【151515】 設定内容 注)PG12です
1 誰視点 → 藤宮秋斗
2 カップリング → 藤宮秋斗 × 御園生翠葉
3 設定 → 結婚している。
お弁当を作る翠葉さんに付きまとってつまみ食いをする。
ホテルで仕事があった秋斗さんは愛妻弁当を藤宮一族に狙われる。
(後日、このお弁当はウィステリアホテルで個数限定販売されることになる)
愛妻弁当を取られ、飢えている秋斗さんが帰宅後に翠葉さんに甘える。
★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
お願い申し上げます。
本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。
注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。
R15です。(03話04話に性描写があります)
2012/04/12(改稿:2012/10/16)
誰にも見せない絵 01 − Side 藤宮秋斗 −
俺の朝はベッドの上から始まる。
何を当たり前のこと言ってるんだ、と思われるかもしれないが、そうとしか言えないのだから仕方がない。
彼女の起床時間は六時、俺は七時。本当は同じ6時に起きて時間をともに過ごしたいわけだけど、
「秋斗さんは朝から晩までお仕事してるんですよ? 休めるときはゆっくり休んでください」
と、言われてしまうのだ。
そんなに気を遣ってくれなくても大丈夫なんだけど……。
でも、その気持ちが嬉しくて、彼女が起きる六時に目が覚めようとも俺は起きない。ベッドに横になったまま、彼女が奏でる包丁の音を聞いて過ごす。
彼女は俺が起きるまでの一時間で朝食やお昼のお弁当を用意してくれる。
本当はさ、ベッドで音を聞いてるだけじゃなくて、お茶でも飲みながら、カウンター越しに料理をする君を見てたいんだけどね。
結婚してから、俺の生活はかなり規則正しくなった。
二年前に立ち上げた会社が軌道にのり、大分落ち着いてきたってこともある。が、何よりも、彼女とともに過ごし始めたからほかならない。
一緒に夕飯を食べようと思えば八時までに帰宅する必要があるし、一緒に寝ようと思えば日付をまたぐ前にベッドに入ることになる。
彼女の生活リズムに合わせることで、自分の生活を難なく正すことができた。
それからというもの、朝の目覚めもよくなり、睡眠をとることで体がリセットされたかのようにシャッキリするようになった。
俺は今、規則正しい生活が健康にいい、ということを身をもって体感している。
相変わらず、彼女が俺にもたらす効果は絶大なわけです。
会社は静さんにお願いしてマンションの一室を使わせてもらっているので、通勤時間は五分ほど。
階を移動するだけなのだから、実際はもっと短いかもしれない。よって、九時始業で八時半までに行くにしても、朝は大分ゆっくり過ごせる。
七時になってようやく体を起こし、寝室を出た。
キッチンに向かうと、彼女は水を注いだグラスを俺に差し出し、
「おはようございます。よく眠れましたか?」
と、毎朝同じ言葉をかけてくれる。
俺はその度に思う。ナースの格好をさせてみたい、と。
すっかり覚醒している頭ではそんなことを考えているけど、口に出す言葉は健全そのもの。
「おはよう。ゆっくり寝れた。……いつも早起きさせてごめんね」
彼女は、いいえ、と眩しい笑顔で答える。
「いつもありがとう」
俺は感謝の気持ちを伝えてからシャワーを浴びに行く。
――そう、これが毎朝のやりとり。
シャワーから出てくると、ダイニングテーブルには栄養バランスの良さそうな朝食が並んでいた。
今日は洋食の日。昨日は和食だった。そして、明日も和食だろう。
彼女は、朝に作れるご飯のレパートリーが少ないから、と一日おきに和食洋食と変える工夫をしてくれている。
「頑張ってレパートリー増やしますから」
なんて申し訳なさそう言うけれど……。
翠葉ちゃん、十分すぎるよ。君の手料理を朝昼晩と三食も食べられるんだ。
俺に気付いた彼女が、
「あ、今トースト焼きますね? あ、わ……それからスープっ」
朝食とお弁当を作る日のキッチンは戦場のようだ。
決して彼女の手際が悪いというわけではない。ただ、お弁当を作りながら朝食の準備をする、ということに慣れていないだけのこと。
俺はキッチンの中に目をやる。
トーストは焼くだけ、スープは温めなおすだけ、か。
「翠葉ちゃん、トーストとスープは俺がやるからいいよ」
「え? あ、大丈夫ですっ」
「でも、ふたりでやったほうが時間短縮になるでしょ?」
「でもっ……」
まるで、自分の仕事を取らないでください、と言わんばかりの目だ。
「お昼ごはんが楽しみなんだ。だから、朝は少しくらい手伝わせて?」
ちゅっ、と軽く音をたてて彼女のこめかみにキスをする。
彼女は真っ赤になって、ハイ、と機械的に答えてはぎこちない動きでお弁当を詰める作業に戻った。
キスなんて何度もしたし、何度も愛し合った。
けれど、彼女は慣れるどころか、いつまでも初々しさを保ったまま。ねだらないと彼女からのキスは得ることができない。
いつか――数年後には彼女から“お誘い”されるほどに成長してもらえるだろうか?
