【111111】 設定内容


1 誰視点 → 御園生唯芹

2 カップリング → 御園生翠葉 × 藤宮司

3 設定 → 唯ちゃんから見た【翠葉 × 司】カップル。
       明るい感じのお話で。

★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。

2012/02/23(改稿:2012/10/15)

 探偵ごっこ  − Side 御園生唯芹 −


 本日の俺の予定。丸一日フリー。
 で、今、何をしてるかと言ったら、かわいい妹の尾行。
 それも単なる尾行ではない。デートの尾行だ。
 え? 悪趣味? 知ってる知ってる、ちゃんと自覚してる。だからなんとでも言って?
 だってさぁ、急に丸一日休みって言われてもとくにすることないし、リィと司っちが普段どんななのか気になるし。
 ちょとした暇つぶしになるかな? と思ったんだ。
 出来心だよ、出来心。
 そんなわけで、ただいま尾行中。気分は探偵ごっこ。

 曜日は日曜、時間は昼時、場所は街中。
 容姿端麗なリィと眉目秀麗な司っち。容姿整いすぎのふたりは手もつながずに歩いていた。
「なーんで手とかつながいかなぁ……」
 ふたりの間には三十センチほどのスペースがある。遠く離れてるわけでも近すぎるわけでもなく、常に30センチ。
 たまに人にぶつかりそうになるリィを庇うため、腕をつかんで自分側に引き寄せたりするものの、司っちの拘束はすぐに解かれる。そして、また律儀なまでに三十センチの間隔を保って歩き出す。
「歯 が ゆ い っ !」
 秋斗さんだったらリィに会った瞬間にその手を取るだろう。たぶん、俺でもそうする。きっと、あんちゃんも……。
 それに比べて司っちときたら――。
「清い……清すぎる交際っ」
 ぼやきつつも尾行続行。
 午前中から見ていてわかったこと。
 ふたりはずっと一定の間隔をキープしてるわけだけど、それは司っちによってキープされているという事実。何かの拍子にリィが近づいたとしても、三十センチからマイナスされた分だけ司っちはさりげなく離れる。
 何コレ……。
 ふたりがお昼を食べるために入った店は、オーガニック食品を扱うブッフェスタイルだった。リィの食べられるものや食べられる量を考慮したショップチョイス。
 司っちグッジョブ。
 ここならリィは食べられないものはないだろうし、自分が食べたいものを食べれる分量だけプレートに取ればいい。メニューは全部で三十種類とかなり豊富。
 ドリンクバーの充実っぷりも半端ない。ハーブティーは単品で十種類あり、それらを自分でブレンドできるようになっていた。
 リィは食事のときはお湯を飲み、最後はハーブティーを淹れに行く。
 テーブルに戻ると、司っちがハーブティーの中身を訊いたようだ。
 リィが答える間、彼はずっとそのティーポットを眺めていた。するとリィはそれを司っちに差し出し席を立つ。
 一連の行動からすると、今淹れてきたものは司っちにあげて、自分の分をまた淹れに行ったって感じだろうか?
 司っちはリィの後姿を見て表情を緩める。
「うはっ、貴重っ……」
 無表情がデフォルト。次によく見る表情は“超絶不機嫌”の司っちが妙に優しい顔をした。
 盗撮したい、とうさつしたい、トウサツシタイ……。
 基本、自分の欲求に素直な俺はこんなときとても困る。
「慎め俺、頑張れ俺……」
 ふたりはお茶を飲み終わると店を出て、駅ビルに入っている大型書店へと向かう。そこでも司っちの気配りは垣間見ることができた。
 リィが本に夢中になって突っ立ってる時間が5分を越える前に声をかけ、動くように促す。とても自然に。
 動かされたリィは、きっと気付いてもいない。そのくらい絶妙なタイミングで、仕草で、リィの血圧のコントロールをしていた。
 はぁ…………。医者を目指してるのは知ってるけどさ、なんつー気の配りっぷりっていうか、身内としては頭が下がる思いだ。
「司っち、もっと恩着せがましくしないとうちの子気付かないよ?」
 いつだったか、リィが司っちの優しさはわかり辛いと言っていた。
 それもそのはず……。彼が相手にわかるように動いてないのだから。
 それが司っちのスタンスなのかもしれないけれど、涙ぐましい努力に思えてくる。
 ふたりは本屋を出るとビル内のいたるところにある休憩用のベンチに腰掛けた。もちろんこれも司っちの華麗な誘導の賜物。
 俺は唇を読むなんて高等技術は持ち合わせてないから、ふたりのことを見て得られる情報しかないわけだけど、なんとなく見てるだけで会話もわかる。
『何買ったの?』
『あのね、草花の素敵な写真集があったの』
『ふーん。どんなの?』
『えっと……』
『実物見た方が早い』
『あ、そうだよね』
『そこにベンチあるから』
 きっとこんな具合。
 今、ふたりはベンチに並んで座り、リィの買った写真集を眺めている。並んで座っても、律儀なまでの三十リーチ。
 あれ、いつもなんかなぁ……。
 立ち上がり歩き始めると、リィの好きそうな雑貨屋さんがあった。リィはちらちらと気にするけど、珍しいことに司っちは気付いていない。
 そこで、リィは彼の袖をつまみ、控えめに引張った。
「我が妹ながら、なんつーかわいいことを……」
 “手”じゃなくて、“袖”を引張るところがなんともね……。
 しかも、それが計算じゃないっていうのがまた――。
「リィって、俺よりも“天使のような小悪魔”ってキャッチフレーズが似合うんじゃないの?」
 司っちはリィの視線の先に気付くと、さっき買った本を取り上げ、自分はそショップ前のベンチに腰掛けた。
 ふたりでいると否が応でも人の視線を集める。けど、それはひとりになったところで変わらない。
 リィがショップに入ると、道行く人々は不躾な視線を彼に向け始めた。ま、そんな視線などものともしないわけだけど……。
 リィがショップから出てくるまで――そうだな、人を待たせるのが苦手なリィのことだから五分前後がいいとこ。
「今のうちにトイレでも行ってくるかー」
 リィが入ったショップからブースふたつ手前にある通路を入り、外の光を存分に取り込んだトイレに入った。
 用を足し、手を洗っていると――。
「そこのお兄さんかっこいいですね、モデルやりませんか?」
 後ろから声をかけられた。知ってる声、とてもよぉっく知ってる声。
 鏡に映る場所に身を移したのは、ベンチに座っていたはずの司っち。
「あははは……何、司っちも買い物? 奇遇だねぇ……」
 苦し紛れの言葉に止めの一言。
「唯さんのソレ、尾行って言わないから」
「えっ? なんのこと?」
「尾行じゃなくて単なる観察。あんなに視線固定されてたら嫌でも気づく。気づかない翠が鈍いだけ」
「あはは……はははは…………。いつからバレてたのかな?」
「最初から。唯さん、尾行には向かないと思いますよ?」
 にこりと笑うと彼は時計に目をやり、もといたベンチに戻った。そして何事もなかったようにリィと合流する。
 ちょっとかわいいと思ったのに、撤回撤回撤回っっっ!
 尾行がばれてるとわかった俺は、司っちにメールを送りつける。


