【77777】 設定内容   注)PG12です


1 誰視点 → 若槻唯(御園生唯芹)

2 カップリング → 若槻唯 × 若槻芹香

3 設定 → 御園生家で家族全員集合。
       その際のカップリング希望【翠葉×司】【蒼樹×桃華】【碧×零樹】

★ 本編とは一切関係のないパラレルストーリーであることをご了承の上、お読みくださいますよう
  お願い申し上げます。
  本編のイメージが崩れる恐れがありますので、読むか読まないかは読者様のご判断にお任せいたします。

  注)読んだ後のクレーム等はご遠慮ください。
    PG12です。

2011/10/18(改稿:2012/10/16)

 その幽霊実体あり 01  − Side 若槻唯(御園生唯芹) −


「ちょっとっ! そろそろ起きてよ。時間がもったいないっ!」
 何、誰…………。俺、眠い。も少し寝かせて……。
「ゆーいーちゃーんっ!」
 その声と呼び方に飛び起きた。
「何っ!? なんでセリがいんのっ!?」
「あら、悪い? 最近は幽霊だって出たい時に出るのよ」
 そう言ってセリはにこりと笑う。
 確かにセリなんだけど、セリにしては元気そうっていうか……健康そのもの? え? 何、これ――。
「体……平気なのか?」
 そう訊いた俺を笑い飛ばす。
「だから幽霊だって言ってるじゃない。幽霊になってまで苦しいのなんてやめてよね」
 そう言っては軽く肩をバシっと叩いた。
 ちょっと待て……。夢……? 幽霊……? ホントに何っ!?
 また寝ぼけてリィ相手に何かやらかしてるとかそういうオチ!?
 必死に頬をつねってると、
「だから、幽霊だってば」
 セリに両頬を力一杯摘まれた。
「セリ、幽霊ってのはさ……実体が無いものを言うと思うんだ」
「そんなの時代遅れよ。ほら、現に私実体あるし」
「いやいやいやいや…………あったらまずいだろっ!?」
「今日、私の誕生日なの覚えてる?」
 どうやら俺の必死な突っ込みは華麗にスルーされたらしい。思わず頭を抱える動作はやめられそうにない。
「忘れるわけないだろ?」
 現に今日はセリの誕生日を祝うために御園生家に人が集まることになっていた。メンバーは両親にあんちゃん夫妻、それからリィと司っちだ。
 これはリィの提案だった。
「命日もいいけど……。お姉さんの誕生日は?」
 と訊かれたのだ。日にちを答えると、
「その日はお祝いをしよう?」
 と、言い出した。
 すぐに賛成したのは碧さん。
 ――そんなわけで、今日はセリの誕生日が開かれることになっていた。
 実物がいないのにどうやって……という俺の心をわかってくれるのはあんちゃんと零樹さんのみ。
「悪い。傷、抉ったか……?」
 あんちゃんがそう訊けるのは、俺がそこまで精神的にひどい状況じゃないとわかってのことだと思う。方や零樹さんは、
「ふたりに悪気はないんだけどねぇ……。ところで芹香ちゃんいないのにどうやって祝うんだろう?」
 と、真面目に悩んでいた。
 いいよいいよ。別に悪いことだとは思わないし、祝ってもらえたらセリも喜ぶだろう。
 そう結論付けて寝たのは昨夜二時のこと。
 起きろと言われて起きたらセリがいた。

 何だこれ……。本当に夢じゃないのか?
「唯ちゃん、さっきからそればっかり。あっ、一応、幽霊らしく人の思考くらい読めるのよ?」
 やめてくれ。読まんでよろし……。
「だからね? 今日は私の誕生日なのっ!」
「だから何……」
 半ばげんなりと答える。
「神様がプレゼントくれたの! “一日人に見える触れられるドリンク”っていうのがあってね? それを飲んできたのよ」
 にこにことそんなことを言う。
「どうだか……」
「ひどっ! 私の言うこと信じたらご利益あるわよ!?」
「幽霊の言うことにご利益なんかあるもんかっ。むしろ、あってたまるかっ!」
「せっかく会えたのにそんな態度はないでしょっ!?」
「それを言うならセリもだろ!? なんだよ、急にいなくなるは現れるはっ」
「だって幽霊だもん。それに神様の機嫌ひとつでプレゼントもらえるかどうかなんて変わるし? 予告しようにもできないわよ」
 ダメだ……。わかることと言ったら、実体があろうがなかろうが、この魂がセリだってことだけ――。
「ちょっと……とりあえず、俺着替えたいんだけど」
「着替えれば?」
 ベッドに腰掛けにこにこと笑うセリは、シンプルな白いワンピースを着ていた。
 キレイだな……と思う。
「……じゃなくてっ」
「唯ちゃんのエッチ」
「セリっ! 人の頭ん中読むなよなっ!?」
「だって聞こえちゃうんだもの」
 まるで、「仕方ないでしょ?」とでも言うかのような態度。
「そういうこと言ってると犯すぞ」
 ほぼ反射的に出た言葉だったけど、セリは「いいよ」と答えた。
 待て――本当にやばいだろ……。
 えーと、俺とセリは兄妹で、血がつながってて、でもこいつは幽霊で、でも実体があって――。
「唯ちゃん、難しく考えすぎ」
「お前なっ!?」
「私は確かに若槻芹香だったけど、今は単なるセリよ? もう死んじゃったしね? 今はどうやったって唯ちゃんと血が繋がってる妹とは言えないと思わない? なんと言っても幽霊よ?」
「…………」
 もうどう反応したらいいのかすらわからない。なんでもフルパスできるかのように“幽霊”を振りかざされてもね……。
「手始めに……キス、してほしいな」
 そう言ってはにかんで見せた。
「ねぇってば、キスして?」
 これはなんの拷問だ?
「拷問じゃなくて至福の時じゃないの?」
 だーかーらーっっっ。
「――はぁ……」
 その場に座り込み一気に脱力する。
「意気地なし……。病院では何度もキスしてくれたくせに」
 そう言うと、セリはきちんと部屋のドアを開けて出て行った。廊下からはパタパタとスリッパの音が遠ざかっていく。
「俺……まだ寝てる? それとも現実?」

