Twins〜恋愛奮闘記〜

再会 Side 聖 02話

「こらー、席付けー」
 担任の声で周りの人間が席に着く。
「編入生だ」という言葉に耳を疑った。けれど、期待した人物じゃないほうが入ってきた。即ち、柊の王子様。
 俺はイヴの日と今朝に見ていたことから免疫が多少ある。けれど、そんな免疫などなかった人間は言葉を失うか、絶叫するかのどっちかだ。
 ま、その大半が女子。男子は目が点ってところかな?
「立川、自己紹介」
 その言葉にピタリとざわめきがやむ。
「立川類(たつかわるい)です」
 そのあとに何か続くのかと思いきや、以上終了。これには担任も喉の奥で、くっ、と笑った。
「なんだ、それだけか。立川は双子の妹がいるからなー。何組だったか忘れたが、きっと噂の種になるんだろうなぁー」
 あぁ、女王様が妹ってことはうちと同じか……。そんなことを考えていると自分の名が呼ばれる。
「おい天川ぁー」
「はい」
「立川に校内案内よろしくなー」
「わかりました」
 クラス委員という立場上、そういう役目は俺に振られるんだろうなとは思ってた。なんだか意外なところで“つながり”を得た気分。帰りに柊に話したらどんな反応するかな?
 立川類と紹介された人物は俺の隣の席の前まで来ると、椅子と机を怪訝な顔で見る。
「あぁ、小さいよね? 俺も窮屈だなぁとは思う」
 声をかけると視線だけ合わせ、何も言わずに席に着いた。
 担任はいくつかの連絡事項を済ませると、「始業式に遅れるなよー」という一言を残し教室を出ていった。
 始業式、か。こりゃ、大変なことになりそうだ。
「立川、編入早々慌しくて申し訳ないけど、席立って……そうだな、教室のドア出たら俺について走ってくれない?」
「は?」
「人にもみくちゃにされて前に進めなくなるってのはやでしょ?」
「………………」
「うちの学校、人数が多い上にミーハーって種族が多いんだ」
 にこりと笑みを向けると、意味を解したのか辟易した顔で、「了解」とだけ答えた。
 俺が席を立つと、それに続いて立川も席を立つ。立川の動きを随時追っていた女子たちが、逃がすものかと立川目がけてやってくる。
「立川、予定変更。今から走って」
 声をかけると、遅れなく俺について走り出した。教室を出たところにまだ人影はない。
「ラッキー。うちのクラス、ホームルーム終わるの一番早かったらしい。このまま教室棟外にある体育館まで走るから」
 返事は聞こえないけど、後ろについてきてるのがわかるからそれでいいと思った。でも、問題は体育館に着いてから、だ。
 早々に着いたところで人が群がるのは避けられないだろう。
 さぁて……どうするかな?
「あぁ! トイレ! 立川、トイレ行きたいよね? 寒いしさ、トイレ近くなるよね?」
「はぁ?」
 わけがわからないって顔をされたけどかまわない。俺は立川を伴ったまま体育館の一番使われなさそうな場所にあるトイレに入った。
「なんでトイレ……」
「安全だから? で、こんなところでなんだけど、俺、天川聖。一応、クラス委員なんてものしてるから、わからないことあったら適当に訊いて?」
「………………」
「あぁ、色々と説明が足りてないかも? まず、ここまで走った理由ね。うちの学校人数だけは半端ないからさ、始業式とか集会のとき、移動時間に時間かかるんだよね。それは仕方がないことなんだけど、あまりにも時間がかかりすぎるっていうんで、移動時間に制限時間が設けられたわけ。その誘導を任されてるのがクラス委員なんだけど、遅刻者が出るとひとり一ポイントでクラスポイントがマイナスされるんだ。で、マイナスポイントが多いクラスが体育館の清掃クラスになる」
「………………」
「でも、今回はうちのクラスは無事クリアだろうな。みんな、立川追って走ってきてるだろうから」
「………………」
「立川は災難だったかもしれないけど、俺は助かった。んじゃ、そろそろ体育館に行きますか。あ、こっからは人にもみくちゃにされるのは自分でどうにかしてね?」
 そう言って、体育館の最奥にあるトイレを出た。
 案の定、人の視線集めること集めること……。女子が途絶えることなく寄って来る。所詮は他人事の俺にとっては、思わず笑ってしまうような惨状だった。
 しかし、この立川という男は大したもので、それらに対し動じなければ怯みもしない。もっと言うなら応じもしなかった。
 慣れてるんだろうなぁ……と思いつつ、立川の分析を試みる。
 放つオーラ、それは即ち“失せろ”とか“うざい”。そんなところだろう。
 少なくとも、それで諦めるようなお嬢さん方はうちの学校にいないと思ってくれ。