件名:ねぇっ!
本文:リィとの間、30センチのスペースなんなのっ!?
   手くらいつないじゃいなよ。



 尾行から趣旨替え。司っちいびり。
 司っちは顔色ひとつ変えず、リィが他に意識を逸らしてるうちに返信をよこす。


件名:Re:ねぇっ!
本文:暇なんですね。
   今からすることを見てわからないなら
   観察力もいまひとつってことで。



 何それ。尾行レベルは低いかもしれないけど、俺の観察力まで否定してくれるな。
 俺はじっとふたりを観察した。
 すると、他に意識を飛ばしているリィの手を司っちが掴み、自分の方へと引き寄せる。リィは嬉しそうな顔をした。
 けれど――手がつながれた途端、リィの注意力散漫に拍車がかかる。
 なんていうか……手をつないだことに気をとられているわけじゃなく、手をつないだことで安心しきってほかに意識がいっている。
 さっきよりも如実に進行速度が落ち、そのたびに司っちが手を引張る始末だ。
 なるほど――。
 俺は納得したわけだけど、司っちの行動はそれだけでは終わらなかった。
 人とぶつかりそうになったリィを自分に引き寄せ、その流れで腰に腕を回す。恋人たちにありがちな距離感。
 よしよし、できるじゃないのっ!
 そう思ったのも束の間……リィの動きがギクシャクしだした。それはもう、今にも手足が同時に動き出しそうなくらいに。
 三十センチのスペースがなくなり、司っちと密接していることを意識しまくり。
 顔が真っ赤っていうのを通り越し、首筋から胸元までピンク色に染まる。
 そんなふたりを、俺は対岸の歩道から眺めていた。
「司っち……すんません。君、ホントに苦労してるんだ?」
 手をつなげばリィの注意力散漫に付き合う羽目になり、近づきすぎるとリィがデートを楽しめなくなるほどに緊張する。これじゃ三十センチはキープせざるを得ないよね。
 俺は、なるほど納得、とメール返し追跡をやめて家に帰ることにした。
 最後にもう一度ふたりを振り返ると、間三十センチをキープした状態に戻ったふたりがいた。
 司っち、ファイト……。
 その距離がいつか“ゼロ”になるといいね?
 すんごい時間かかりそうだけど――。


END

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