【77777】キリ番前後賞 【77776】 設定内容
1 誰視点 → 藤宮秋斗
2 カップリング → 藤宮秋斗 × 御園生翠葉
3 設定 → 世間をなめていた頃の秋斗さんと今のままの翠葉さんが同級生だったら?
藤宮の人間にも臆することなく意見する翠葉さん。
“怖いもの知らず”の翠葉さんに「何だ? こいつ。変な女……」と思いつつ
少しずつ気になりだす秋斗さん。
★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
お願い申し上げます。
本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。
注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。
2011/10/19(改稿:2013/09/13)
変な女現るる − Side 藤宮秋斗 −
俺とこの女の出逢いは“人違い”から始まった。
「藤宮くんっ! このあと委員会だよね?」
にこにこと笑いながら声をかけてきた髪の長い女は俺の知らない人間だった。
でも、確かにこれから生徒会とクラス委員の会議は入っている。
「そうだね」
とだけ答えると、
「視聴覚室まで一緒してもいい?」
遠慮がちに訊かれ、俺は笑顔でOKした。
このときはまだ“人違い”されているとは思いもせず――。
話している最中に“人違い”であることに気づく。
「ねぇ、いつも不思議に思ってたんだけどね? どうして藤宮くんはいつも一点マイナスなの?」
は……?
「何? なんのこと?」
女向けの甘い笑顔で訊くと、「テストの件だよ」と言われた。
俺、いつも全科目満点の赤丸保持者だけど……。
「なんか、絶対に取れるのにわざと落としてる気がして……」
と、言うその言葉に納得した。
こいつ、俺を楓(かえで)だと思って話してる。
楓とは、俺と同い年の従弟で、それを知らない人間は容姿での判断ができない。知っている人間ですら間違えることが多い。そのくらい似ているわけだが……なるほどね。
都合いいことに行き先は一緒だし、面白いから少し様子を見てみようか。さて、どこで気づ付くかな?
まぁ、視聴覚室に着けば俺と楓が揃うわけだから、最終的にはそこでジ・エンド……か。
「聞いてる?」
きょとんとした目が俺を見上げていた。
「聞いてる聞いてる。いやさ、俺に同い年の従兄いるの知ってる?」
「あ、うん。噂で少し」
噂かよ……。
「それが常にトップにいるでしょ?」
「……そうだっけ? ごめんね、あまり興味がない人の名前とか覚えられなくて」
はっ、上等……。今まで、興味がないとは言われたことがない。
しかも、楓の隣の学年トップって場所に名前が出ているにも関わらず、名前を知らないときたもんだ。
この女の目は飾り物かっ!?
「それがどうかしたの?」
訊かれたと同時に引きつり笑いを正した。
「いやね、その従兄を立てといた方がいいかな? って」
事実は俺を立てる……というわけではなく、“教師陣に気を遣ってる”といったところだが……。
同得点者は名前順に記すのが定例だが、藤宮財閥会長孫息子がふたり……ともなると、教師陣が通例と同様に扱って良いものかと頭を抱えるらしい。
そんなことが中等部であってから、楓は教師たちに気を利かせ、一点だけ故意的に失点するようになった。
点数が一点でも低ければ得点順に並べられる。そこは違えようがないわけだから……。
くだらない……と、そう思っていた。
そんな教師たちは放っておけばいいものを。
バカみたいなことに悩む連中など、勝手に悩ませておけばいいんだ。
そのバカな連中の中に、定例どおりに俺を先に記すと純粋に思う人間が、一体どれだけいるのか……。大半が、次々代会長候補だから……という理由だろう。
「でも、それってもうひとりの従兄さんに失礼にならないの?」
女の声で現実に引き戻される。
「え?」
「あの、従兄さん? 手……抜かれてると思ったらやじゃないのかな、って」
「あぁ……バカだなとは思ってる」
「え……?」
首を傾げる女に、「アレは誰?」と前方にいる人物を指し示した。
女は俺と楓を見比べ、
「え? え?? ええぇっ!?」
と、慌てだす。
俺たちに気付いた楓が寄ってきて、
「あれ? 翠葉ちゃん、秋斗と知り合いだった?」
楓に声をかけられ女は絶句した。
口をパクパクさせながら、
「藤宮くんがふたり」
ようやく声になる。
「あぁ、確かにふたりだね」
俺は微笑む。
「俺は藤宮秋斗。楓の従兄。よろしく、スイハちゃん?」
それが“人違い”から始まった俺たちの“出逢い”。
*****
その日にあった会議は、高等部に上がってから初の生徒会とクラス委員の合同会議。
俺はそこで女が外部生であることを知った。
楓と同じクラスのクラス委員、御園生翠葉(みそのうすいは)。きれいな響きの名前に、割と整った顔をした女だった。
「けど、痩せすぎだな」
たまたま通りすがりに彼女を見つけ、廊下から見ていた。
思わずこぼした言葉を拾ったのは別の女。養護教諭の玉紀直(たまきなお)。
「翠葉ちゃん? あの子細いけど胸はあるのよ?」
そんなことを年頃の男子生徒に言う聖職者がどこにいる? あぁ……違った、教師は聖職者なんかじゃなかったな。
「なぁに? その顔。抱かないとスリーサイズがわからないなんて、秋斗くんもまだまだね」
言いたいことだけ言って通り過ぎ、歩いて数歩で振り返った。
「あぁ、だからと言って、もっと女を抱けとは言ってないから。ただ、その目が節穴だって言いたかっただけ」
先日、保健室に俺を呼び出し説教をした新任養護教諭は、今度こそ本当に立ち去った。
「ふーん……胸はある、ね。確かに」
全体的には華奢な印象をうけるものの、胸がまな板かと言われたらそうではない。
廊下から観察を続けていると、中庭でカメラを構えていた女が俺に気づいた。
話しかけに来ると……俺は当たり前のように思っていた。
先日は少し話しすぎたか?
