【100000】 設定内容


 【100000】のキリ番はスルーされてしまったため、読者様にご協力いただき、匿名で【お題】の募集いたしました。
 たくさんいただいた【お題】の中から、私が書きたいと思ったお話を書かせて頂きました。

1 誰視点 → 藤宮海斗

2 カップリング → 藤宮海斗 × 御園生翠葉

3 設定 → 海斗くんと翠葉さんが付き合っていてデート中。
       年齢は20歳くらい。
       秋斗と司に絡んでほしいです。

★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。

2012/03/01(改稿:2012/10/15)

 不満と嫉妬  − Side 藤宮海斗 −


 俺は彼女に不満がある。
 見かけも性格も申し分なくかわいいけど、唯一の不満――それは名前の呼び方。
「翠葉、そろそろ名前で呼んでよ」
「え? 名前で呼んでるよ?」
「“海斗くん”じゃなくて、“海斗”って呼び捨てがいいんだけど」
 にこりと笑うと、翠葉は顔を少し赤く染めて慌てる。
「あ、わ……急に言われても」
「司が呼び捨てで俺がずっと“くん”付けって納得いかない。高3から付き合い始めて二年ちょい、そろそろいいでしょ?」
 むしろ遅いくらいだ……。
「でも……」
「でも、なんでしょうかね?」
 向き合って座るテーブル上で距離を詰めると、俺が近づいた分だけ翠葉はテーブルから離れる。
「……だって、慣れないんだもの」
「じゃぁ、呼び続けて慣れればいいじゃん」
 俺は間違ったことは言ってないと思う。
「無理強いはどうかと思うけど?」
 後ろから、俺が全く歓迎しない声が割り込んだ。“司”だ。
 彼女が唯一名前を呼び捨てをする男であり、俺の従兄。
 翠葉は嬉しそうに顔を綻ばせ、司の名前を口にする。もちろん呼び捨て……。
「なんで、こういうタイミングで現れるかなぁっ……」
「ここはマンションの喫茶ルームで、俺がいつ現れても不思議な場所じゃないと思うけど?」
「お前なんか大学卒業するまで支倉から帰ってくんなっ!」
 超絶本音。
「それは無理な話しだな。俺はお前の邪魔をするためだけにここに帰ってきてるから」
 そこで“ふたりの”って言わないところがムカつく……。いや、“ふたりの”って言われてもムカつくものはムカつくんだけど。
「っていうか、いい加減諦めたら? 翠葉が付き合ってんのは俺。別れるつもりとか全然ないし」
「お前になくても翠にはあるかもしれないだろ?」
 しれっと返され俺は慌てる。
 それは考えてなかった。
 恐る恐る翠葉に視線をやると、苦笑を浮かべて声を発した。
「そんな……別れるとか考えてないよ。ツカサ、どうしてそう煽るかなぁ……」
「それは、海斗を弄るのが楽しいからだろ?」
 司は図々しくも彼女の隣に座った。翠葉はそれを嫌がりもせず受け入れる。
 さらには、何か飲む? なんてメニューを見せたりするから、ふたりがデートしてるのを見てるような錯覚に陥る。
 七倉さんの言うとおり、部屋で待ってれば良かった。なんで喫茶ルームなんかで待ってたんだろう……。
 自分の選択を激しく後悔する。

 明日は俺の誕生日。でも、明日は月曜日だから、日曜日の今日祝ってもらうことになった。
 翠葉がプレゼントを用意する前に、俺はプレゼントを要求した。手料理が食べたいと。
 翠葉はその“お願い”に不思議そうに首を傾げた。それもそのはず――俺は大学が終わると毎日のように御園生兄妹が住む部屋を訪れ、そこで夕飯を食べているからだ。
 毎日のように彼女の料理は食べている。でも、それはあくまでも彼女の家で……なんだよね。
 自分の家で……っていうのとはわけが違う。
 だから、今日はうちで作ってくれるようにお願いしたんだ。
 俺も大学に通い始めてからこのマンションの一室で一人暮らしを始めた。けど、翠葉がうちに来ることはほとんどない。
 それは、俺が毎日のように翠葉んちに押しかけているからほかならないわけだけど……。
「お嬢様、海斗様。食材がそろいました」
 七倉さんに声をかけられ、ようやくその場を離れられると思った。
「翠葉、うち行こう。司、邪魔っ」
 俺は力ずくで司をどかし、翠葉の腕を掴んだ。
「海斗くん、痛いっ」
 彼女に言われるよりも先に司に手を払われる。
「嫉妬するのは勝手だけど、それで翠に当たるな」
 くっそ……。
 俺は悔しさのあまり、翠葉も食材も置き去りにして喫茶ルームを出た。

