【141414】 設定内容


1 誰視点 → 御園生翠葉

2 カップリング → 御園生翠葉 × 藤宮司

3 設定 → 新婚生活、夏の朝の出来事。

★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。

2012/04/05(改稿:2012/10/16)

 ネクタイ  − Side 御園生翠葉 −


「ツカサ、ネクタイは?」
 Yシャツの首元は軽く開けられていて、いつもそこにあるはずのものがない。
 忘れるなんて珍しい、と部屋に取りに行こうとしたら止められた。
「今日からクールビズ」
「……じゃぁ、ネクタイしないの?」
「そうだけど……何?」
 あまりにもまじまじと見すぎてしまっただろうか、喉もとを……。
「ネクタイ、好きなんだけどな」
「俺は涼しくなって助かったけど?」
「ツカサはネクタイ締めてても暑そうに見えないよ? 顔が涼やか」
「……顔で人の体感温度を想像するのはどうかと思う」
 それはそうなんだけど――。
 真夏でもネクタイをきゅっと締めて、いつも涼しそうな顔をしてるツカサをキレイだと思ってた。
 今、大好きな顔の下に続く喉もとは涼しげに開かれているわけだけど、なんだか……。
「何」
「ううん、なんでもないよ」
「なんでもないって顔じゃない」
「本当になんでもないってば……」
「……わかった。通勤時にネクタイしていっても別段問題ないからしていく」
 え!?
「本当になんでもないからいいよっ。涼しいんでしょうっ?」
 靴を脱いで廊下を戻ろうとするツカサの腕を掴み引き止めた。
 ツカサは振り返り、
「じゃ、何が不服なのか言ってほしいんだけど?」
 あっという間に形勢逆転。
 腕を掴み力を働きかけていたはずの私は、ツカサの動作ひとつで壁際に追いやられ尋問されていた。
 私が掴んでいたツカサの左手は、今、私の右手を掴んでいる。
 じっと私を見る視線にたじろぎ、思う。
 言いたくないなぁ……。すごく言いたくない。
「何がそんなに言いづらいわけ?」
 言葉が雑になったわけでも声を荒げたわけでもない。変化があったとしたら、それは目。
 私を見る目が徐々に苛立ちの色を帯び始めていた。
 どうしよう……。
「翠」
 声量も変わらなければトーンだって変わらない。いつものように、ただ静かに名前を呼ばれただけ。
 でも、私を示す平仮名ふたつには、言え、という響きが多分に含まれていた。
 私は小さく息を吸い口を開く。
「ちょっとだけ……。ちょっとだけ、だよ?」
 恐る恐る話し始めたら、自然と気になる部位へと目がいった。
「ツカサの、顎から首のラインってすごくキレイだから……。だから、ほかの人に見られたくないなって……」
 キレイだと思っているそれを、間近に見ながら言うのは拷問だと思う。
 もう無理、これ以上は無理っっっ。
 ツカサから視線を引き剥がし――左端に逸らす。
 いつもなら足元に視線を落とすところだけど、下を向くことすらできない距離にツカサがいた。