淡い期待に思いを馳せながら、スープを火にかけ、彼女お手製のパンをトースターに入れる。――以上終了。
トーストが焼ける頃にはスープも温まっているだろう。
手が空いてしまった俺は、彼女がお弁当を詰める姿を見ていた。
出来心で、ひょい、と卵焼きに手を伸ばし口に入れる。
「秋斗さんっ、お弁当のおかずですっ」
「冷めても美味しいけど、出来立ても美味しいんだよね」
にこりと笑うと、「う……」と返答に詰まる君。
「ひじきも美味しそう……」
「す、少しだけ……一口だけですよ?」
「はいはい」
彼女は甘辛く煮炊きしたひじきを、スプーンで俺の口元に運んでくれた。
咀嚼している俺をじっと見ては不安そうに瞳を揺らす。
「すごく美味しいよ」
「本当ですかっ?」
「うん」
「良かった」
彼女のほわっとした笑顔が好き。そう思ったら、彼女を抱き寄せキスをしていた。
「ひじきの味、した?」
訊くと、真っ赤な顔でコクリと頷く。
「あのっ」
「ん?」
「秋斗さんがキッチンにいるとお弁当作れないので、ダイニングでおとなしく朝ご飯食べててくださいっ」
どうやら相当困らせてしまったみたいだ。
そこに、チン、とトーストの焼けた音がなる。レンジに目をやれば、スープも沸騰寸前まで温まっていた。
「じゃぁ、そうします。でも、ひとりで食べるのは寂しいから、早く向いに座ってね?」
「はい」
彼女は恥ずかしそうに小さく答え、トーストを乗せるプレートを用意してくれた。続けて、食器棚からスープカップを取り出そうとする手を押さえ、
「これは俺がやるから、早く詰めて?」
「す、すみませんっ」
「……今度から俺の好意に謝ったらペナルティにしようかな?」
「えっ!?」
「うん、そうしよう。謝ったからペナルティね?」
「ペナルティって!?」
「そうだな……その場で食べさせてもらうよ」
「えっ、これ以上食べたらお弁当のおかずなくなっちゃいます」
くっ、と俺は笑う。
「違うよ」
「……え?」
「俺が食べるのは――」
その先は行動で教える。
彼女の長い髪を払い、スクエアネックから覗く鎖骨のくぼみに吸い付く。唇を離すと、白い肌に赤い痣がくっきりと浮き上がった。
「ごちそうさま」
真っ赤になって立ちすくむ彼女をキッチン残し、トーストとスープをダイニングに運んだ。
彼女の体にキスマークをつけるのが好きだ。
たくさんのキスマークをつけると、まるで白いキャンバスに赤い花びらを散らしたような絵になる。
彼女は、俺のたったひとつのキャンバス――。
*****
この日は午前中に社内ミーティングがあり、午後には商談が二件入っていた。
場所はウィステリアホテルの一室を押さえてある。
現況、限りなく殿様商売に近い状況だが、客は客。時間にはゆとりを持って行動し、顧客を待たせるようなことだけはするな。
これは蔵元――社長の企業方針だった。
「天狗になるといつかは鼻を折られます。いくら売れるものを扱っていようと、相手に失礼になることはしないように」
ごく当たり前のことだが、今まで人に頭を下げることなどしてきてない俺や唯には、言っておかなくては……と思ったのだろう。
ポカンとした顔で聞いていた俺と唯に、追加でこう言った。
「別に頭を下げる必要はありません。ただ、頭を下げる状況を作らなければいいだけのことです」
なるほど、真理だ。
まじまじと思う。蔵元を社長の座に据えて良かった、と。