 この直情型をどうにかしたいと思う。
 ほかのやつが相手ならもう少し落ち着いてられる。けど、司や秋兄が相手だとちょっと無理。
 どうしてって……ふたりとも未だに翠葉を諦めてないからだ。
 司は医学部が支倉にある都合上、あまり顔を合わせることはない。が、秋兄は俺と同じように毎日夕飯時になると翠葉んちに行く。
 そして、ちゃっかりと御園生兄妹と夕飯を食べてるんだ。
 虎視眈々と彼女を付け狙われてるかと思うと気が気じゃない。
 家に帰り頭を冷やそうとバスルームに向かった。バスルームに足を踏み入れる瞬間、インターホンが鳴る。
 たぶん、翠葉。
 出ると、やっぱり翠葉だった。一緒にいた七倉さんが保冷ボックスを俺に差し出す。
 それを受け取ってさらに後悔。保冷剤などが入っているそれは、彼女に持たせるにはあまりにも重すぎた。
「七倉さんすみません。ありがとうございます」
 礼を言うと七倉さんは、「失礼いたします」とすぐに下がった。
 その場に残った彼女が俺の顔色をうかがう。
「ごめん……ちょっと頭冷やしてくるから。キッチン好きに使って?」
「うん……」
 俺は翠葉を玄関に招き入れ、渡された食材を持ってキッチンに向かう。
「調味料はシンク下。鍋やフライパンはその隣の引き出しに入ってるから。菜ばしとかは調理台下の引き出し」
「うん……」
 不安そうな顔をする翠葉の手を取り抱き寄せる。
「ごめん……腕、大丈夫?」
「だ……だい、じょう、ぶ……」
 翠葉は未だに俺に抱きしめられることに慣れない。そのことも不満に思い、嫉妬していた。
 まだ高校生のとき、翠葉は司だけを許容していた。手をつなぐことも抱きしめられることも……。司に触れることで安心しきった顔を見せた。
 それはたぶん、今も変わらない。
 結果として、司の気持ちは一方通行に終わり、俺が翠葉の“彼氏”になったわけだけど、俺が求める表情は一度として俺に向けられたことはない。
「翠葉はさ……俺のこと好き?」
「好き、よ?」
 即答してくれることだけが救い。
「翠葉、プレゼントちょうだい?」
「あ、えと、すぐに作るね?」
 彼女は慌てて俺から離れようとする。
「シーフードドリアもそうだけど……もう一つ」
 俺は彼女を腕に閉じ込めたまま言う。
「キス、して?」
「えっ!?」
「翠葉から……キス、して?」
 彼女は顔を真っ赤に染める。
 付き合い始めてから一度も翠葉からキスをしてもらったことはない。いつも、俺が我慢できなくなってキスをする。
 嫌がられたことはないけど、進んでキスしてくれたこともない
 ――俺の願いは聞き届けられるんだろうか?
 翠葉の表情をうかがうと、彼女は目を潤ませ唇を震わせていた。
「ごめん……」
 これこそ、無理強いだ――。
「海斗くんっ、目……閉じてっ」
「え……?」
 翠葉は両手で俺のシャツをきゅっと握る。
「すい、は……?」
 俺は腕におさまる彼女をまじまじと見つめた。
「お願い……目、瞑ってくれないと、ムリ……。それからっ」
 翠葉は小さな声で懇願する。少しかがんで、と。
 シャツを掴んだのはその動作を促すためだったようだ。
 俺は腕の力を緩め、ほんの少しかがんでみせた。
「目も閉じてっ……」
「ハイ」
 俺はおとなしく目を閉じる。すると、長い沈黙の後、唇に知った感触を得た。
 少し冷たい翠葉の唇……。それは三秒と経たないうちに離れた。
 すごく短いキス――。
 でも、目の前の彼女を見れば、どれだけ勇気のいることだったのかが想像できる。翠葉は俺のシャツを放さず、手がうっ血するほどに握りしめたままだ。
 そんな翠葉が愛おしくて、華奢な体を壊さないように抱きしめなおす。
「ありがと。すっげー嬉しかった」
「……機嫌、直った?」
 真っ赤な顔のまま、顔を上げてそう訊かれる。
「直った」
 今、俺は誰が見てもデレデレした顔をしている自信がある。
「また俺の機嫌が悪くなったらキスしてくれない? そしたら、すぐに直ると思う」
「そんなのムリっ」
「なんで?」
 訊くと、翠葉は恥ずかしそうに答えた。
「だって、人が見てるところじゃできないもの……」
「……俺は普通にキスするけど?」
「それだって、ものすごく恥ずかしいんだからっ」
 滅多にない彼女からの猛抗議。
「じゃぁ……そんなときは物陰まで翠葉を連れて行くかな?」
「えっ!?」
「人の目がなければいいんでしょ?」
「や、そういうわけじゃ……」
「じゃ、何? ここに連れ込めばいいのかな?」
 にこりと笑うとバシっと叩かれた。
「海斗くんの意地悪っ」
「司よりは優しいと思うよ?」
「…………」
「だから、俺のこと、“海斗”って呼んでよ……」
 腕の中で翠葉は息を整える。息を……というよりは、気持ちを、かな?
 そして、呟きだとか囁くといった声で“海斗”と呼んでくれた。
「海斗……好き、よ?」
 そう言って、きゅっと抱きつかれる。
 あぁ……いいや。今はこれでいい。
 いつかは司よりも近い存在になりたいけど、今はこれでいい。
 だって、俺、振られる気しねーもん。翠葉の気持ちは確かに俺にある。そう思えたから、今はいい。
 願わくば――そう遠くない未来に、俺の腕で安らかな顔をする彼女を見られますように。


END

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* あとがき *

 司と秋斗を絡ませて欲しいということだったのですが、一応お話には出てくるものの、秋斗さんの登場ならず……。
 申し訳ございませんm(_ _"m)ペコリ


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