼女はただでさえ目立つ。身長が高い上にブロンドの髪、目鼻顔立ちがハッキリしたハーフには見られにくいハーフ。その顔立ちを伊達メガネとキャスケットのふたつで隠せると思っているならその認識は改めさせなくてはいけないだろう。
 さらに、手脚の長さを強調する服装――短めのキュロットにニーハイを合わせ、重心が比較的上にくるボアベスト。足元のごっつい登山ブーツがバランスを絶妙に保っている。
「またかわいい格好を……」
 ガーリーな格好ではない。けれども、俺からしてみたらボーイッシュともいい難い。
 いつもと何が違うというなら、髪の毛先に少しカールのあとが見られること。もしかしたら家を出るときにはしっかり巻かれていたのかもしれない。けれども、今は取れかけも取れかけ。あと一時間もしたらすっかり取れてしまうだろう。
 そんな彼女をかわいく思いつつ、悲嘆に暮れる。
 レイさん……そんなかわいい格好してるから絡まれるんだよ。まだジーパンをはいているほうが厄介なのには絡まれないんじゃなかろうか。いや、それはそれでモデルか何かにスカウトされる気がするけど……。っていうか、頼むから時間ピッタリか五分送れくらいで待ち合わせに到着してほしい。
 待ち合わせ場所が目に入ったとき、彼女はすでに"応戦中"だった。
 声をかけてきた男に対し彼女が英語で対応するのはいつものこと。男は薄ら笑みを浮かべて、
「んだよ! ちょっと綺麗だからって鼻にかけやがって! ここは日本なんだよ! 日本語話せってんだよ! あ? 言ってることわかんねーんだろ! 答えてみろよ!」
 次にとる彼女の行動がわかるだけに心の中で盛大にため息をつく。
「あんた自分の顔面レベルわかってのこの行動なわけ? そこのピッカピカに磨かれた窓でその顔見直せば? 中のお客さんたちから総バッシングされるわよ。っていうか何この汚い手。いい加減はずしてくれない? 空気読まない男とかよりもその臭い息どうにかしたほうがいいんじゃないの? って言ったのよ。どうでもいいけどさっきから息臭いし唾は飛ぶし、空気読めないし、頭悪いし最悪だわ。そんな男の隣に立つわけないでしょ? さっさと消えてくれない?」
 彼女は訛りのないきれいな日本語でさらりと述べた。
 ちょっとした人だかりになっている周りからは同意の声があがるものの、彼女を助けようという人間はいなさそうだ。
 彼女まであと数歩、ということろで男が手を上げた。
 これは良くない――。
 咄嗟に歩みを速め男の右手を捕らえる。
「はい、お兄さんそこまでねー。この状況で暴力はよろしくないと思いますよー?」
 笑顔は絶やさず、力も絶やさず。
 ピアノを弾く手を繊細だとかなよっちぃと言われることも少なくない。でもですね、ワタクシ握力だけは自信があるんです……。
 男の手首に捻りを加え、相手の背後に回ったところで派出所の警官が駆けつけた。
 もう少し早い時点で動いてもらえたらいいのになぁ……って、それはさすがに難しいか……。
 俺たちは状況を話すために派出所へ寄る羽目にはなったけど、どうやら相手の男が何かの常習犯だったらしく、時間という時間を潰すことなく次の行動へ移ることができた。
 今日は映画の前にランチ食べるつもりだったから時間には余裕がある。でも――。
「レイさん……」
「……謝らないわよ」
「まぁね、レイさんが悪いわけじゃないのはわかるけど、怒りを煽るのはどうかと思うよ?」
「失礼ね、煽ったんじゃなくて事実をちゃんとわかるように日本語で言ってあげただけよ」
「……そうだよねぇ」
 さて、レイさんのお仕置きはどうするべきかな……。申し訳ないけど、このまま無罪放免にするつもりはないよ。
 とりあえずは謝罪、かな? とくに俺が待ち合わせ時間に遅れたわけじゃないけれど、下手に出て様子を見よう。
「遅くなってごめんね」
「……っべ、別に時間より早かったわよ!」
「んーでももう少し早く来るべきだった。貴重なデートの時間がどうでもいいことに使われちゃったし。ねぇ、レイさん?」
 笑顔で彼女を追い詰める。
「だ、だから! ……ったわよ」
 もうひと押しかなぁ?
「いやいや、レイさんは悪くないもんね? 遅れた俺が悪いんだよね?」
「だから! 悪かったわよ! ごめんなさい!」
 真っ赤な顔をした彼女はそっぽを向いてしまった。でも、そんな少し子どもっぽい仕草が好きだったりする。
 自分にだけ見せてくれる表情だと知るからこそなおのこと。
 口をすぼめてむーむー文句を言いたそうにしている彼女の手を握りなおすと、ランチに行こうと提案する。彼女は目を輝かせて、
「行きたいところがあるの」
「どこ?」
「内緒」
 ……今、ニヤリって笑った? 笑ったよね?
 え? 何? 今どこかにライフカード提示されてた? なんか俺が選択する前にサクっと却下された感じだけど――。
 ま、なんとかなるか……。