さすが、父さんに俺のお守りを任されていただけのことはある。藤宮警備を辞めた今も、俺と唯の教育には余念がない。さらには、一癖も二癖もある俺と唯の相手をしてきただけに、人のあしらい方や持ち上げ方、人を動かすのがうまい。
それは社内だけではなく、取引先の人間にも同じことが言えた。
社長という肩書きには相応しくないほどよく働き、営業が持ってきた商談はどんな障害があろうと、社の利益につながるのであれば必ず契約にこぎつける。
割と早くに会社が軌道にのったのは蔵元の功績があってのことだった。
*****
ウィステリアホテルの一室で、翠葉ちゃんお手製の弁当を広げたとき、ノックもなしにドアが開いた。
こんな入り方をしてくるのはひとりしかいない。
このホテルのオーナー、藤宮静。次期会長とは肩書きばかり。五年前から会長代行をしているのだから、現会長と言っても過言ではない。
とっととじーさんと世代交代すればいいと思う。
静さんは、うちの会社に“人脈”という投資をしてくれている。
「昼なら一緒に食べよう」
「別にいいですよ」
静さんは向かいに座ると、ウィステリアホテルの松花堂弁当の中でも最も高い弁当を広げた。値段にして一万五百円。
ホテルではサービス料金が加算されるため、税込み一万五百円の弁当でも十パーセント上乗せされて一万一千五百円になる。
弁当箱らしからぬ大きな器は、長方形三つ、正方形六つに仕切られており、季節感ある食材が美しく盛り付けられている。そのほかにお吸い物や茶碗蒸しまでもが付随する。
見かけも何もかもが豪華で美味しそうだ。事実、美味しいことはよく知っているけど、翠葉ちゃんが作ったお弁当に勝るものなどない。
「いただきます」
手を合わせ箸をつけようとしたとき――す、とお弁当箱を取り上げられた。
ほかの誰でもない静さんの手によって。
「ちょっと何するんですか……」
静さんは興味深そうにお弁当箱を観察している。
すごく嫌な予感がする……。むしろ、嫌な予感しかしない。
「秋斗、交換しよう」
「やです」
「なんだ、一日くらいいいじゃないか」
「一日だって一食だって惜しいです」
「一食私に譲っても罰は当たらないと思うぞ?」
「罰が当たっても譲りたくないですね」
笑顔の応酬が始まったが、それはすぐに幕を閉じる。決着がつく前に静さんが箸をつけてしまったのだ。
「俺の卵焼きっ」
「卵焼きくらいでケチケチするな」
「ケチで結構っ。温かい卵焼きと、冷たい卵焼きは味が違うんですよっ! せっかく二通り楽しめるはずだったのにっ。もう一個は残しといてくださいよっ!?」
「あぁ、そうだな」
ほっとしていると、静さんは携帯を取り出しどこかにかけた。
「あぁ、忙しいところ悪いな。そこを誰かに任せてちょっと出てこれないか? 食べてもらいたいものがある。2011号室にいる」
一方的に話して通話を切った。こんなことは珍しくもなんともない。
20111号室とはこの部屋のことだから、誰かをこの場に呼び寄せたのだろう。その人は五分とかからないうちに息を切らしてやってきた。
白髪交じりの恰幅のいい男、料理長の椚木(くぬぎ)さんだ。
「悪いな。ちょっと食べてもらいたいものがあるんだ」
「はぁ……なんでございましょう?」
「この弁当を一通り食べてもらいたい」
「こちらのお弁当を、でございますか?」
「食べ終わったら感想を頼む」
納得しがたいようではあったが、料理長は了承した。
……っていうか、それっ。俺のお弁当っ!!
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