誰にも見せない絵 04 − Side 藤宮秋斗 −(性描写があります)
彼女が時折発する甘い声に、俺の脳は麻痺していく。
“絵”が描き終わり、満足した俺は次の欲求を満たすべく行動に移る。
姿勢のいい彼女の背筋を、つ、と指でなぞり、彼女の感じやすい脇腹に指を這わせると、彼女は反射的に背を反らし、直後、力を抜くように少し前かがみになった。
さて、どこまで俺の願いを聞いてくれるだろうか?
「俺に体重預けて?」
「そんなこと言っても……もう秋斗さんの膝の上です」
彼女は恥ずかしそうに言った。
実際には、“跨る”というよりは、俺の膝の上で脚を崩して座ってるような、そんな状態なわけだが……。
俺は予告なしに、手元のリモコンでリクライニングソファーの背を動かし、適度な傾斜になるとそこで止める。
「あきと、さん?」
背もたれが倒れた分、彼女が遠ざかる。
急に動いたソファーに驚き、彼女の脚がぐっと開き、ソファーに膝をつく形になった。これでやっと跨ったと言ってもいいような状況。
「翠葉ちゃんが遠いな。もっと、こっちに……近くに来て?」
逡巡したのち、彼女は俺に跨ったままソファーに手と膝ををつき、よじ登るようにしてこちらに来る。つまりは前かがみの四つん這い……。
自分が覆いかぶさるような状態になっていることに気付くと、彼女はすぐに身を起そうとした。それを逃す俺でもないけれど……。
右手で腕を掴み、左手で腰を引き寄せる。上から下りてきた双方の頂を口に含んでは舌先で刺激する。
腰に回した手は、体のラインを確認するかのように、肌理の細かな肌の上を滑らせた。彼女の腰は弓のようにしなやかな曲線を描く。
その曲線をなぞっては尻を撫で、ショーツに指を忍ばせる。と、そこは十分すぎるほどに潤っていた。
俺は嬉しくなって彼女にキスをする。
「初めてのシチュエーションに興奮しちゃった?」
「っ……秋斗さんの意地悪っ」
かわいい声で小さく抗議される。
本当はさ、ソファに座らせて、とか。ダイニングテーブルに座らせて、とか。キッチンの作業台に座らせて、とか。パウダールームの洗面台に座らせて、とか。
そんな状況でアソコに吸い付き、羞恥に暮れる彼女を舌でいたぶり追い詰めたい、とか思うわけだけど、まだ彼女には無理そうだ。
今のところ、彼女が安心してセックスできるのはベッドの上だけ。
仕方ないな……。
俺は指をショーツから引き抜くと、絡みついた粘液を舐めとりながら彼女を見つめる。
「もっとこんなシチュエーションを楽しみたい気もするけど、ソファーではここまで。あとは寝室で――ベッドの上で心行くまで味わうことにする」
ゆっくりと起き上がり、彼女を抱き上げ寝室に移動した。
いつもと同じ状況になって、ようやく彼女の表情が少し緩まる。
何をさせられるのか、何をされるのか、という緊張ではなく、いつもの行為。想定内の行為を想像し、今から俺に与えられる甘やかな刺激を待つかのような目。
ダメだな……。
今日の俺はずいぶんと欲張りなようだ。――“懇願”してほしい。
「どうしてほしい?」
訊くが、彼女は口では何も答えない。
戸惑いつつ、目だけが必死に訴えている。
「口にしてくれないとわからないよ?」
言いながら、ショーツもシャツもブラジャーも、すべて剥ぎ取る。抵抗はされなかった。ただ、恥ずかしそうに、隠すように体を丸めた。
彼女を残し、自分だけベッドから立ち上がると、彼女は焦って俺の袖を掴んだ。
俺は、少し離れた場所から彼女を眺めたかっただけなんだけど――。
「何?」
振り向き様に訊くと、小さな小さな声で、けれど必死な様子で懇願される。
「……行かないで、ください」
と。
置いていくわけないのにね……。
彼女がベッドで横になっていたのはほんの数分。その僅かな間に、シーツには小さなシミができていた。
そして、彼女の腿には、つ、と透明な蜜の筋。
体が甘い刺激を欲して疼いているのだろう。
「どうしてほしい?」
もう一度訊くと、今度は、
「抱いてください……」