 洋服に着替える頃には大分頭が冷静になっていた。そして思うんだ。
 あいつ、この部屋から出てったけど!?
 今日はこの家に家族全員が揃っている。
「ちょっ、セリが急に現れたらみんな不振人物だと思うだろ!?」
 慌てて部屋を飛び出し一気に階段を下りると、セリはみんなと談笑していた。みんなとは、御園生夫妻にあんちゃん夫妻にリィに司っち。
「あ、唯兄おはよう。昨日も夜遅かったんだってね」
 いつもと変わらないリィの声がかけられる。
「あぁ、うん…………じゃなくてっっっ」
「ん?」
 リィ、「ん?」じゃないだろ……。
 この場でセリの顔を知っているのはリィだけだ。だから、誰が混じろうとリィだけは気づくはずなんだ。
 なのに、この和みっぷりは何!?
「あ、芹香ちゃん。そのボール取ってもらえるかしら?」
「はーい!」
 碧さんがキッチンからセリに話しかけ、セリは当然のように答える。
 何がどうなってこの場に溶け込んでるんだ!?
「唯……何、百面相してるんだ?」
 あんちゃんと桃華嬢が不思議そうな顔で俺を見ていた。
「や……アレ」
 と、セリを指し、
「見えてる?」
 と、訊いてしまう。
「唯、寝ぼけてるのか?」
 そう言うあんちゃんの顔は、冗談とかじゃなくて“真顔”だった。隣でサラダの盛り付けを手伝っていた桃華嬢にも、
「お疲れですか?」
 と、訊かれる始末。
「いや……えっと……」
 とりあえず、みんなに見えてることはわかった。それから、ボールを碧さんに渡してることから実体があることも理解した。
 わからないことは、この場でセリがどういう位置づけにいるかってこと――。
 一瞬目が合ったものの、セリは知らんぷりを決め込む。
 あいつっ……今の状態が何設定なのかくらい教えとけよなっ!?
「セリカさん。ちょっとこっちに来ましょうか……」
 首根っこ捕まえようとすると、
「やぁよ。見て? 翠葉ちゃんのお兄さん怖い顔してるの」
 と、リィの後ろに隠れた。
 あ゛ぁっ!? “翠葉ちゃんのお兄さん”だぁ?
「唯兄……。お姉さんに意地悪しすぎると嫌われちゃうよ?」
 リィの真面目返答っぷりにもあんぐりだ。
「唯、どうしたんだ?」
 唯一、なんとなくまともに見える零樹さんが神に思えた。
「零樹さん……ちょっと脳みそ貸して頂けますかね?」
「ん? あまり役には立たんよ?」
「結構ですっ!」
 俺は零樹さんを引っ張って庭に出た。

「ほい、こんなとこまで来てどうした?」
「あの……俺、記憶錯乱中みたいでして…………」
「ん?」
 あぁ、「ん?」がリィと一緒でなんか少しほっとする。
「セリってナンデスカ?」
「……ベッドから落ちて頭でも打った?」
 真正面から真面目な顔で訊かれた。
「いや、たんこぶも何もないんですが、とりあえず記憶錯乱中ってことで、セリが誰かを知りたいんですが……」
「芹香ちゃんは芹香ちゃんだろう? これ、病院連れてったほうがいいのかな? ちょっと、碧さ――」
 俺は碧さんを呼ぶ零樹さんの手で塞ぐ。
「と り あ え ず っ ! ……アレ、誰です?」
「…………御園生芹香ちゃん。唯のお嫁さんだろ? 唯、さすがに記憶錯乱で奥さん忘れちゃまずいと思うんだ。本当に頭痛とか大丈夫か? 今日は日曜だから明日には病院で検査してもらったほうがいいんじゃないか?」
 内容が飲み込めた……。セリは俺の妹じゃなくて奥さんって設定でココにいるのか。
「今日が芹香ちゃんの誕生日ってことくらいは覚えてるのか?」
「……悔しいことに覚えてます。大丈夫です。記憶錯乱終了です」
 設定さえわかれば別になんてことはない。
 みんなの中で、俺の妹だった“セリ”がどういう扱いになってるのかはわからない。けど、今そこにいる“自称幽霊のセリ”は俺の嫁さんらしいってことは理解した。
 目の前でしきりに心配する零樹さんを、「ちょっと寝ぼけてただけです」とたしなめていると、司っちから声がかかった。それは俺にじゃなくて零樹さんに……。
「零樹さん。碧さんが呼んでます。ロウソクがどうのって……」
「あぁっ! そうそう、俺ロウソク係でね。じゃ、唯、具合が悪いなら早めに言えよ?」
 そう言うと、零樹さんは家に入った。
 まだ少し頭の中が混乱していて、深く深呼吸をしようとしたとき――ポンっと肩に手が乗せられた。
「っ……!? 司っち、驚かすなよなっ!?」
「唯さんが勝手に驚いただけじゃ?」
 あぁ……こにもいつもと変わらない対応の人間が――。
「今日だけなんでしょ」
 え……?
「彼女、ここにいられるの今日だけなんでしょ」
 涼しい眼をした彼は確かにそう言った。



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