 始業式が終わればやっぱり人だかりになるわけだけど、そこは俺だって少しは頭を使う。行きはクラスの生徒を撒くのが最優先事項だったわけだけど、今となっては全校生徒を相手にしなくちゃいけない。それをふたりだけで突破するのはまず無理だ。
「はい、みんなに提案なんだけど」
 クラスの人間に向かって声を発する。
「この場だと2400人分の1、もしくは2だけど、クラスに帰れば?」
「あぁ、41分の1だな?」
 意外なことに立川が口にした。
 その言葉にクラスメイトの目の色が変わる。このときから、立川をいかに早くクラスに戻すか……というミッションが一年五組に課せられた。
 クラスメイトが道を作りつつ何とか体育館を脱出し、走りながら話す。
「しばらくこんな状態続くかと思うけど、何とか乗り切って?」
 立川を見ると、うんざりした表情の中に少しの笑みを見ることができた。


     *****


 帰りのホームルームが終わると、担任が教科書を取りに来るようにと立川に言う。
「私たちが職員室まで案内するわっ!」
 モデルをしている夏川美羽(なつかわみう)が声をかけるものの、立川の視線は俺を向く。
「ごめん、俺が指名されちゃったみたい」
 笑って答えると、
「聖くんばかりズルイ」
 と、非難される。
「そりゃズルイよ? だってクラス委員だもん。少しくらい得がなくちゃやってらんないよ」
「それはそうだけどぉ〜……」
「ほらほら、別に立川が明日から別のクラスになるわけじゃないでしょ? 慣れない環境に馴染むまでは親切の押し売り禁止」
「聖くんってシスコンかと思ってたけど実はゲイ?」
「……あー、立川美人だし? ゲイでもいいかも? じゃ、立川行くよ」
 美羽ちゃんは明らかに冗談で“ゲイ?”と聞いてきたわけだけど、それがのちに噂に発展するとは思ってもみなかった。
 俺は女子の非難を適当にかわしながら席を立ち廊下に出る。教室を出れば次は廊下。立川はそこに立つだけで人の視線を集めてしまう。
「あのさ、学校案内ってものが必要かと思うんだけど……」
 俺は立川の表情を見る。
 立川はあからさまに面倒という顔をしていた。
「うんうん、わかるわかる。とりあえず面倒だよね? 俺も今日案内するのは得策とは思えない」
「……名前」
「え……?」
「名前、なんていった?」
「あ、俺?」
「そう」
「天川、天川聖」
「覚えとく」
 意外だった。さっき自己紹介したときに名前を覚えてくれなかったことが……じゃなくて、改めて名前を訊かれたことが。
 まだ会ってから数時間だけど、少し接しただけで他人に関心が持てないタイプの人間かと思ったから。柊には申し訳ないけど、これは無理かな? って思ってた。でも、そんなこともないかもしれない。
 いずれにせよハードルはかなり高いと見た。ま、それは俺も、か。
 歩き始めた立川に声をかける。
「立川」
 振り向く立川はそれだけで絵になる。でもね……。
「職員室、こっちだから」