彼女はぎゅっと俺にしがみついた。
かわいい……。本当に、全部丸ごと食べてしまいたいくらいにかわいい。
「容赦しないからね?」
心中の甘さとは裏腹に、攻めの言葉を発すると、かわいい彼女は少し怯えて腕の力を緩めた。俺はそんな彼女をベッドに押し倒し、血色の悪い唇が赤くなるほどにキスをし、柔らかな胸を揉みしだく。
無意識に閉じられた脚を開き、秘部に指を這わせた。
彼女の熱を感じるため、もっと甘い吐息を、声を聞くために――。
*****
情事が終わると、彼女はトロンとしたまま寝てしまう。それはいつものことなんだけど……。
俺はベッドから下りて、彼女の体に目をやった。
白い肌には無数の刻印。まるで花が風で散っていくかのような絵が描かれている。
「……正に芸術作品」
サイドテーブルに置いてあった携帯で写真を撮り、データにおさめる。
誰に見せることもない絵を。
「翠葉ちゃん、君は俺だけのキャンバスだ」
その刻印が消えたらまた新たにつけよう。
目を覚ましそうな彼女を見て、ふと思い立つ。寝室に置いてるスタンドミラーをベッド脇に持ってきた。そして、目を覚ました彼女に見せる。
「どう? 会心の出来なんだけど」
「何がです……っっっ――」
最初は意味がわからないようだったけど、鏡に映し出された自分の体を見て口もとを押さえた。ここまでたくさんのキスマークをつけられているとは思わなかったらしい。
「きれいでしょ?」
訊くと、
「秋斗さん、どうしよう……」
「ん? 何が?」
「私……明日、通院日です。――相馬先生に見られるの恥ずかしいっ」
あぁ、そういえば……と思う。
「誰にも見せるつもりなかったんだけどなぁ……。そっか、相馬さんには見られちゃうわけか。なんかちょっと悔しいな。でもきれいに描けたから自慢したい気もするし……」
「そういう問題じゃありませんっ。恥ずかしいのは私なんですからねっ!?」
「んー、ごめんね?」
にこりと笑って謝る。
だってさ……。
「背中には大輪の花を描いてみたんだけど……見る? 数にして――刻印は30以上かな?」
「えっ!?」
「あ、正確な数知りたい?」
花火のようにも、大輪の花のようにも見えるそれを、俺が数え始めると、
「数えないでくださいっ」
と、怒鳴られた。
怒られて情事の幕が下りる、というのは初めてのこと。今日は初めてのことだらけだったね?
ひとつは白いシャツ。ひとつはベッド以外でのエッチ。そして最後に叱責。
さて、次は何にトライしようか?
彼女が明日の通院のことを考え青くなっている傍らで、俺は次のことしか考えていなかった。
何度、彼女を抱いてもあきることはない。今日みたいなオプションがつけばもっとバリエーション豊かに愛せるだろう。
それには、時間をかけて少しずつ彼女を調教し、許容範囲を広げる必要があるけれど――。
それも楽しみのひとつというものだ。
彼女の白い肌に、次はどんな絵を描こうか――。
END
2012/04/16(改稿:2012/10/16)
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* あとがき *
多分、初挑戦(?)というような描写にトライしたお話でした。
甘い秋斗さんに、かわいい翠葉さんを書けたらいいな、と思っていたのですが、どうでしたでしょう?
あ……えっち描写に関しては何も言わないでクダサイ……。
葉野が頑張ったところで、このくらいがせいぜいです(苦笑)
しかも、そう何話も書けるだけのネタがございません(^^;;
今回は、リクエストのされ方がとても適度で、遊びの(←ゆとりや余白のことです)部分があったので
設定にがんじがらめにされることなく書くことができました^^
キリ番SSで04話まで書いたことも初めてです(笑)
最後までお付き合いくださり、ありがとうございましたm(_ _"m)ペコリ
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