 レイさんが行きたいといった場所は意外すぎる場所だった。
 店内はピンクやパステル基調であふれており、当然ながら客も女性が大半。男性はひとりふたり……三人か。
 別にかまわないんだけど、意外で意外でしようがない。レイさんがこの手の店に入りたがるとは……。
 レイさんは嬉々として口を開いた。
「ここ、年末のテレビ番組で見たんだけど、どんだけ内装が酷いか見てみたかったのよね」
「……え?」
「いくらスィーツをメインにしてるからってこれじゃ食べる前に胸焼けするわ……。まぁ食べるけど」
 あの……。
「レイさん?」
「なぁに?」
「……いや、なんでもない」
 何も言うまい……。
「何頼むの?」
「これ」
 レイさんが指差したのは、メニューとは別にラミネートされていたもの。そこには、笑いが取れそうなほど大きなパフェが写っていた。
 ……これ、どうしちゃったんだろう? 近づいて写真撮ったのかな?
 そう思い込みたかった。けれども、メニューには"巨大"という文字がでかでかと書いてあるし、パフェの上にはチョコレートケーキとチーズケーキとショートケーキが載っているのだから、間違いなく"巨大"なのだろう。
 引きつる俺の前で彼女はにんまりと笑う。
「なぁに? あれだけ私に餌付けしてたんだから、甘いものには敏感なんでしょ? 食べれないわけないわよね?」
「いや、あれはリサーチの結果で……」
「説得力なさ過ぎるわよそれ」
 ……マジですかっ!?
 懇願の視線を送ると、
「冗談よ、こっちのにするわ」
 巨大パフェは却下された。
 ほっとしつつも、口コミらしきうたい文句をほんの少し気にする。
 まさか、"カップルで完食すると仲が続く"というアレを本気にしてたりはしないよな……?
 もしもそうなら、後日フリスクフル装備で挑まなくてはいけない気がする。
 そんなことを考えていると、
「いいわよ、無理しなくて。柊とチャレンジでもするわ。聖は何頼むの?」
 パッと目に入ったものを指差す。
「んー、クラブサンドとコーヒーかな」
「まぁ妥当ね……」
 ここまでは余裕の面持ちだった彼女だが、店員が声を発した瞬間に表情が固まった。
「いらっしゃいませ、ご主人様ぁ」とは言われない。言われてないのだが、言われているようなむずがゆさを感じる甘ったるい声に悶える。
 かろうじて顔を繕うことができたのは俺。繕うのが無理なレベルだったのがレイさん。
 オーダーが終わると、レイさんはテーブルに突っ伏した。
「どうしよう、自分でここって言ったけど……」
「耐えられない?」
「耐えられない」
 けれどもすでにオーダーはしてしまっている。さすがにお代を払って何も食べず……というのはお財布に優しくないので、ふたりはここは普通のカフェと言い聞かせるように、見る映画の物色を始めた。
 料理が運ばれてくれば会話なくそれを食べるに徹する。
 最速でその店を出るかまえでいたのは俺よりもレイさんだったと思ってる。



Update:2014/04/08



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