 仕事からツカサが帰ってくると、私は玄関でスーツの上着を受け取る。靴を脱いだツカサは、左手にかばんを持ったまま廊下を歩き、右手でネクタイを緩める。その仕草がとても好きだった。
 一糸乱れず……という言葉を彷彿とさせるほどに、朝と何も変わらない状態で帰ってくるツカサ。
 きっちりとした様に几帳面だな、と思う反面、そのネクタイを緩めるのは家だけ……。自分の前だけ……という気持ちが、思いのほか強かったらしい。
 けれど、クールビズじゃ仕方がない。しばらくの間はネクタイを緩める姿を見ることもできないだろうし、誰もがツカサのそんな姿を目にするようになる。
 なんか、やだ……。
「っ――――」
 嘘、これって嫉妬……? 独占欲……?
 そんな感情に気付くと、私は自分にすらうろたえる。
「それ……出勤前の旦那煽ってるとしか思えないんだけど?」
「ちっ、違っっっ!!」
 正面にいるツカサに視線を戻す。
「どこら辺がどう違うのか教えてくれないか?」
 ツカサは真面目な顔で答えてから、口もとに笑みを浮かべた。
 ほんの少し背をかがめ、傾いた顔と目線が合う。
 次の瞬間にはキスをされていた。
 唇はすぐに離れる。
「ツ、ツカサ……時間っ」
「俺がいつも一時間半前に家を出てるのは知ってるはずだけど?」
 そ、そうだけどっ。
「あと一時間は余裕あるな……」
 ツカサは手元の腕時計を確認し、軽々と私を抱き上げた。
 廊下のドアが開け放たれていたこともあり、何に阻まれることなく寝室に移動する。
 私は、今朝起きたままのベッドに下ろされた。
「ツ、ツカサっ!?」
「何?」
「あ、朝っ」
「……確かに朝だけど?」
「仕事行く前っ」
「それも間違ってない」
「遅刻っっっ」
「それはあり得ない」
 あとは? ほかに何があるっっっ!?
 必死に考えをめぐらせていると、くくっ、とツカサがベッドのすぐ脇で体を折って笑い出した。
「ツ、カサ?」
 ツカサの顔を覗き込むと、
「翠、必死すぎ」
 くつくつと笑う。
「あまりにも翠が本気で拒絶するのが楽しすぎた」
「っ…………ひどいっっっ」
 ツカサに向かってグーパンチを繰り出すものの、ツカサの大きな手に遮られてしまう。
「でも、翠が煽ったことには変わりない。夜、覚悟してろよ?」
 よ、夜っ…………!?
 絶句してると、
「朝はダメでも夜ならいいんだろ?」
 と、意地の悪い笑みを浮かべて寝室のドアへと足を向けた。振り返ったツカサと目が合う。
「体力温存、今日はゆっくり過ごしてれば? 何ならそのまま寝ててもいいし。あぁ……昼は抜かずに食べるように」
 そんなことをさらっと言って出て行った。
「つ、ツカサのカバーっっっ」
 ベッドにあるクッションを4つ全部ドアのほうへと向かって投げたけど、ツカサはとっくに射程圏外へ逃れていた。

 ツカサが家を出てから数分後に携帯がメールの着信を知らせる。駐車場まで移動する間に送ってきたのだろう。


件名:できれば
本文:次からはカバじゃなくて、サイにしてくれないか?



 お願いされた意味がわからない。“サイ”とは、動物のサイだろうか?
「きっと、そうよね……? でも、どうしてサイ?」
 動物のサイだとわかっても疑問は残る。


件名:Re:できれば
本文:何でサイなの?



 返信はすぐに返ってき来た。


件名:Re:Re:できれば
本文:河馬よりも犀って漢字。
   角がないよりあるほうが見栄えがいいし、群れるのは好きじゃない。
   カバは群れをなして生活するけど、サイは群れるにしても家族がせいぜい。
   それと、俺はカバほど獰猛じゃない。



 返信内容に唖然とする。
 漢字に始まり角のあるなし。さらには生態まで……。
 なんで、サイとカバを区別できる知識を持ち合わせてるのかも不明。
 というよりも、私が勢いに任せて言った言葉から、ここまで会話を掘り下げられることがすごいと思う。思うけれども……。
 ツカサって、時々すごくよくわからない――。
 私はゆっくりと立ち上がり、寝室の窓へと目を向ける。
 空は真っ青で、夏らしい朝の日差しが窓辺に差し込む。
「決めた。お洗濯物から始めよう」
 私はシーツやピローケースを剥がしにかかった。


END

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→ Side 藤宮司


* あとがき *

 お題は設定などが特になく、「司×翠葉であまーーいお話!」というものでした。
 どちら視点というしてもなかったので、先日いただいた感想にお応えして、甘いお話の翠葉さん視点を書いてみようかとトライ。
 フムフム、司に攻められてるときの翠葉さんてこんななのね、と思いながら楽しく書かせて頂きました^^
 これの司視点を読みたいという声があがりそうなので、現在そちらも執筆中。
 楽しんでいただけたら幸いです*


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