女って生き物は、人よりも少し長く話したくらいで自分は特別だと思う輩がいる。調子に乗る前に自分から離脱……と思ったそのとき――。
「え?」
背を向けられたのは俺のほうだった。女は首を傾げながら文化部部室棟へと歩き出す。
気づけば、俺は走り出していた。
桜林館の外周廊下を走り女に追いつく。
「なんで無視?」
笑顔で聞けば、
「別に無視はしてないと思うの」
真顔で言われる。
「普通、そこにいるの気づいたら声かけたりとかしない?」
「……だって、あなたは楓くんじゃないし、クラスメイトでも友達でもないもの」
そう来たか……。
「それに、あなた意地悪でしょう?」
「………………」
先日のアレか? アレを言ってるのか?
「あれは気づかなかったそっちも悪いと思うんだけど? 人違いしてごめんなさいとか、俺、謝られてもいないし?」
「……人違いしたのは悪かったと思うけど――でも、あなた、私が人違いをしてることに気づいてて教えてくれなかったのでしょう? それはどっちがひどいことになるの?」
コレ何……? なんて生き物? 俺を意地悪扱いして、さらにはひどい人扱いしてるけど……?
「とりあえず、俺、“あなた”って名前じゃないんだけど?」
「…………ごめんなさい。名前……忘れちゃったの」
は……?
「この間話したでしょう? 興味のない人覚えるの苦手って……」
気まずそうに話すコレが嘘を言ってるようには思えない。コレが演劇部員だっていうなら話は別だが……。
「あ、あの、従兄っていうのは覚えてるのよっ? ただ、従兄でも苗字違ったりするでしょう? ――えぇと……同じ、だったっけ…………?」
慌ててる目の前の女が演技をできるほど器用な人間とも思えなかった。
……本当に俺をなんとも思っていない!?
「くっ……ホント、変な女」
「……私も“女”って名前じゃないんだけど」
不服そうにむくれる。
「じゃ、改めて……俺は藤宮秋斗」
「私は御園生翠葉」
「よろしく」
手を差し出すと、女は観察でもするかのように俺の手をじっと見ていた。
「……何? 挨拶に握手くらい普通でしょ?」
そう言う俺を一瞥すると、
「んと……藤宮くんには普通でも私には普通じゃありません。では――」
くるりと方向を変えスタスタと歩き出す。俺はすぐにそのあとを追いかける。
「ちょっと……俺、なんかした?」
「……いえ?」
「なんで?」って顔をしやがる。
「ただ、私が慣れないことだから遠慮しただけなのだけども……?」
「あんた、どこの令嬢だよ……」
大きな企業の令嬢なら俺が知らないわけがない。が、現に俺はこいつを知らない。
「み そ の う す い は っ !」
少し大き目の声で、講義するかのように言われた。そして、こう続ける。
「別にこの学校に通う人すべてがお嬢様ってわけじゃないでしょう!? どこの令嬢じゃなくてもそういうのが苦手な人だっているのっ」
言い切るとプンプンと怒ったまま立ち去った。
「……わっけわかんない女」
ふーん……。ミソノウスイハ、ね。覚えておいてやるよ。
*****
二学期に入ると体育祭に向けての準備が始まる。それに乗じて御園生翠葉と顔を合わせることも増えた。
「秋斗……お前面白がってないか?」
楓に言われ、少しね、と答える。
「彼女、お嬢様ってわけじゃないけど、異性が苦手みたいだからあまりからかうなよ?」
どこか呆れ顔で諭される。
彼女が男子を苦手としてることは会って何回目かで気付いていた。俺はそれを知ったうえでちょっかいを出している。
例えば、余所見をすることが多い彼女の不意をついてぶつかってみるとか、ぼーっとしているその隙に頬にキスするとか……。
まぁ、そのくらいのいたずらレベルなわけだが、彼女は面白いくらいに顔を赤く染め、軽くパニックを起す。
「藤宮くんは楓くんと似た顔してるのに、中身が全然違うっ」
そう言ってはしばらく口を利いてくれなくなり、またしばらくすると普通に話してくれる。そんなことをずっと繰り返していた。
“楓と違う”……と、正面切って否定してくれることが、なんだかひどく心地よかった。
“藤宮”の人間としてではなく、まるで俺個人を認めてもらえたような気がして――。
体育祭の準備が架橋に入った頃、人気のない場所で少しさぼっていたら彼女に見つかった。
「藤宮くんはいつもつまらなさそうだね」
彼女は俺の正面にしゃがみこむ。
「そんなことないでしょう? ちゃんと参加してるし楽しんでるよ。今はちょっと休憩中なだけ」
適当にかわせると思っていた。けど、そうさせてはもらえないようだ。
「……私には全然楽しそうに見えないよ。ただ、笑顔貼り付けて仕事こなしてるだけでしょう?」
「何が言いたいの?」
「……別に何も?」
彼女はまだ去るつもりはないらしい。今まで、たいていが俺から近づくことのほうが多かったわけだが、今日は珍しく自分から俺の側に寄ってきた。
「俺に苛められまくってるのに勇気あるね?」
「……意地悪は藤宮くんのデフォルトなのかな? って少し理解しただけ」
おぃ……。いや、強ち外れてもいないけど――それ、本人の目の前で言うってどうなの……?