     *****


 途中、立川の携帯が鳴り、短い通話の末に職員室へと歩き始めた。
「あぁ、そうだ。校内の案内は追々するとしてもトイレだけは先に教えておいたほうがいいよね?」
 俺は教室を出てすぐ左を指す。
「そこだから。五組の利点はトイレと階段に近いこと。以上」
 王子様は無言でついてくる。
「教室棟は全部で四棟。アレ、教室棟に囲まれて建ってるのがセンタータワーって言って、一階には職員室と保健室がある。二階は会議室。三階から五階までが図書室になってる。その周りをひし形状に囲って建ってる四棟が教室棟。北東のこれが理棟で南東が文棟、南西が私棟で北西が芸棟。これ、二年次からのコース分け。立川は理系?」
「………………」
「なんで? って顔? もしくは面倒? 理系って言ったのは、そんな顔に見えたから。俺はどーしよっかなー? 理系が芸術かで悩んでる」
 そんな話をしてると、職員室に通じる通路に出た。
「あ、柊……」
 ……と女王様。何、もしかして女王様って柊のクラスっ!?
 女王様が、もういいわ、的な仕草で柊を離れると、柊は踵を返した。つまり、俺たちの方を向いた。すぐに立川を視界に認める。
「王子様っ!?」
 柊がそう言ったのが先だったか、立川が何か口にしたのが先だったか……。立川は柊を華麗にスルーして女王様のもとへとたどり着く。柊はその姿をずっと目で追っていた。
 たぶん、俺のことなんて視界に入ってない。ある意味ひどい。
 立川ツインズはふたりになると英語を話しだす。そして、何度か言葉を交わすと立川が振り向いた。
 俺とはバッチリ目が合うわけだけど、柊のことは視界に入ってないらしい。すると、柊はその場でジャンプをし始めた。
「ここですっ! こーこっ!」
 あまりにも惨めすぎて俺が抱えて立川の目線の高さまで持ち上げてあげたくなる。
 立川がやっと柊を視界に入れるものの、きれいな顔を歪ませ、思い切り怪訝な顔をする。でも、そこは柊。さすが、俺の片割れ。
 何を気にすることもなくこう口にした。
「天川柊、一年二組出席番号一番。聖の妹ですっ。あのっ、好きです!」
 立川はしらっとした感じで「は?」と言った。きっと、柊の目はキラキラと輝いていることだろう。
 でもな、柊……。これはちょっと癖のある王子様なんだ。けど、柊のことだからちょっとやそっと癖があるくらいじゃ諦めたりしないよな?
「名前を教えてください!」
「……なんで」
「知らないから?」
「………………」
「え? れーちゃん!! 王子様に名前ないの!?」
 柊、ちょっと待て……。
 たぶん、柊という人間の生態だとか思考回路は俺が一番詳しいと自負しているわけだけど、その会話の振りっぷりはあまりにもひどいだろ……。
「柊、待て。ちょーっと待て。名前は普通に考えてあるだろ、ないわけないだろ」
 柊が俺を振り返る。
「あ、聖……」
 ずいぶんな一言だ。俺はずっとここにいたんだけど……。
「立川、悪い。これ、双子の妹で柊。どうやら妹さんと同じクラスっぽい」
 立川は珍しいものでも見るような顔で柊を見ては、
「あぁ、そうみたいだな」
 と答えた。
「驚かせて悪い。今日のとこは回収するから」
「あぁ……」
 勝手に場の収拾を図ると柊が吼えた。
「聖っ、待って! 名前っ。名前くらい知りたいっ」
 ごもっとも……。
「立川、どうする? 名前教えていい?」
 立川はため息をひとつつき、任せる、と答えた。
「ほら、柊。名前教えてあげるから帰るよ」
 立川ツインズは教科書を受け取りに職員室へ入り、俺たちは昇降口に向かって歩き出した。



Update:2011/12(改稿:2013/08/18)



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