相変わらず、“わけがわからない女”のままな御園生翠葉。けれど、ほかの女とは明らかに違った。
どれだけかまおうが話そうが、決して図に乗ることはない。何を勘違いするでもなく、俺を恋愛対象にすらしない。
「楓くんみたいにもっと素直にいろんなこと受け入れて楽しんだらいいのに」
「――楓を引き合いに出すのはやめてくれない?」
笑顔は崩さず答えたはずだったが、声は正直すぎるくらいに怒気をはらんでいた。
彼女は、
「悪気はなかったのだけど……」
申し訳なさそうな顔をする。
今の俺の言葉に怯んだとかそういうわけではなく、心から悪かったと思っている顔。
「御園生さんもさ、入学して半年経つんだからそれなりに噂から何か学べば?」
何に苛立っているのかわからない俺は、そんな言葉を彼女に投げていた。
「今……初めて御園生さんって呼んでくれた!?」
え……そこっ!?
「すごいすごいすごーーーいっ! いつもふざけた調子の“スイハちゃん”しか呼ばれたことなかったのにっ!」
彼女は大げさすぎるほどに喜んで見せた。が、本人はいたって真面目に喜んでいるらしい。
ひとしきり騒ぎ終えると、「あのね」と上機嫌のまま話しだす。
「私、噂は嫌いなの。だから、噂から得た情報は自分に蓄積しないことにしてる。私は自分の目で見たものや聞いたものしか信じないよ? だから藤宮くんが言う噂が何かなんて知らないし、知ってても気にしない」
「っ…………」
「第一、その噂があるから楓くんを引き合いに出されるのが嫌なんじゃないの?」
いつもと話すペースも何も変わりはしないのに、妙に的を射たことを言われ、俺は少し戸惑った。
「嫌なら気にしなければいいんじゃないかな? 私はそれで全然問題ないと思う」
「……じゃぁさ。俺のことも名前で呼んでくれない?」
彼女は、「え?」って顔をする。
「“藤宮”じゃなくて名前のほうを呼んでもらえたら、少しは気にせずにいられそう」
「そうなの?」
「たぶん」
俺の作った甘い笑顔にも動じない彼女。
「じゃぁ、私からも一つ提案」
「何?」
「名前で呼ぶ代わりに、私の前で作り笑顔はやめてね?」
「っ…………」
「約束よ?」
笑って立ち上がり、
「またね、秋斗くん!」
軽やかに立ち去った。俺はその場に置き去りにされた。
「何アレ……」
っていうか、勝手に約束して行くなよなっ!?
咄嗟に彼女の立ち去った方を見るものの、もうそこに彼女の姿はなかった。
「変な女、変な女、変な女…………」
「でもいい子じゃない?」
「っ…………急に現れるなっ!」
俺の頭上には養護教諭の顔が覗く。
「失礼ね。ここ、私の職場。保健室の前なんだけど……。むしろ、仕事中に“青春真っ只中!”みたいな会話聞かされてたこっちの身にもなってみなさいよ」
「……若返れていいんじゃないデスカ?」
「だまらっしゃい……私はまだ十分若いっ」
「それは失礼しました。最近、眼精疲労がひどくてよく目が霞むんですよね……」
目をこすって見せる俺に、養護教諭は呆れ顔でため息をつく。
「せっかく名前呼んでもらえるようになったんだから、こんなところにいつまでもいないで学生らしくイベントに精を出してらっしゃい。――あぁ、くれぐれもほかの精は出さないように」
そう言うとピシャリと保健室の窓を閉めた。
「ほかの精って……」
思わず苦笑する。
今、俺の周りは“変な女”盛りらしい。ま、そこらの女よりマシなことは確か。
「御園生さん、ね」
彼女と初めて出逢ったときに感じた“違和感”は今も続く。
これは一体いつまで続くものなのか……。
“違和感”の正体がなんなのか……。把握するのにはもう少し時間がかかりそうだ。
幸い、まだ高校生活は始まったばかり。あと二年半もあればその“正体”にも気付けるだろう。
END


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